14話 コズミの二つ名
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今回はプロローグよりも前の話
とある3Bプレイヤー視点です
BUILDING BASE BATTLERS。
通称3B。
僕は友人に誘われてこのゲームを始めたばかりで、まだよくわかってないことが多い。
ボイスチャットしながらの戦闘はとても楽しいよ。
「始めて10日でギガンタス作っちゃうなんてお前スゴイぜ」
「みんなが協力してくれたおかげだよ。パーツは僕が集めたけど、クラフトして組み上げてくれたのはみんなだし」
「パーツ集めるのが大変なんだっての! 相変わらずお前のリアルラック無茶苦茶だよ」
友人はそう言うが、僕のキャラは戦闘とアイテム収集のスキルに振ってるから集められたんだと思う。
これはゲームなんだし、僕の幸運は関係ないって。
僕はここ数年、運だけで生きている。
宝くじを買えば必ず高額当選。事故や病気に合うこともない。
たまたま入った定食屋で外れたことはないし、傘を持たない時は雨が降らない。
歩くのに疲れている時はタクシーが必ず捕まり、拾った携帯を交番に届けたら持ち主がスゴイ金髪美女で感謝のキスをもらう、なんてこともあった。
なにをやっても予想以上に上手くいってしまうので、人生がヌルゲーすぎてつまらなく感じるようになり最近は外に出歩かなくなっている。
それを心配した友人がこの面白いゲームに誘ってくれたのも、やはり僕の幸運なのだろうか。
「公式サーバーって週末はPVPが解放されるんだったよね?」
「そうだ。今回は大手フリートが助っ人募集してるから行ってみないか?」
PVPってのはゲーム用語でプレイヤーVSプレイヤーのこと。
この公式サーバーでは平日はプレイヤーのキャラ同士は敵対行動ができないけど、土日はそれが解除されて戦闘可能になる。
“フリート”はプレイヤーのグループ。僕も友達のフリートに入っている。まだ10人にも満たないフリートだけど面白い人が多くていいところだと思う。
「いいね。大手同士のフリート戦なの?」
「大手同士は滅多なことじゃフリート戦やらないよ。なんか、基地建設の邪魔をしてくるやつがいるんだってさ」
「ふーん」
週末のPVPだとプレイヤーの基地にもダメージを与えられるようになる。基地を破壊されないための防衛戦なのかな?
うちのフリートも小さいながら基地を持っている。僕がフリートに入る前にできたんだけど建てるのには素材を集めるのに苦労したそうだ。大手の基地なんて大きくてスゴイんだろうな。それを破壊するなんて嫌なやつは許せないよ。
僕たちのキャラクターはギガンタスに乗っていく。
ギガンタスは3Bで最大の人型ロボットだ。設定では200メートル以上ある超巨大ロボ。
失われた技術で造られているという設定なので、基本パーツの損傷が直せないのが玉に瑕だけど、バリアも持ってるから生半可な攻撃は通さない無敵のロボだ。
メインパイロットは僕が任されているけど、各部の台座に追加装備した武器を操作するためにフリートのみんなも乗り込んでいる。
「右肩よーし!」
「左肩OK」
「右腰。後ろの敵はまかせろ」
「左腰ちょっと待ってくれ、ミサイル補充し忘れてた」
みんなで作ったギガンタスでの初PVP。楽しみすぎる。
マップに表示された目的地は拠点である基地からちょっと遠いので飛んで行くことになる。
「偵察隊、行きまーす!」
カタパルトから偵察機に乗った仲間が発射された。
発進設備は基地造りの基本の一つだと基地製作をメインにしている人が教えてくれたけど、たしかにカッコイイ。思わず魅入ってしまった。
「ギガンタス用のカタパルトはまだできてないから自力で行くしかないか」
「格納庫もまだだもんな」
修理ができないので使い捨てになるのがわかってるからか、ギガンタス用の設備を造るのはためらわれるのかもしれない。
基地設備の拡張にも素材を大量消費するので、造りたくても素材が不足しているという大きな理由もある。
「ミサイル入れたぜ」
「それじゃこっちも行くか」
ギガンタスを飛行させて目的地へ向かう。
ただこれ、強いんだけど移動速度は遅いんだよね。
