男子高校生が献身の魔法少女として活動してたwww
それはある日、突然発見された。
長く御伽噺とされていた物「魔力と魔法」。それを操るとされる素質を持つ者と、それに対抗するかの様に現れた獣。
素質を持つ者は凡そ9歳から18歳の女子に限られて、対抗する獣「魔獣」を倒せる唯一の手段であった。
だが、少女の誰もが無傷で魔獣に勝てる訳では無かった。時には勝てずに命を散らしたり、障害を負う生活を強いられたり、精神的に追い詰められる者も多く居た。
そんな素質ある少女達「魔法少女」を保護・管理する組織も存在する。命がけで戦う彼女達を最大限のバックアップで迎えようと。
しかしどんなにバックアップしようと、表に立つのは魔法少女。時に一生治らない心の傷を負う者も居て、思い悩み、自殺。そんな状況も後を絶たない。どんなに優秀なカウンセラーを派遣しようと変わらなかった。
そんな状況を変える出来事があった。一時は都市伝説として扱われた物だ。
「白いローブの何物かが傷ついた魔法少女の傍に立つと、その傷はたちまち癒える。それは心の傷まで及ぶ」
傷付いた魔法少女やその家族はその存在に縋った。無理もない。そんな存在は長年待ち望んでいた存在である。
そして何より魔法少女管理組織がその存在を欲しがった。だが神出鬼没のその存在は補足が難しかった。昼夜問わずに突然、傷付いた魔法少女の傍に現れてはその手を取り、魔法を使い癒していく。そして一瞬で傷を癒すと、次の瞬間にはどこかへ行っている。その行き先に法則性は無く、自由気まま。
管理組織はその存在に仮名称を付けた。「ホワイトローブ」と呼ばれるその存在を一級捕獲対象として懸賞金をかけて情報を追っている。
さて、そんな重要な存在である「ホワイトローブ」の正体である俺、男子高校生「田中太郎」は、今日も今日とて魔法少女となり、他の者を癒していく。
「もう魔法少女になって5年くらいかー」
5年前の事件を懐かしく思い、携帯端末を使いニュースサイトを確認しながら、魔法を使っていく。
俺の使える魔法は少ない。ついでに言えば攻撃手段も少ない。
「っとこの子だな」
ニュースサイトで確認するのは重傷を負って「もう戦えない」と判断された魔法少女。その搬送先の病院である。管理組織が運営する特設病院か。
「まあいいや。行こ」
特徴である白いローブで傷だらけの体と顔を隠して、無人の公衆便所で魔法を発動。先に発動した探知に引っ掛った病院の中へ転移する。急に変わる景色の中、発動が収まると目の前には、ニュースの言った通り重傷の魔法少女が居た。
「こんな傷がつくまで戦って……ごめんな。戦う力が無くて。出来るのは肩代わりだけだから」
ここまでボロボロだともう引退だろう。恐らく家族によって引退の準備がなされている。それでいい。もう頑張っただろう。無理して戦って、次は命が無いかもしれない。
「これが今出来る精一杯」
そんな重傷を俺は自分の魔法少女体に引き継ぐ。この子が負ったあらゆる傷……心の傷も纏めて。もうあの時の悲劇は起こさせない。今は亡き好きだった子にそう約束したから。
「っ……と、この子本当に無茶したんだな。よく頑張ったな」
心の傷を自分の頭に刷り込み、抱える。もうこの5年間幾度となく行った行為だ。慣れてしまった。
怖い思いを肩代わりし、後遺症の残る傷も引き受け。綺麗な体となった少女。引退したこれからは戦いとは離れた生活を送って欲しい。
「さて、行くか」
そう思い再度転移の魔法を発動させようとするも出来なかった。次の瞬間、鳴り響く非常アラート。そして病室の扉を開けて入って来るのは複数の魔法少女。
「仮名称「ホワイトローブ」。ようやく捕らえました」
「大人しく投降して下さい。さもなくば体の保障はないです」
