11話 心の棚にUPれ
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タイトル迷走中でごめんなさい
アオイちゃんの回復魔法での治療のおかげで、けっこうやばかった俺のHPはかなり回復した。落下でのダメージ以上に治ったみたいだ。
俺の寿命にアディショナルタイムが追加された気分である。
「もういいよ。MPは大丈夫か?」
「うん。これぐらいならまだ戦える」
「いや、あいつの死亡を確認できたらさっさと家に戻ろう。疲れた」
傷は治ったが体力が完全回復したわけではない。
それに空腹の状態異常が起きるほどではないが腹も減っている。
慎重に巨鳥の落下地点に向かうと、やつはピクリとも動かずに死んでいた。
◎◎◎◎◎◎
ロックンバード:オス
モンスター:LV10
死体
◎◎◎◎◎◎
うん。簡易判定でもちゃんと死体って表示されてアイテム扱いになっている。
それでもゆっくりと近づいて見上げる。
「バカでかい鳥だなあ。ここ、こんなのがウヨウヨいるのか?」
「私もこの世界に来て何日か経つけど、ここまで大きな鳥は初めて。これだけあれば久しぶりにみんなお腹いっぱい食べられる!」
「みんな? ここにいるのはアオイちゃんだけじゃないのか? 他にも来ているの?」
「むこうにいる8組のみんな。……私と同じ出来損ない」
喜んでいたアオイちゃんの顔がしゅんと落ち込んでしまった。
出来損ないって、相当気にしているみたいだな。
あと、アオイちゃん以外のクラスメイトもよい境遇じゃないのかもしれない。普段満足に食事を取れてないような口ぶりだし。
「こいつって、食えるのか?」
アイテムボックスへの収納を試すと何トンもありそうな巨体もすんなりと入ってしまった。
3Bだと本来、死体等は解体して肉やドロップアイテムにしないとアイテムボックスには収納できないのだが、それが可能になるMODも使っていたのでそのまま収納できてしまう。
「消えた。コズミがなにかしたの?」
「アイテムボックスにしまったんだよ。食えるかどうかは家に戻ってから調べよう」
こんな場所でのんびり会話をしていたんじゃ、いつまた別の巨鳥が襲ってくるかわからん。
転んでついた汚れも落としたい。
早く帰って、風呂、飯、今日はもう寝る。
……アオイちゃんのような美少女が俺んとこに泊まる?
いやいやいや、まずいんじゃないでしょうか?
あとで怖いお兄さんがやってきて脅してきたりしそうで。
ってのはないか。
家には既にあげているんだし、今更である。
独身男性宅にありがちな、女性に見られたくない物は実は我が家にはそんなにない。存在するのはパソコン内にのみ。
だってだってもうすぐ死ぬのがわかってんだからさ、そりゃ処分するでしょ。
……まてよ。
俺の3B自鯖設定がバレているってことは、パソコン内の他のデータもあいつらに見られてしまっているのでは?
うわあああぁぁぁぁぁぁ!!
どうしよう?
どうしようどうしよう!?
特選フォルダ内の画像データなんて知られたくなさすぎる。
いや、きっと大丈夫だ。パスワードもかけているし。
もし、もしも見られていたとしても、きっと大人の対応をしてくれるはずだ。見なかったことにしてくれるさ。
……そう信じるしか、俺にはできん。この案件は心の棚にUPって脳内からは削除だ!
◇
デリケートな問題に悩んだせいか、気づけば換金モノリスにたどりついていた。
心配していた玄関ドアも無事。帰宅してドアに鍵をかけてやっと一息つく。
「ただいま」
「おじゃまします」
「イラシャイ」
いかん。意識すると緊張してしまう。
なんかカタコトっぽくなってしまった。
「ふ、風呂を用意するからちょっと待ってて」
「うん」
っていきなり風呂の用意とか、勘違いされてしまうんじゃないだろうか?
おっさんな俺に身体を狙われているなんて思われてたらどうしよう。
……大人になるってその意味も知らなかった子だから、そんな心配はいらないか。
風呂の蛇口からお湯が出ているのを眺めながら考える。
水道もガスもちゃんと使えているよなあ。配管どうなっているんだろう?
