この本はとてもおもしろかったです。
小学生の頃の黒歴史を乗り越え……いや、今も乗り越えてないのですけど。
黒歴史の記憶も薄れて思い出すことも少なくなり、私は健やかに育ちます。
私は中学生となり、勉強の出来不出来が点数によって明示される立場になりました。
勉強においてクラスでもそこそこの成績を収め、順風満帆な学生生活を送っていたハズの私に新たな試練が訪れます。
そう……夏休みの課題作文、読書感想文です。
小学生の頃のウマシカがトラウマになっている私はやはり拒絶反応を示します。
しかしイヤでもやらねばならないのが、義務教育のツラいとこね。
課題の内容は『読書をし、その感想を原稿用紙5枚以上書く』
今となっては2000字程度の文章など造作もないと言えますが(じゃあ早く小説の続き書けよ)
当時の私には頭を悩ませるのに十分な途方もない数字でした。
まず私を苦しめたのは、感想を書き始める前。
感想を書く本の選定です。
中学生の頃の私はほとんど本を読んでいませんでした。
(実をいうと小学生~大学卒業くらいまでずっとそうでした)
この課題における『本』というのは、当然漫画や絵本、ゲーム攻略本や雑誌は含まれませんので、
冗談を抜きにして、当時の私が読んだ『本』は、片手の小指で数えられるほどしかなかったと思います。
学校の図書室でも『にゃんたんのゲームブック』シリーズや、『はだしのゲン』くらいしか借りたことがなかった私は、
先生の言う『本』というものが理解できませんでした。
本当にわからなかったのです。
興味を持ったものを先生に見せて、課題図書がこれでいいかと確認する作業を何回かしたのですが、
選んだ本を見せる度に、これはダメそれはダメと、痛烈なダメ出しの連続。
友達が選んだ本は良くて、なぜ自分の選んだものはダメなのか、まったく理解できませんでした。
ふつうは本を読む前に、タイトルや表紙、パラパラめくった時に見える本全体の雰囲気を見て、本の内容をある程度予想し、
どういう本なのか、読みたい内容が書いてありそうか、などを考えて読むかどうか決めるとお思いますが、
そういった機微を見極めるのに必要な経験値が絶対的に不足していた私は、読む前に本の内容を予想する能力が皆無でした。
さらに、漫画やゲーム攻略本しか読まない私にとって『絵がない文字だけの本』がすべてアカデミックに見えて、堅実な本と趣味性の強い本との区別ができなかったのです。
当然先生に確認しにいく本は、自分が興味あることに関係したタイトルの趣味性の強いものになり、先生の意図とはかけ離れたものになってしまいます。
何度もトンチンカンな本を見せられた先生は、ダメだコイツと思ったのか「じゃあ先生が選んであげます」と、私と共に図書室へ。
完全におみそです。
「あなたはこれを読んで感想文を書きなさい」と、手渡された本が、かの有名な剣豪『宮本武蔵』の伝記でした。
前述のとおり、本をほとんど読まなかった私は宮本武蔵に関して知識も興味も持っておらず、
それこそ『からくり剣豪伝ムサシロード』のムサシくらいしか知らないレベルで縁遠い人物。(ムサシロードの主題歌は超好き)
まぁ現在の私も『バガボンド』程度の知識しか持ち合わせていないのですが。
(吉川英治の宮本武蔵はおじいちゃんに貸してもらって30分程度で挫折しました)
なんとか課題図書も決まり、私はウキウキで夏休みに入ります。
キツい部活や楽しい遊び、さまざまな経験をし、充実した夏休みを過ごした私は、休みもあと数日というところで、あることに気づきます。
「あっ! 読書感想文書いてない!」
こうして中学生の私とまったく興味ない本との闘いが始まります。
今でこそ学校の図書室においてあるレベルの伝記を読破することなど、大したことではない気がしますが、
当時の私には慣れないことで『ぼくはゆうしゃだぞ(著:さとう まきこ)』レベルの絵本しか読んでいなかったポンコツは、大変苦労することになります。
さらに苦労して読んだ後には苦手な作文が待っており、モチベーションは上がりません。
たらたらと文字を追うだけで内容が頭に入って来ず、結局読み飛ばしながらも読破したのは夏休み最終日。
あとは感想文を書くだけ、感想を書くだけならいける……そう思っていました。
いざ執筆!
鉛筆と原稿用紙を準備し、私はスラスラと文章を書き始めます。
難解な本を一冊読み終えた天才は、この時確かに無敵でした。
「宮本武蔵は強くてすごかったです」
五飛、教えてくれ……読書感想文2000文字……あと何文字書けばいい……?
実をいうと今現在も読書感想文は苦手です。
何を書くべきか書かないべきか、いまだによくわかりません。
なので作品のレビューを書くのなんかも苦手です。
とにかく文字を埋めなければ……。
当時の私は中学生らしい浅知恵を存分に発揮し、とにかく原稿用紙を埋めることだけを考えました。
すなわち、本に書いてある情報をそのまま書き、最後に一言添えるだけ。
ぐんぐん文字数が埋まっていく、まさに有効すぎる戦法!
そうして出来上がった私の読書感想文は「宮本武蔵は〇〇でした」の羅列になっていました。
提出、返却を経て、私の原稿用紙に赤文字で書いてあった先生の文字。
15点という点数と共に書かれていた「これは読書感想文ではありません」は、
思い出すと、いまだに心臓がチクチクします。
小学生の頃に大恥をかくことによって生まれた、文章を書くことに対する苦手意識は、中学校での経験によって、さらに熟成されていきました。
この頃の私に「君は将来、文章を書くことを趣味としているよ」と教えたとしても、私も先生もきっと信じはしないでしょう。
私が文章に対してポジティブな感情を抱く出来事はまだまだ先のことです。




