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9話 荒野の決闘

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今回は三人称

 フロマ学園から徒歩で1日ほど離れた巨大な荒地、パレタ荒野。


 古来より機神巫女(マシニーズ)たちの戦いの地となったこの場所は現在、学園の機神巫女(マシニーズ)生徒の演習場となっている。


 その荒地にて向かい合う二体の巨大な影があった。

 片方は血紅色(クリムゾン)のスリムな鎧に身を包んだ巨人騎士。左肩だけが灰紫色(モーブカラー)になっている。

 対峙するのは重厚な灰色(グレー)の重鎧の巨人騎士だ。

 どちらも剣と盾を手にしている。


 身の丈18メートル前後のどちらも機神巫女(マシニーズ)であるのだが、血紅色の方はフロマ学園の学生クリム。灰色の方はズーラ帝国の将軍グレーシャンであった。


 二体を見下ろす小高い丘、指揮台や指揮者の丘と呼ばれるその上に数名の人間がいた。

 金糸がふんだんに使われ、ヒラヒラの多い服を着た小太りの少年が指差すのは勇者科の学生勇者モーブ。


「ふふん。庶民の勇者よ、謝るなら今のうちだぞ。這いつくばって許しを請い、クリムのパートナーを辞すがよい」


「悪いけど先輩、それは無理だ。もう申請が受領されたってクリムが言ってる」


「その程度、余の力でどうとでもなるわ」


 小太りの少年はチャーライ・ズーラ。

 ズーラ帝国の皇子であり、クリム・パイプルーンの婚約者でもある。

 彼は自分がクリムのパートナーに選ばれなかったことを不服に思い、自分の方が相応しいとこうして決闘を挑んできたのだ。


『お断りですわ、皇子。ワタクシにはモーブくんという強いパートナーが必要なのですわ』


 モーブの手の機神の護符(アミュレット)からクリムの声がする。

 本来はパートナーにしか聞こえない声だが、機神巫女(マシニーズ)の意思でこうして他のものたちにも聞こえるようにすることができる。


「クリム、それではまるで余の方が弱いようではないか」


『もちろんそう言っているのですわ。いくらワタクシが帝国貴族の一員といえど、いえ、なればこそ皇子の慢心を諌めるのは当然なのですわ』


「ええい不敬な! 余が婚約者でなければ許されぬ物言いであるぞ」


『ならば即刻婚約解消してくださいませ、ですわ』


 クリムはこの婚約者と結婚するつもりなど毛頭なかった。アオイのことがなくてもモーブか、チャーライ以外の者をパートナーとしたことだろう。


「ふふん。そう言っていられるのも今の内だ。余が機神巫女(マシニーズ)の使い方というものを教えてやろう。庶民勇者よ、余が勝てばクリムとのパートナーを解消せよ」


『ならば皇子、ワタクシたちが勝てば婚約解消してもらうのですわ!』


 ビッと剣を丘に向ける血紅色の機神巫女(マシニーズ)