さっき確認したら窓の外は真っ白な世界になっていてなんか宙に浮いているようでちょっと怖かった。カーテンすぐ閉めなおしたよ。
ベランダには出たくないけど洗濯物や布団干せないと困るし、どうしたもんかなあ。
アオイちゃんの着替えはスウェットの上下でいいかな。まだまだほとんど新品だ。男物で大きいけど、なんとか着れるだろう。下着は我慢してもらうしかない。
「アオイちゃん、お風呂用意できたよ」
「もう? 魔法で沸かしたの?」
「そうじゃないけど……そんな機械があると思ってくれればいい」
湯沸かし器の説明なんてする気力は残っていない。3Bのアイテムの説明なら延々できるけどさ。
アオイちゃんに蛇口とシャワーの使い方を教えて、先に入ってもらう。レディファーストは当然だろう。
俺も早く入りたいけど、風呂の準備中に身体を軽く拭いたから我慢できる。
「コズミもいっしょに入らないの?」
「そういうわけにはいかんでしょ。俺は夕飯の用意をするよ。なにか食べられないものってある?」
「なんでも食べる。ごはん、いいの?」
「ああ。まあ、男の料理だからあまり期待しないでくれ」
いきなりなにを言い出すかな、この子は。
あっちの知識がないから怖いもの知らずなのかも。
万が一、一緒に寝ようとか言われて動揺しないように客用の布団も出しておくか。
◇
風呂上りのアオイちゃんは、三割増しぐらいで美少女度がパワーアップしていた。
うん、一緒に風呂になんて入ってたら俺が暴走していたかもしれない。
落ち着け俺、よく考えるんだ。
俺の娘でもおかしくないぐらいの年齢差だぞ。そんな小娘に欲情してどうする。
「おいしい!」
嬉しそうに箸を動かすアオイちゃん。
彼女は幼い頃に父親から箸の練習を受けたことがあったとのことで、箸の扱いも問題はなかった。
夕飯のメニューは、ご飯、味噌汁、野菜炒めと焼き鮭。
退職してから3B三昧の生活をしていたけど、買い物の回数を減らすために食材その他を多めに買い込んであってよかったよ。
「ご飯と味噌汁はおかわりもあるから、しっかり食べてくれ」
「いいの!?」
いや、そんなにそんなに驚かなくても。
本当に普段どんな食生活なんだろう。
「客がくるなんて滅多にないから調子にのって作りすぎた。気にしないで食べてくれ」
「うん! ありがとう!」
そんないい笑顔でお礼されたら明日の朝食もがんばりたくなるじゃないか。
くっ、こんなことならハーケンキャッツのアイスも買っておくべきだった。
なのに、次第にアオイちゃんの表情が曇ってきてしまって。
「私だけ、こんな美味しいものを食べていいのかな?」
「うん?」
「8組のみんなにも食べさせてあげたい……」
よく見たらアオイちゃんの目はうるうるしていた。
ホームシック?
「さっきも言ってたな。8組って?」
「機神巫女科の8組は私のような出来損ないが入ることを義務づけられているクラス」
「出来損ないって、そんなことはないってさっき証明できたじゃないか」
「ううん。本当の機神巫女はあんな変な形じゃなくて、人の形にマシンナリィする」
マシンナリィってのは変身のことだろうか。
人型って巨大ロボってこと?
いや、人間が変身するんだからロボってのはおかしいのかな。
「人型じゃなくたってあのモードのアオイちゃんは強いと思うが」
「人の形でなければスキルや必殺技が使えない。だから私たちは出来損ない」
むう。よく巨大ロボットへの考察で「人型である必要性がない」なんて身も蓋もないことをいうやつがいるけど、アオイちゃんのとこは必殺技とかを使うために人型の方がいいのか。
「そんなに違うのか?」
「うん。出来損ないの何倍も強い」
しまった。どう慰めていいのかわからなくなってきた。
これ、俺がアオイちゃんのパートナーとして、あっちに行ってもあんまり意味のないような気がしてくるんだけど。
「スキルで飛べたりするのか?」
「……空を飛ぶ機神巫女はいないはず」
「それだけでもアオイちゃんの方がスゴイじゃないか」
「そうなの? でもスキルを使う機神巫女なら、飛んでいる相手でも弓や魔法、必殺技で攻撃できる」
戦闘前提なのね。
ま、巨大ロボが農作業用って言われてもそれはそれで悲しくなるが。
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