中二病のひと手を挙げてー
ひたすら部活と遊びに打ち込んだ中学校生活。
のびのびと学業を放棄していた私は、あまり関わることのない校長先生にすら頭が悪い子だと思われていたようで、
提出した志望校の記入用紙を前にして「大事な書類なんだからふざけて書かないで、ちゃんと入れそうな高校を書きなさい」と説教を食らったりもしました。
受験勉強の追い込みシーズンの貴重な時間を、ほぼロマサガ2のやりこみに費やした私は、確かに頭の悪い子だったのかもしれませんが、人生のラッキーを全て消費して志望校に合格し、晴れて高校生となります。
高校時代に国語の授業で作文や小論文を書いた覚えはあまりありませんが、私の作文への意識が変わるきっかけは、この高校時代のとある授業中訪れます。
とても高校生に聞かせられない、耳を覆いたくなる程の猥談から始まったその授業は、一学期の最初の『現代社会』。
少し変わり者の先生が、私たちに出した最初の課題が『授業の時間内で好きなように作文を書く』でした。
奇しくも小学校の頃の私に、作文に対するトラウマを植え付けた課題と同じものだったのです。
「まずみんながどんな人間か知りたい。点数はつけないので、考えたことを好きなように書いてください。読むのは先生だけです」
開幕時の猥談とはうって変わって、先生が丁寧な口調でそう言うと、クラスの窓側の陽キャたちは、先生の猥談につられて卑猥な話を書いてワーキャー言ったり、中学の頃のワルい武勇伝なんかを書き始めました。
「オレ初エッチの体験談書くわぁ~!」と大声で話す森君を、ゴミを見るような目で見たのを思い出します。
私の友達も、自分のやっているスポーツや趣味のことなど、高校生らしい爽やかな作文を書き始めており、私もそれに乗っかればいいだけ……のはずなんですが……そうは問屋が卸さない。
当時、反骨心や中二病を拗らせていた私は、そんなつまらないものを書いてたまるかと、妙なオンリーワン気質を発揮してしまいます。
そう……当時の私は『変わった子だと思われたい願望』を抱えていたのです。(おかげさまで念願かない、今は真性の変人です)
人と違う事をして、人と違う音楽を聴き、人と違う漫画を読み、みんながやっていることを馬鹿にする。
典型的な困っしゃくれて自意識の高い、めんどくさいガキンチョでした。
みんなとおんなじなんてまじダサくなーい?
ということで、頭の悪さを隠し切れないまま、私はオンリーワン(笑)を模索します。
単純にインパクトのある作文を書くだけじゃ面白くないよね……。
どうせ点数がつかないなら、滑っても転んでも痛くないじゃんか。
しかもどうやら、作文は先生が読むだけで発表はしないらしいし。
点数はつかず、先生しか読まない。
どんなことを書いても周りに知られることはない。
「それならば!」と、私が出した答え。
『不謹慎な思い付きを羅列する』
今思うと「なんじゃそら?」と思ってしまうような、意味の分からない決断なのですが、当時の私には名案に思えたのです。
そうして私は、ふつうは思いついても口に出すことも憚れるような、かなりの不謹慎な差別度MAXの発想を文字に起こし、原稿用紙の使い方も無視して、ひたすら縦に箇条書きしていきました。
不謹慎すぎて今ここで例を挙げるのは無理です(笑)
その時提出された作文は、約一週間の期間を経て再び授業で話題に上ります。
「そういえば、この間みんなに書いてもらった作文さー。ひとりすごいの書いてた子がいたんだよ。衝撃を受けたわー」
先生がそう言った時、陽キャたちは一斉に森君に注目し、ニヤニヤと肩やら頭やらを小突き始めました。
教室の雰囲気もすでに『森君の初エッチレポート』のことなんだろうなーという空気で包まれており、森君も「おまえらやめろよー」なんて感じで照れて笑っていました。
私もこの時点ではまだ「たぶん森君の作文が先生に面白がられたんでしょ」と思っており「へぇ~(パリピのクセに)森君はすごいねー」くらいのぼんやりとした感想しか持っていませんでした。
クラスのざわつきに構わず先生が感想を述べ続けます。
「この発想は普通じゃないわ。テレビ番組の構成作家とかやると絶対人気になるよ! まず原稿用紙の使い方を完全に無視して、好き勝手に書いてるのがすごい! 普通の子は原稿用紙渡されたら、どんなにとがった内容を書く子でも無意識に原稿用紙の使い方守っちゃうんだよ。ほら見てこれ!」
そうして教壇で先生が広げたのは、まぎれもなく私の提出した原稿用紙でした。
升目を無視した荒々しい文は、精神病院の独房の壁のようで、離れた場所からでもすぐにわかるのです。
「ほらこの『○○は染色体が○○だから、〇〇を○○していると思う』なんて普通考えないでしょ? だれ? このKOMOさんって? はい手ぇ挙げてー!」
先生しか読まないって言ってたから、書いた文章だったんですけどぉ!
不意打ちでそんな発表されても困るんですけどぉぉぉぉ!
先生は名前と顔が一致しないかもしれないけど、名前発表しちゃったらクラスのみんなには分かっちゃうんですけどぉぉぉぉぉ!
クラスメイトにはバレバレなので、反応しないわけにもいかず、私はおずおずと手を上げました。
「アナタがKOMOかぁー! いやぁキミはテレビ業界に行くといいよ! 発想がおもしろい!」
内容が内容だけに、まさに公開処刑。
恥ずかしさで顔が赤くなっていたかもしれません。
ただ、同じ公開処刑でも小学校のころ経験したものと違っていて、不快な感じのなかにふしぎな高揚感も混ざっていました。
その日は文章を褒められる『むず痒いうれしさ』を経験した初めての日となったのでした。
「KOMOすごいなー」と笑う森君が陽キャでイケメンでパリピのクセにいいやつなのズルい。