無茶苦茶言ってるこちらに武器を向けて来る魔法少女達。恐らく何か不審な事をすれば即ズドンだろう。かといって転移の魔法が使えないならどうしようもない。どの子かから妨害されているのだろう。
大人しく手を上げて無抵抗の意を示す。だって俺だと勝てないし。
「素直に従ってくれるんですね」
「抵抗して殺されるよりマシかなと」
「殺しはしませんが……良い判断かと。多くの少女を救っている貴女に、こちらも乱暴はしたくありません」
武器向けながら言っても説得力はないが。
「そのローブの解除を」
「はいはーい。では失礼しますねー」
お気楽そうに言う魔法少女の一人は、魔力で編まれている認識阻害のローブの解除を試みる。出来れば止めて欲しいんだが。捕虜となった今、抵抗は出来ない。
「さてさて散々探し回ったホワイトローブさんの正体をー……うっ」
纏っていたローブが解除され、脱がされた瞬間に見ていた魔法少女が全員絶句。そりゃあそうだろう。なぜならー
「どうして裸なんですのー!?」
「うっ……気持ち悪っ……!!」
「ひぃ…………………………」
「うわぁ……」
そうローブの下には何も纏っていない。正真正銘の全裸。そして俺の魔法少女の体は、皆が目を背けたくなる酷い有り様だ。ありとあらゆる傷が体中に刻まれている。それは今まで肩代わりしてきた魔法少女達が負って来た傷でもある。
顔も体も無事な皮膚部分の方が少ない状態だ。そんな女性として死んでいる体を見て、拒絶反応を示す少女達。
どこか物悲しさを感じさせる肩口で切り揃えられている白髪は背中を隠す事無く全てを晒している。当然ながら傷だらけ。火傷の痕も多数残っている。
「あまり見ていて楽しい物じゃないから、何か纏っても?それともまだ見る?」
「え……あ、そうね。ごめんなさい。出来れば何かで体を隠して欲しいわ」
見るのも辛そうな……苦々しい顔で目を背ける少女達。
「とはいっても着る物無いんですけどね……見ての通り何も持ってないから」
「うぅ……でも魔法の許可は出来ません」
「信用ないね。こっちとしてもあまり体晒したくないんだけど。女子ならこの気持ち分かってくれない?」
魔法少女として戦う女の子たちは多かれ少なかれ体に傷が残っている。その傷は例外除き現実の体にも反映される。そんな傷物の体を晒されるのが、年頃の女子として如何に辛いかは分かっているだろう……とは言え俺は男なのだが。
「辛いのは分かりますが、話が終わればすぐに解放します。ご容赦を」
「ダメですか。そうですか。だったらベッドのシーツでも何でもいいですから、何か持って来て。悲しそうな顔されると、こっちも嫌だから」
こっちが何かを話す度に顔を見て、体を見て悲しむ顔を向ける少女達。根は優しい子達なのが分かる。だからこそ悲しい顔が嫌なのだ。この体は自業自得の結果だ。そうあれと自ら望んだ物だ。だからそんな顔をしないで欲しい。
「何か着る物を取って来ます。その間に質問に答えといてください」
そう言って少女の一人が病室から出ていく。その2秒後に出ていった少女が何か吐き出しそうな苦しい声を上げているのが僅かに聞こえた。限界だったのだろう。
最低限、少し大きい胸と股間の部分を手と腕で隠しながらも残った少女達に顔を向ける。
「それで質問は」
「あっはい。まずは貴女はどこかの組織に属していますか?」
「どこにも属してない。野良だ」
一応一定数、束縛が嫌いな為に野良として活動する魔法少女は存在する。だがその活動は自己責任。傷付こうが死のうが誰も何も保証しないし、その力で人を傷つければ重罪となる。
組織として管理・保護されれば給金も支給されるし、この病院の様な医療施設もタダで利用できるし、引退すると貢献に応じて莫大な退職金が手に入る。そのお金をどうするかは少女次第。両親が奪わない様に手を回す事も出来る。
