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やろう会  作者: A i
3/3

持論と議論

 「これについて、あとですこーし話をしようか?」


 満面の笑みを浮かべる三門先生の手には一葉のプリント。

 それは、入学式の前にホームルームで集めた「高校生活を振り返って」という題の俺が書いた作文。


 嫌な予感しかしない。

 これはもう……逃げるしかないな!


 逃亡を決意した俺はいかにも残念そうな表情を作って言う。


 「いや、実はちょっと用事が……」

 「ん?聞こえんな?もう一回言ってみろ?」


 拳をバキバキ鳴らしながら、満面の笑みを浮かべる三門先生。


 やばい!ここで言葉を誤れば死刑は免れられないものになる!


 俺は危険を瞬時に察知し方向転換を図る。


 「と、思いましたが、全然暇でした!!」

 「そうか。なら、ホームルームが終わった後職員室にまで来なさい」

 「はい……」

 「よろしい」


 先生は一つ頷くと、踵を返して教壇へ向かう。

 

 どうやら、俺の余命はあと僅からしい……。






 「で、これはどう言うことかな色無?」


 職員室の応接ブースで向かい合った三門先生が電子タバコにカートリッジの交換をしながら問う。



 どうやら先生は俺の書いた春休み課題の作文が気に入らないらしい。

 自分的には自らの考え、社会的考察などを含んだいい作文だと思うんだけど。

 先生は何が気に入らないのだ?



 内心で首をひねりつつ、チラリと三門先生を伺う。


 背もたれにグッともたれタバコをふかすその姿は、様になっていて素直にカッコいいと思える。

 先生は、男子生徒の間ではスタイルが良いことで有名だ。


 しかし、少々男子高校生には刺激が強すぎるのではないでしょうか?

 どこがとは敢えて言わないけど、反らしているぶんいつもより強調されてボタン飛んじゃうんじゃないかな?と心配になるほどパッツンパッツンである。


 眼福……。

 

 「おい、聞いてるのか色無?」


 棘のある声。

 見ると、とんでもなく鋭い目つきをした先生がこちらを睨んでいる。


 「あ……はい!聞いております!」


 慌ててそう答えると、先生は呆れたような声で言う。


 「本当だろうな?じゃあ、どうしてこんな文章になるのか答えてもらおうか?」

 「え、何かおかしいですか?」


 そう聞き返すと、先生はさっきよりも落ち着いたトーンで喋り出す。


 「じゃあ聞くが、人は変われないと本気で君はそう思っているのかね?」

 「はい、人は変われませんいや、変わらないでいるべきだとすら思います」

 「ほお……それはなぜ?」


 先生の瞳が鋭い光を灯す。

 迫力が半端ない。


 だけど、俺もここで負けるわけにはいかないのだ。

 湧き上がる恐怖をなんとか押し込め、グイッと見返しながら言う。


 「そもそも、どうして変わりたいなんて望むのか。それは自己否定でしょう?今の自分じゃ嫌だ。こんな自分は自分じゃないという思い。だからこそ、人は変化を望むわけじゃないですか?でも、それっておかしくないですか?」


 俺がそう聞くと、先生は軽く手を顎に触れさせながら答える。


 「そうかね?それほどおかしなことに私は思えないが」


 あくまで冷静な先生の声。

 しかし、俺はその言葉を聞いた途端、言葉が湯水のごとく口から迸り出した。


 「いや、おかしいでしょう?どうして今の自分を愛せない奴が、次の自分を愛せるようになる、なんてことがありますかね?大体、変わらないことを現状からの逃げだなんて言うのが間違ってるんですよ。むしろ、変わることの方が今の自分からの逃げじゃないですか?だから、本当に正しいことっていうのは今の自分を受け入れて変わらないことなんですよ!」


 そこまで言い放った瞬間、俺はハッとした。


 あれ?これマズくない?


 いや、だって忘れていたけれど、今自分はお説教されてたんだよね?

 なのに、お説教されてる奴がこんなに雄弁を奮ってたら全然反省してない奴だと思われるんじゃないだろうか。

 ヤバイ!絶対キレられるよこれ!


 そう思い、俺は恐る恐る三門先生の顔色を伺った。

 しかし、意外なことに三門先生はなぜか笑みを浮かべていた。


 あ、あれ?なんか思ってたのと違うぞ?


 「あ、あの……先生?なんで笑ってるんですか?」

 「ん?いや、なんだか嬉しくてな。君みたいな生徒がいてくれて」

 「え、それはどういう?」


 先生の言葉の真意がさっぱり分からず聞き返してしまう。

 

 すると、俺のその言葉を聞いた先生はフッと優しく笑った。


 「最近の生徒は物分かりが良すぎてな。君みたいに多少歪んでいようと、自分自身の考えを持っている生徒は珍しいのだよ。そして、それは真剣に物事を考えている証拠だ。悪いことじゃない」

 「そ、そうですか……」


 褒められるとはついぞ思っていなかったので呆気にとられていると、先生は先ほどまでの優しい笑顔とは打って変わり厳しい表情になる。


 「だが、もちろんこのままでいいと言っているわけではない。君にはもう少し人間的に成長してもらわないと困るからな」


 その言葉に反論しようと口を開く。


 「だから、俺は変わることなんて……」

 「変わるのではなく、成長するのだよ色無」


 有無を言わさない先生の語調に俺はムッとして言い返す。


 「それも結局は同じことでしょうが」

 「変化も成長も君にとっては同じことなのか?」

 「そうですよ!」


 そこまで聞いた先生は、突然フッと勝気に笑い出した。


 「言ってしまったな色無!その言葉を!」

 「え、なんですか?突然」


 こんなテンションの高い先生はじめてなんだけど。

 嫌な予感しかしない。


 しかし、先生は俺のそんなドン引きしている様子になど気がつく様子もなく熱く語り出した。


 「つまり、君はまだ変化と成長の違いすら理解できないほどに無知だということだよ。君の見ている世界はそれほどに狭い」

 「それはそうかもしれませんが……」

 「そう!そこで、だ。君には、修行に出てもらうことにする!」

 「は……?」


 この先生何言ってるんだ?

 修行に出てもらう?

 意味わからんぞ。


 しかし、先生は一人納得して話を進めていってしまう。


 「バトル漫画の王道である修行。そして、何よりライバルの存在。これが成長するに最良の方法だ!」


 ふんふん、と満足そうに頷く先生。


 「あ、あのお……先生?」


 控えめに声を上げてみたが先生はまるで聞く耳を持っていない。

 ブツブツとなにかを呟いていた彼女であったが、ガバッといきなり立ち上がり、ビシッと俺の顔に向けて人差し指を突きつける。


 

 この時の俺は知る由もなかった。

 三門先生のこの後の言葉が俺の人生を大きく変えていくことになることを。


 大きく息を吸った先生は、凛としたよく通る声でこう言い放った。


 「色無、やろう会に入りなさい!!」



 

 

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