景色や他のフリートの基地を遠目に眺めながらのんびりと飛んでいく。どの基地も見ているだけでわくわくしてくるな。
「こちら偵察隊、戦闘はもう始まっている」
たった1機なのに偵察隊を名乗った仲間から通信が入った。
現地の画像も送られてくる。
「これが目標?」
「……やべえ! 見覚えある座標だと思ったらここ、神魔の校しゃじゃねえか!」
映っているのはボロボロな学校の校舎だった。バリアを張ってはいるが、攻撃しているロボの数が明らかに尋常じゃない。これが全部同じフリートに所属しているとしたら大手すぎる。
「神魔の校舎?」
「校舎のしゃが平仮名なのはコダワリらしい。あの学校を本拠地にしているフリートで人数は少ないけど、このゲームがアーリーアクセスの頃からの最古参のベテランばかりだ」
「これ以上近づくな! あの校舎は見た目はボロいけどうちの基地なんて目じゃない戦闘力を誇る」
なにそれ。すっごい見たいんですけど。
たしかに見た目は鉄筋が見えるほどに半壊したオンボロ校舎なのに、ドーム状に展開されているバリアにはヒビ一つ入っていなかった。
「あのバリアって割れるの?」
「たぶんそのタイプだと思うけど……耐久度メチャクチャあるみたいだな」
ギガンタスほどではないが大型の部類に入る攻撃側のロボの必殺技っぽいビーム攻撃にもビクともしていなかった。
「もしかしてビーム吸収持ってるんじゃないか?」
「引き返すぞ! このギガンタスじゃ駄目だ!」
「これ以上のロボなんてうちにあったっけ?」
フリートの最強戦力だってみんな喜んでいたのに。
そう思いながらも偵察機を残して、ギガンタスを基地へと向かわせる。
「このギガンタスはペイントすら済んでいないただの素組みだからな。こんなのであそこへは行けないっつの」
「え、でもちゃんと戦えるよね?」
「バカヤロウ! シンデレラだってドレス着なきゃ舞踏会には行けなかっただろうが!」
「ドレスコードあんの!?」
クラフトレベルが一番高い友人に怒鳴られてしまった。
いつも温和な彼がここまで怒るなんて。
「いいか、神魔の校しゃにはな、3B全クラフトプレイヤーの憧れと言ってもいいコズミさんがいるんだ! 最高のロボで行かなきゃ失礼だろう」
「コズミさん?」
「俺さ、コンペティションイベントん時にアドバイスもらったことあんだぜ」
「俺だってコズミックシリーズの前で記念スクショしたのが何枚もある。今回も急いで録画の準備した」
みんなのテンションがスゴイ。ギガンタスのパーツを初ゲットした時と同じかそれ以上な気がする。
僕も録画しとこうかな?
「それでさ、攻撃側につくのか? 大手フリートの助っ人なんだよな?」
「なにを当然のことを聞いてんだ。神魔の校しゃにつくぞ。お世話になったし」
「そうだよな。なんで戦うことになったかは知らんけど、基地建設の邪魔なんてするようなフリートじゃない」
「おっけ! 友軍申請出しといたぜ」
フリート戦では友軍申請することでレーダーその他の画面表示がわかりやすくなる。
だけど公式サーバーはフレンドリーファイアもある設定だから油断はできない。
「お、ついに基地にダメージが?」
偵察機から送られてくる画面には燃えさかる校舎が映っていた。
火災は被害が広がっていくというロボや基地における状態異常だ。
「バリアはまだ健在みたいだけど?」
「え? あ、サイレンが近づいてきた」
サイレンの音とともに大きな消防車と救急車が校舎に向かって道路を走ってきた。かなり速く、攻撃側のロボを蹴散らしながら校舎へと激走している。
「サポートマシン?」
公式サーバーではプレイヤーのサポートとして基地の火災を止める消防車、キャラクターの負傷や状態異常を治療する救急車が巡回している。通報で呼ぶことはできないので、ほしい時にいないことも多い。
「ちゃう、PVPの時はサポートマシンは出ん。あれは!」
バリアを素通りして校庭に侵入した消防車が放水で一気に鎮火すると、ぐいっと起き上がり、続いて高くジャンプしてバリア内に入った救急車とドッキングする。
「変形合体!?」
「そうだ! あれこそがこのサーバーのアイドル、コズミックシリーズ135式、通称ヒミコたんだ!!」
バシュッと梯子を空高く打ち上げた消防車がギゴガゴと変形して下半身を形成していく。この形は袴?
