プロローグ
楽しんでください。
人生はどうしようもなく不公平だ。
これは俺の持論であり、信念である。
なぜなら、人は生まれる場所も時代も、両親も容姿も。
あらゆる境遇を自ら選択することは出来ないからである。
異論反論文句は受け付けない。
これは、俺にとって真理であり、他人がとやかく言ったところで変わりはしないのだから、聞くだけ無駄だ。
これまでだってそうだった。
学校の先生や家族、友達。
彼らから、世間では正しいと言われていることをどんなに教えてもらったところで、俺にとってそれは、詭弁であり、偽善であり、欺瞞だった。
だからこそ、俺は俺のまま変わらずにいられたし、これからだってそうだ。
変わるつもりなんて毛頭ない。
誰が何と言おうと、世の中は不公平だ。
そして、人は変わることなんぞできやしない。
これが俺こと「色無勇気」(いろなしゆうき)の持論であり、信念であった。
しかし、桜舞う季節。
俺はあいつに出会ってしまったのだ。
まるで、果てしない青空をどこまでもどこまでも羽ばたいて行く鳥のように自由で、まっすぐな瞳をした少女「碧井空」(あおいそら)に。
思えば、あの日から俺の人生は大きく変わることになったのだった……。
今日は入学式当日。
校門近くでは、真新しい制服に身を包んだ新高一生と思わしき人が記念撮影をするために溢れかえり、実に賑々しい。
俺は、その集団のすぐ隣を素通りし、校舎へと向かう。
校舎へと向かう道中。
部活動の勧誘や、同好会の出し物などが繰り広げられる。
どいつもこいつも何が楽しいのか。
満面の笑みで、チラシを配り、新入生に声をかける。
もちろん、二年である俺が声をかけられることはない。
胸元のネクタイの色でわかるのだ。
ちなみに、赤、青、緑の順に学年が上がるので、俺は青色のネクタイだ。
その時だった。
「そこの君!やろう会に入らない!?」
明るくよく通る声。
ちらりとそちらを伺えば、そこには満面の笑みを浮かべた少女。
何かが書かれたチラシを俺に手渡そうとしている。
彼女の整った顔に見惚れること数秒。
俺は、慌てて首を横に振る。
「いや、俺二年なんだけど……」
「いいの!ほら、受け取って!」
そう言って、渋る俺の胸にそのチラシを押し当てる彼女。
「待ってるからね?」
「…………!」
屈託無い笑顔を浮かべた彼女に俺はあっけを取られてしまう。
「あのっ……」
俺が何か言い返そうと口を開いたときにはもう彼女はすでにつぎの勧誘へと向かってしまっていた。
行き場を失った言葉。
何度か口をパクパクと開閉させていた俺だったが、気持ちを切り替えるために後頭部をガシガシと掻く。
「……はあ。行くか……」
一人、そう呟くと、俺は校舎へ向かうのであった。
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