ただし魔獣討伐の義務が発生し、前線に出向く事になる。その分危険度は高い。貴重な戦力であるがその数は減る一方。そのため現代社会は子供を作る事を推奨している。ただそれはそれで問題は多いが。
「魔法少女としての活動はいつ頃から?」
「5年前から」
魔法少女という存在が現れたのは30年前。その30年間で様々な法律が出来上がっている。強大な戦力である魔法少女を「軍事戦力」として利用しない事の国際条約もある。
魔法少女の小隊はその気になれば小国1つを1週間で滅ぼす事も可能な存在だ。そんな力をお互いに振るわれたく無いだろう。そのためどの国も、魔法少女は防衛戦力としての扱いが主だ。国内の魔獣の討伐も必要な為、尚更だ。
「使える魔法は?」
「服の作成除けば3つ。献身・転移・探知」
「本当ですか?」
「どう証明しろと?」
「……まあいいわ。それで転移と探知は分かるけど、献身は?」
「あらゆる傷の肩代わり。心の傷も一緒に。発動条件はあのローブだけ纏う事。他の服は着れない」
他にも相手に傷を押し付ける事も出来るが、それを使うと本体の男の体に傷が残る。その為滅多に使う事は無い。
「辛くないの?」
「もとより女性としての幸せなんざ願っていない。それにこの体は痛みには強い」
献身を使うと痛みは発生するが、もう慣れてしまった。何より傷で笑えない少女が笑える様になるならこの程度の痛み願ったりだ。そう思っていると少女達の顔の皺がより深くなる。
「もう少し自分を大切に出来ないの?」
「この魔法がある以上無理だ。自分が傷つけば他の少女が笑えるんだ。むしろ役得だろう」
「少なくとも私達は笑えないわ。やっぱり貴女は保護されるべきよ。そんな傷を負って笑えるなんて」
貴女の心は壊れている。そう告げられる。まあ見た目的に死にそうな体をしているし、無理を出来ない雰囲気だろう。確かに普通なら保護されて然るべきだ。だがしかし。
「残念ながらこの体と本体は少し特殊で、組織に入ったら即研究室にぶち込まれる。自由もクソもない状態になる」
元々男性が魔法少女になるのはレアケースだ。世界中で数件報告されているが、その者達は研究機関に囚われている。中でなにが行われているかは不明だが、きっとロクな事ではないのは分かる。
「こっちの事を思うなら見逃してくれない?」
お願いしてみる。だが苦い顔。押しが足りないか。真実混ぜつつ嘘をでっち上げて見るか。
「この体だともう長く持たないから。残りの時間は自由で居たい」
俺の魔法少女としての適性期間は残り1年程だ、この体ともあと1年でおさらばである。それをボカしながらも伝えてみる、傍から見たら余命が短いと取るだろう。
「うぅ……でもぉ……」
「研究材料になるのを見たらきっと貴女達は後悔する。お願い!」
最後に良心に訴えてみる。どうだ?
「……分かったわ。隙を突かれて転移された事にするから。ただ貴女は今後、顔を出さない様にしなさい。私達みたいに話を聞く女子ばかりじゃないから」
「感謝する」
「あ、それと貴女の魔法少女としての名前ってあるのかしら?本名は聞かないわ。はぐらかされそうだし」
「魔法少女名?無いかな。今までと同じように「ホワイトローブ」でもいいけど」
「あっそ。それじゃあさっさと行きなさい。くれぐれも活動するんじゃないわよ?面倒な事になるから」
「善処する」
呆れ顔の少女達。そんじゃ魔法を展開して……
「あっそうそうコレ言い忘れてたわ」
「何?」
「その子と……今までの魔法少女の傷。治してくれてありがと。女の子として感謝するわ」
「ん。気にしないで、じゃあバイバイ」
そうして俺はどこか遠くに転移を行った。