救急車の方も和服っぽい上半身になって、頭部からは長い黒髪が現れる。
あまりにも一瞬で工程がよく見えなかったが巨大な巫女型ロボが完成し、落下してきた梯子をキャッチすると、それからビームのヒラヒラが生えて槍のように巨大な祓え串となった。
「サポートマシンってこんな機能あったの?」
「ああ、お前はまだ見たことがなかったか。正月や祭りのイベント時は合体してるぞ。もっともそれは量産型で今見てるのがオリジナルだ」
「そう、コズミさんが造り出したヒミコたんは辻ヒーラーとなって活動している。それに感銘を受けた運営がコズミさんの協力の元に開発したのがサポートマシンなのだ!」
「俺もピンチを助けてもらったことがある。その時はまさか誰も乗ってないなんて思ってなかった」
「ヒミコたん萌へ!」
二台の車両が合体したとは思えないほどの見事な人型の135式。最初から女性型としてクラフトしたようにしか見えない。タイヤどこいった!?
その顔はロボよりも生身の人間みたいでたしかに美人だった。
「いくらなんでも元と形が違いすぎる!」
「3Bの変形合体ってのはどちらの形態でも同じパーツを全て使っていればけっこう融通が利くんだ。まああのレベルを作るのはかなり難しいけど」
「さすがコズミさんだろ。コズミさんは可変機を得意としていてチェンジマスターって二つ名があるんだぜ」
僕たちの会話の間に巫女ロボがブンブンと巨大な祓え串を振っていて、それからメッセージを発する。
『お言葉を伝えます』
喋るのか。そういえばサポートマシンも喋っていたっけ。
祓え串の先から光が広がって映像が映し出される。立体映像かな。時々ノイズが走るのが芸コマだ。
映し出されたのは、たぶん男のキャラクター。たぶんなのは性別が判りにくいから。名前も女性みたいだから女性キャラなのかもしれない。
一言で言えば学ランを着た眼鏡のミイラ。応援団のつもりだろうか、学ランは長ラン。ちゃんと学帽も被っている。
「属性盛ってるなあ」
「あれがコズミさんだ」
「うおおおっ! コズミさん! コズミさん!!」
友人のテンションが凄い。
そういえばアイツのキャラも学生服装備だ。影響を受けているな、間違いなく。
『ジャスティストルーパーズの諸君、そしてそして他のギャラリーの方々、今日は俺のために集まってくれてありがとうありがとう』
違うというつもりか、攻撃側フリートのロボからミサイルが立体映像に向けて発射されたがバリアに阻まれた。
あれがジャスティストルーパーズかな?
「コズミさんの話を最後まで聞かないなんてマナーのなってないやつがいるな」
『ただ今の攻撃を持ってジャスティストルーパーズが我が神魔の校しゃに宣戦布告したと了解する。こちらも反撃に移るが文句はあるまい』
立体映像が包帯だらけの指先をパチンと鳴らすと、さらに空中に投影される映像が増えた。
写ったのは巨大な建物。どこかの基地だろうか?