 その迫力にチャーライは若干後退る。


「よ、よかろう。勝つのは余である」


『さっきから聞いてりゃ皇子、戦うのはあたしなんですけどねぇ』


 チャーライの持つ護符から女性の声がした。彼の持つ護符はモーブの護符と違い、ほとんど光を発していない。


「ふん。パートナーのない貴様を使ってやるのだ。感謝するがいい」


『パートナーってのはそういうモンじゃないって何度説明すりゃわかんだか……いいでしょう。さっきの賭け、この帝国北軍将軍グレーシャンが証人となります』


『ありがとうございますですわ!』


『けどなパイプルーンのお嬢ちゃん、お荷物がいるとはいえあたしは強いぜ』


 なにしろグレーシャンは帝国最強の機神巫女(マシニーズ)と呼ばれる騎士なのだ。

 本来ならこのような決闘を行う立場などではない。


『望むところなのですわ!』


『いいねえ』


「余抜きで話を進めるな! ええい、始めるのである!」


「は、はい」


 モーブが了解したので巨大な二機(ふたり)も頷き、構えなおしてから戦闘開始となった。



 ◇



 クリム機の鋭い斬撃を盾で受け止めるグレーシャン機。クリムは追撃を行わず、すぐに間合いを取る。


「圧されているぞ将軍! もっと気合を入れんか!」


 光のほとんどない護符に向かって怒鳴るチャーライを横目にモーブも冷や汗をかいていた。


「すごいね、さすが最強の将軍だ」


『ええ。あれが受け止められてしまうなんて驚きですわ』


 クリムは同級生どころか上級生の機神巫女(マシニーズ)であっても、今の攻撃なら倒せる自信がある。それが易々と盾で止められてしまったのだ。

 しかもチャーライは圧されていると言ったがそうではない。グレーシャンは一歩も動いていない。その場から動かずに盾だけでクリムの攻撃を捌き続けている。

 あまりの余裕っぷりにモーブは思い切った行動に出ることにした。


「こうなったらアレしかない、やろうクリム!」


『アレって……アレはまだ一度も成功してないのですわ!』


「クリムならできる。俺は信じてる!」


『モーブくん……わかったのですわ! モーブくん、力を貸してくださいなのですわ!!』


 クリムの返事と同時に、左肩だけだった灰紫色が両肩になってクリム機を(いろど)った。

 それを見て戦闘開始以後初めてグレーシャンが皇子に声をかける。


『皇子、あいつらやる気みたいだね』


「な、なんだと?」


『こりゃ必殺技(マシンアーツ)がくるよ、こんな模擬戦用の剣と盾じゃ受けられないぞ。どうする?』


「な、ならばこちらも必殺技だ!」


 それを聞いて内心で巨大なため息をつくグレーシャン。やっぱりこいつ、なんにもわかってない、と。


「いくぞクリム!」


『ええ、モーブくん!』


 二人の声が重なる。クリムは盾を捨てて今まで以上に鋭く速く剣を振るった。


「クロススラッシュ!」

『クロススラッシュ!』


 迎え撃つグレーシャンもやっと剣を振る。

 クリムと同じかそれ以上のスピードだった。


「やれ!」

『アステリスクスラッシュ!』


 ギギィィィンと丘まで届く轟音が鳴り響く。

 数瞬後、ドゴっと音を立てて二機(ふたり)の付近に大きな金属の塊が落下した。それは折れた刀身。そして、その持ち主は……。


『負けだ、負け』


 折れた剣の柄と盾を放り捨てて、グレーシャンは両手を上に上げ、自分の敗北を告げた。


「なっ! 将軍貴様、まだピンピンしておるではないか!」


『あのな、こういう決闘じゃ、剣を折られたら負けなの』


 実際にはどちらかの変身が解けるまで戦い続けることもある機神巫女(マシニーズ)同士の決闘なのだがチャーライはそれを知らず、言葉に詰まる。


「さ、最強の将軍ではなかったのかっ!?」


『そう呼ばれてっけど、さすがにパートナーが違いすぎる』


「余のせいで負けたとでも言うのか!」


『あのさあ、機神巫女(マシニーズ)とパートナーのこと、もうちょい勉強して。あたしたちは道具じゃねえんだ。信頼する相手じゃないとパートナーの意味がない。皇子のせいであたしは普段の力すら出せずに必殺技をスカっちまった』


 小星斬りアステリスクスラッシュ十字斬り(クロススラッシュ)の上位の技である。成功していれば剣を折られていたのはクリムの方だったかもしれない。


『やったのですわ!』


 丘に向かって駆けてくる巨大なクリム。

 その振動が丘を揺らした直後、クリムは変身を解き、モーブの胸に飛び込んだ。


「初めて成功しましたわ! モーブくんのおかげですわ!」


「く、クリムの努力の結果だ。アオイもクリムは頑張っているっていつも言ってた」


 自分に伝わる感触、クリムの大きな胸を意識しないように努力するモーブ。だが思春期真っ盛りの彼にそれは不可能。誤魔化すためについアオイの名前を出してしまった。


「そうですわ! 今の感じを完全に物にしないとアオイさんには勝てないのですわ! モーブくん、特訓なのですわ!」


「あ、ああ」


 離れていく柔らかな感触に寂しさを感じるモーブ。走り出してしまったクリムを追いかけるしかできない。

 それを悔しそうに眺めるだけのチャーライ。


『これで皇子の婚約解消だな』


「な、なんだと!?」


『だってそう誓っただろ。この帝国北軍将軍グレーシャンが証人だ』


「ならば貴様を将軍から解任する! これで証人の帝国北軍将軍などおらん! ふはははは! 余の権力(ちから)を思い知るがよい!」


 強引な理屈で約束を反故にしようとするチャーライ。

 グレーシャンは再び巨大なため息。しかも今度は内心に隠そうともしない。


「はぁーっ。辞めていいってんなら辞めるけどさ、本当にいいんだな?」


「ふん。使えん道具なぞいらんわ!」


「わかった。んじゃ皇子のお()りの人たち、悪いけどそう伝えてくれ。あたしゃもう帝国には戻らないから」


 変身も解こうとせずにグレーシャンは皇子たちに背を向け、去っていく。


「よ、よろしいのですか皇子?」


「当然だ。それよりも今すぐモーブを亡き者にしろ」


 皇子の護衛をしていた騎士たちはその無茶ブリに首を横にふるしかできない。


「無理ですって。学生とはいえ、相手は勇者。やれっこありません。しかも万が一そんなことができても真っ先に皇子が疑われますってば」


「それよりもグレーシャン将軍を呼び戻す方がいいですって! 怒られますよ」


「なんとかしろ!」


 護衛騎士たちは内心でため息しつつ、どう自分に責が及ばないように本国に報告するか、頭を悩ませるのであった。



クロススラッシュはX斬りで

アステリスクスラッシュは*斬りです


モーブの名前の由来はモブ勇者ってことではなくモーブカラーからなのでした

ちなみにゼニアオイのフランス語だったり


読んでいただきありがとうございます

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