最優秀暗黒大学生
私が『文章を書くこと』において、影響を受けた高校時代のたった一回の授業。
それまで文章を書くという行為に対して、ネガティブなイメージしか持ち得なかった私は、自分が書いたものを褒められたことで、自分が感じている気持ちがどういうものなのか、うまく処理できずにいた。
嬉しいような恥ずかしいようなもやもやを、うまく整理できないまま心の片隅にしまい込み、それを忘却の彼方に置き去りにして私は高校を卒業した。
勉強をサボる浪人時代という究極のモラトリアムを経て、テキトーな大学に入り、晴れて大学生となった私は、勉強もそっちのけでアルバイトに勤しむことになる。
“文章を書くきっかけ”をテーマとしているこの駄文。
導入に“大学”の文言があれば、大学時代の講義で何か影響を受けたという流れを予想するのが普通だと思うが、そうは問屋が卸さないにゃん。
私は大学時代に完全なるボッチであったため、大学での出来事など、記憶が黒く塗りつぶされており、これっぽっちも思い出すことができないのだ!ドヤァ
小中高と能動的に友達作りをしてこなかった私は、知り合いのいない集団の中での友達の作り方が全く分からず、入学から卒業まで、外国語の講義以外でほとんど口を開かない、無表情で寡黙な人物でした(笑)
それ以外のことはすべてわすれましたぁー!
それは置いておくとして、私が明確に『文章を書くきっかけの一つ』として認識している出来事は、大学時代のアルバイト先で起こる。
かつて私は某有名ビデオレンタルショップでアルバイトをしており、学業より熱心にレンタル屋さんのCD販売コーナーという過疎地域(笑)でアルバイトに励んでいた。
しかし経営不振により店舗は閉店し、運営していた会社は別の会社に事業を売却。私たちアルバイトスタッフは、店舗を買い取った運営会社のアルバイトスタッフとして、そのまま雇われることとなったのだが、その新しい運営会社がすこし“あつくるしい”会社で、社員として働いている人間が全員松岡修造みたいな、少しアレな会社であった。
そんなアレな会社では、いろいろアレなイベントが催されており、その中の一つに『ありがとう作文』というものがあった。
名前だけでかなりのむず痒さを醸し出しているのだが、イベントの内容も闇属性(笑)の人間にはけっこうキツく、お客さんに「ありがとう」と言われた時のことを、月に一度従業員持ち回りで作文にし、全国の店舗から集められた作文の中から、優秀な作品を社内報に掲載し表彰するというもので、若干の中二病を引きずったままの暗黒大学生にとっては、背中に蕁麻疹が出るほどキツいイベントであった。
他の善良な従業員たちは『お客さんが見つけられない商品の場所に案内してあげて「ありがとう」と言われた』話や、『おすすめの映画を教えてあげて「ありがとう」と言われた』話などを素直に書いており、当時の私は「へへんっ! みんないい子ちゃんばっかりでイヤになっちゃうよ!」などと、ATフィールド全開で斜に構えていた。
しかし、その会社の従業員として働いている以上、ありがとう作文を避けて通ることはできず、新たな体制で何か月か勤務するうちにとうとう私の番が回ってきた。
先述のとおり、中二病を引きずっていた私は、そんな善のオーラをまとったようなイベントに真正面から臨むことなどできるはずもなく、どうやってアイデンティティを保ったまま、怒られない程度にふざけることができるか頭を悩ませていた。
その時私が出した結論は『店の利益にならなかったという事実を“落ち”としてしっかり書く』というものだった。
書く出来事は事実、お客さんにお礼を言われたのも事実、そのお客さんが店に入らずにそのまま帰ったことも事実。
私は嘘を書くのがいやなのだ!ヘケッ!
というわけで私は、大体みんな100文字くらいで終わらせる作文を、原稿用紙1枚分くらいの文章量で“落ち”もしっかりつけるという、斜に構えたふりして『めっちゃはりきってる人』と化していた。
その時書いた文章はもう見ることができないので、細かいところは忘れてしまったが、大体の流れはこうだ。
①困った様子のお客さんがカウンターに訪ねてきた。
②「店の前のドブにカギを落としてしまったので助けてほしい」と宣うお客さん
③ドブの蓋が重くて二人がかりでも持ち上げられない
④ビニールひもと磁石で釣り上げる作戦に変更
⑤作り上げた即席釣りセットをドブの中に投下
⑥カギに付いていたキーホルダーが磁石にくっつき無事にカギを回収
⑦お客さんはお礼を言った後、店に入ることなくそのまま帰っていった
この出来事を私の心情を交えながら茶化して書いた。
当時の私としては『店の利益に直接つながらなかった』ことをあえて書くのが、反抗的なことに思えたのだ。
私の心はさながら不良バイト。闇属性である。
「会社のこっぱずかしいイベントを、ふざけた態度で茶化してやったぜぇぇぇ……へっへっへ……ワルだぜぇぇぇ……(ナイフをぺろり)」
当然口には出さなかったが、心情としてはそんな感じであった(ちょっと盛った)
闇の呪言を提出し、店長に怒られることを想像しながら、若干そわそわ仕事をする日々がつづいた。
そしてついに全国の店舗から寄せられた『ありがとう作文』が掲載された社内報が店舗に送られてきた。
「ふ……ふ~ん……、そ……そんなの、ぜんぜん興味ないんだからね!?」
と、そんなのにぜんぜん興味がない私は、社内報が届いた当日の短い休憩時間に、早速ぜんぜん興味がない『ありがとう作文』のページを開いた。
そして1ページ目に私の書いた呪詛が目に入った。
それて、見出しについている最優秀作品の文字に我が目を疑った。
………………そ……そそそそそんなはずあるはずないかもしれなくないかもしれないはず…………恥ずぅ!!!!!!
私の悪ふざけが最優秀賞を受賞していた。
私はあまりの恥ずかしさに受傷していた。
あぁ、そういうのいい?
はい。
文章がうまかったわけでも、特別感動的な話を書いたわけでもないのだが、どうやら審査する人間の中に、私と同じく反骨心にあふれた人物がいたのだと思った。
(あとから聞いた話だが、私の書いた文章の一部で、磁石をドブに投入する際に「南無三!」と叫ぶ描写が統括部長に気に入られたらしい)
その日はバイト仲間のみんなも交えてわりと盛り上がった。
とにかく、そんな出来事があり、私は自分が書いたものを誰かに認められて、面白がってもらうという経験を初めてしたのだった。
その時点から小説の連載を始める当日までの数年間、私がまとまった量の文章を書くことはないのだが、とある作品に出合ったことで、その時まで全く考えもしなかった『自分で小説を書いてみる』という発想にたどり着く。
その作品との出会いはまた次の機会に書きます。