ただのビルにも見える窓の少ない銀色の直方体。
「あれはジャスティストルーパーズの本拠地、スカイバータワーだ」
「なにそのパチモンくさいネーミング」
そのビルの中ほどが急に爆発した。
大きな爆発だ。うちのギガンタスがミサイル全弾発射してもあれほどにはならないだろう。
「あっちにはバリアなかったのか」
「そんなわけあるか、かなり強力なバリアがあったはずだ」
「ほら、映像の端っこで空中の六角形の塊がいくつか抜けているだろ」
バリアってあんな風に破られるのか。うちの基地にもバリアにもあんのかな。
ビルの爆発はまだまだ続く。あ、ビル上部がいきなり消えた。支えが無くなったからってこと? 3Bの構造物の破壊ってそんななんだ、初めて見た。
『他の拠点のいくつかも攻撃させてもらおう。なにしろなにしろ今日は俺の公式サーバー引退ゲームだ。弾の出し惜しみはしない』
切り替わった映像にはさっきと全く同じビル。ただし無傷なので別の拠点ということか。それに向かって巨大なミサイルが飛んできた。バリアに阻まれて爆発するが、その規模が尋常じゃない。
「核ミサイル?」
「3Bには核ミサイルはない。たぶん、ハルマゲドンミサイルだ」
「あれは公式サーバーじゃ禁止されててもう作れないんじゃなかったか?」
「そうだ。ただし運営が禁止する前にクラフトされた分は別。運営に提出すれば代わりのアイテムと交換できたけど、古参のプレイヤーがまだ大事に持っているってのは本当だったのか」
ハルマゲドンミサイルの爆発がおさまった後には巨大なクレーターしか残っていなかった。
バリアがあっても関係なさそうなんて、たしかに禁止武器になるのも納得の破壊力だ。
『あの砂漠にはボール鉄山さんのピラミッド型基地があったんだ。小さいながらも風景にマッチしたいい、いい基地だったよ。ジャスティストルーパーズが基地建設をするって追い出して破壊しちゃったけどね』
また映像の風景が切り替わる。今度は崖の上にやはりさっきから見てるのと同系のビルがあった。
今度は真上からぶっといビームが落ちてきてバリアごとビルを焼いていく。
「え、衛星砲?」
「そんなのあったっけ?」
「まさか掲示板で噂になってた飛行要塞の空中楼閣か? 実在したとは!」
そこそこやり込んでいると自負するフリートメンバーたちも知らない攻撃らしい。
あ、ビルが消えて中の倉庫に保管されていたアイテムが放り出されて落ちてくる。
『あの海岸にはケントロスフリートの基地があった。渦潮を利用したロボの発進プロセスは見事な見事なものだったよ。だがジャスティストルーパーズとの戦いで破壊されてしまった』
その後もビル基地の破壊映像が続き、その度にコズミは元々どこの基地があってどう素晴らしかったかを述べて、それを奪ったのがジャスティストルーパーズだと責める。
「なあ、さっきから紹介されている基地ってさ、美しい基地10選で紹介されたのばかりじゃないか?」
「うん。俺も見に行ったことがある基地ばっかだ。去年ノミネートされてなかったけど、そんなことになっていたのか」
『PVPができる仕様上、ジャスティストルーパーズの行為も仕方のないことなのかもしれない。しかし、この基地と同じく多くの場所が資源や希少敵の出現位置から遠く離れた、景観以外の価値がない土地。そこを奪って代わり映えのない豆腐ビル建築を続ける行為、許しがたし!』
ビッとコズミの立体映像が指差した先には建築中のビルが見える。
あの基地の建設を邪魔していたのだろう。
『あそこに基地を作られたらここのベストアングルから富士山が隠れるじゃないか!』
えっ、そんな理由?
最後で思いっきり言ってることが私怨というかワガママレベルになったのだけど。
「さすがコズミさんだ!」
「うむ。それならこの仕打ちも納得できるな」
友軍登録のせいかうち以外のフリートのボイスチャットも拾えるようになってるんだけど、かなりの人数がコズミを褒めていた。
「それだけでここまでするのはやり過ぎだろ! 本拠地と拠点をいくつも破壊するなんて!!」
「そう思うんならお前、コズミさんを止めてこい」
「ええっ?」
「そうだな。公式サーバー引退とか言ってから今しかチャンスはないぞ」
友人から「これが今の俺の最高傑作」だというロボを与えられた僕のキャラは、友軍だとロックオンができなくて戦いづらいからと一時的にフリート登録を解除されて出陣する。
フリートのみんなから連絡が行ったのか、ジャスティストルーパーズの基地破壊を続けるかたわらでコズミは僕と一対一で戦ってくれた。
ジャスティストルーパーズのロボは基地の防衛設備や、神魔の校しゃとフレンドになった人たちが戦闘中だ。
神魔の校しゃ友軍機の数は確実に百を超えているんじゃないかな。
「さすがに人数が多すぎて重いな。場所を変えよう」
「あ、ああ」
人の少ないとこに移動して戦闘開始。
で、あっさり負けた。僕の得意な近接戦闘にすら持ち込めなかった。
「そんな……あいつの最高傑作が!?」
いくらなんでももう少し戦えると思っていた僕は打ちのめされる。幸いと言っていいのか、脱出に成功したのでキャラは死亡しないで済んでいた。
「コンセプトのはっきりわかるいい機体だった。勝敗の差はパイロットの腕だ、気にするな」
いつの間にか近づいていた学ランミイラが僕を慰めようとして貶める。
そのパイロットの差って僕が駄目ってことじゃん!
「なんだ、君が作ったロボじゃなかったのか」
「倒すべき目標になれるあんたは今日でこのゲームを引退しちゃうんでしょ。僕はこのゲームでなにを目標にすればいいんだよ」
「そんなの自分で決めろ。サンドボックスゲームってのはそういうもんだ」
そりゃそうかもしれないけど。
僕が落ち込んでいる間にフリートの連中がやってきたのでフリートに再登録。
どうやら、偵察機が僕たちの戦いも中継していたらしい。
「コンセプトのはっきりわかるいい機体だったってさ」
「うん。股関節のパーツの使い方とかいい目の付け所だと思うよ」
「本当ですか、あそこ自信あったんすよ! さっきの戦いで改善点も見えてきたしコズミさんの機体も録画できた。今日は最高だ! ……コズミさんが引退しちゃうことを除けば」
テンションをさらに上げたと思ったら急降下させる友人。やつのキャラも膝を抱えてイジイジとのの字をかき始める。そんなモーションあったんだ、知らなかった。
「股関節のパーツなんて褒められて喜ぶとこなの? 僕には違いがよくわからなかったんだけど」
「キミ、3Bをやってどれぐらいになる?」
「まだ10日だよ」
「そうか。どおりで。ほとんどキャラ育ててないだろ」
「だって必要なかった」
フリートの仲間が必要だというスキルはちゃんと取っている。
それだけで敵にはちゃんと勝てていたし、ギガンタスだってパーツ全種類集められたぞ。
「低レベル縛りとか個人のスタイルだから強くは言わんが、それじゃできることが少なくて少なくて楽しめないぞ」
「誰にだって勝てた」
「直接戦闘だけがこのゲームじゃないっての。だいたい、俺には負けたろ。10日程度じゃ誰にだって、なんて言えんぞ」
「そりゃあんなチート武器使われちゃ……」
僕を撃墜したあのビームはまるでアニメのスーパーロボの必殺攻撃そのものだった。
「あれはチートじゃない。レベルを上げて対光線スキルや、さっきのロボが持っていたシールドを有効活用していれば少しは持ちこたえられた」
「少しは?」
「俺の奥の手はあんなもんじゃない」
基地破壊の時に見せた攻撃以上の奥の手があるということ?
3Bの課金アイテムってキャラクターやロボの外見をコーディネイトする物ばかりだから、お金をつぎ込んで用意したわけじゃないんだろうな。
「キミさ、取りあえず建てた仮拠点が取りあえずにならなくて、長い間そこで過ごすことになったことはないか?」
「え?」
「あります!」
フリートの完成済みの基地でしか過ごしたことのない僕のかわりに友人が反応した。
「欲しいパーツを集めるためにこさえた急造ロボが愛着わいて、目的のパーツが入手できても、結局急造ロボを使い続けたことは?」
「それも!」
「どうやっても勝てない相手に勝とうと、手持ちをやりくりしてチャレンジしたことは?」
「やりました! それでも勝てなくて大損害出すまでがセットで!」
他のフリートの人だろうか、人が増えているな。
もう基地防衛戦は終わったの?
「理想のデザイン再現のために、強さを取るか、見た目を取るか悩んだことは?」
「しょっちゅう!」
「いつも悩んでる」
もはやどいつが話してるのかさっぱりわからなくなっている。
「悩んで悩んで再現に成功したロボがアップデートでパーツのデザインが変わってしまって、なんか違うってことになった経験は?」
「あの時は代わりのパーツ、みんなで探したなあ」
3Bのクラフト関係のあるあるで盛り上がっている。
なんか羨ましい。
「そんなに好きなら止めなきゃいいのに」
「全くそのとおりだ。だがだが、こればっかりはしょうがない。俺はリアルでカウントダウンを受けたからな」
僕の呟きを聞いたコズミはジョッキを出してビールを一気に飲むと寂しそうにそう言った。
そんなモーションもあるのか。でも包帯マスクのままビールを飲むのは変な感じだ。
「カウントダウン?」
「医者からの余命宣告だ。あと3ヶ月ぐらいだってさ」
余命……宣告?
え?
あと3ヶ月で死んじゃうってこと?
「す、すみません!」
えっと、土下座モーションはどのキーだったっけ?
「気にするな。うちは代々短命な家系でね。俺も長生きできるとは思ってなかったんだ。だから覚悟はできているつもりだ。死ぬまでは好きなことをやるつもりだし」
「なにをするんですか?」
「もちろん3Bさ。公式サーバーは今回で引退するが、自鯖を立ててそこで理想の基地を建てる。MODも入れるつもりだ」
3Bは個人サーバーでもプレイができる。開放してて他人が入れるようにしているとこもあるらしい。行ったことないからよくわからないけど。
MODってのはなんの略だかは知らないけど、ゲームの非公式パッチのことだったはず。3BはMODも入れやすい仕様らしく、多くのMODが出回っている。
「死ぬ前には基地を完成させて鯖を開放する予定だが間に合うかはわからん。その時俺は幽霊かもしれんがまた皆と会いたいものだ」
「俺、必ず行くっす!」
「俺も!」
「自分も! このロボをもっとキレっキレに仕上げて行きます!」
そして始まるロボの品評会。次々にロボを出していくプレイヤーたち。
「君は出さないのか?」
「完全に僕が所有者のロボってまだないんですよ」
ギガンタスがそうなんだけど、さっき友人にああ言われているんで出し辛い。彼が言った意味が今ならよくわかるよ。画面に映るロボたちはみんなスゴイ出来だった。
「そうか。ならばこれを使うがいい」
コズミさんがリモコンを操作して呼び出したのはオレンジ色のレシプロ機だった。
名前は……チェリーブレイカー?
「赤トンボっすね」
「赤トンボ?」
「赤トンボてのは旧日本軍の練習機の通称だ。色もそんな感じだったはず」
『わかってるじゃない』
無人のレシプロ機から声がすると、それがギゴガゴ変形してロボットになった。
『そう。お姉さんは練習機。お姉さんに任せれば操縦関係のスキルのほとんどをアンロックできるわ。お姉さんに乗ってレベルを上げて腕を磨きなさい。ボ、ウ、ヤ』
「喋った!?」
「こいつにボウヤと呼ばれなくなったら一人前のパイロットだな」
「ここまでセッティングしてるんですか。さすがコズミさんだ! こんなにまでカスタマイズできるソウル……なにを使ったんです?」
ソウルってのはロボを動かすのに使う制御プログラムだっけ?
機体のパーツだけじゃなくてそれを集めるのも3Bの重要な目的だ。
「キャリフォルニアベースのモブロイドのオペレーター」
「えっ? あそこにそんなのいましたっけ?」
「いるのは知ってるけど、ソウルなんか奪ってたら基地の自爆イベントから脱出できないはず」
「そこはまあ、いろいろと準備して、だな。性能はそこまですごいソウルじゃないが、声がイイだろ?」
たしかにロボのくせにすごいエロ……色っぽい声だ。
チェリーブレイカーの全身を鑑定していた友人がやっと僕のところにきた。
「使われてるパーツのほとんどが+10以上だった……スゲエよお前、コズミックライダーになるなんて!」
コズミックライダーってなんなの?
さっき135式をコズミックシリーズって呼んでいたけどコズミさんの作品に乗るやつのことでいいのだろうか。
「いいんですか?」
「ああ。老兵からの選別だ、受け取ってくれ」
「ありがとうございます!」
「いいか、その装備に拘るなよ、気になったら自分に合う用にどんどんどんどん改良してくれ」
そう言われても……そうだな、これに相応しいパイロットになろう。
「よろしくな、相棒!」
『お姉さんはボウヤの保護者よん。相棒なんて百プレイ時間早いわぁ』
意外と短いな?
いや長いのか……。
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