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異世界探偵業 第一の依頼①

 探偵、他人の秘密をひそかに調査する行為、またはそれを仕事とする人の事である。創作においてはシャーロックホームズを筆頭に、警察から依頼をされて殺人事件などを華麗に解決する。だが、日本においては浮気調査、人探し、法人や個人の信用状況の調査などが主な業務だという。ちなみに、名探偵の孫を自称していたり、メガネをかけた小学生を連れた探偵と、旅行先で出会った時は旅行をキャンセルして帰ることをお勧めしたい。

 だが、この異世界、クロノス王国においての「探偵」は俺のいた世界とは大きく異なる。この世界の半数以上を占める能力者。能力者の多く、特に能力を使用して用心棒や賞金稼ぎをおこなっている者の多くは自分自身の能力を隠して生きている。それは、彼らによって飯のタネであると同時に、弱点となるからだ。クロノス王国の法律は他人の能力を無理に暴こうとする行為を禁じている。だが、王国の中心に全くその国に住む人々の能力の情報が入ってこないのも問題である。そのため、国王はある特殊な職業を設定した。国民からの依頼をこなしながら、能力を調査し、王国に報告する特別な資格と権利を持つ、特例職。それが、この異世界においての「探偵」である。





 今日はそんな「探偵」の一日に密着したいと思う。


・・・・・

・・・


「プロフェッショナル―探偵の流儀―」

探偵の朝は早い。「仕事の開始はもっと遅いですよ。でも、下準備が大切なんです」そう言いながらテキパキと作業を始める探偵。日がまだ上っていないにも関わらず、淀みのないその動きには努力と経験の跡が見られた。


 準備が終わると、探偵は水分補給をしながら小休止を取る。「まずは、体が資本の仕事ですからね。ちょっと手を抜くのが長続きさせるコツですよ」そう言う探偵だが、先程の準備も重労働であったはずだ。汗も随分かいた様子。おそらく、この水分補給は必要なものだろう。それをおくびにも出さない探偵には頭が下がる。

 

 人も集まり、本格的に探偵の仕事が始まった。「これは、鉄鉱石の分別ですね。あまり悪い物を入れると効率が悪いので、全ては無理でもできる限り分別するんですよ」そう言いながら、石を分別する職人。一見すると、石に違いは無いようだが、わずかな重さや色の違いで見分けるらしい。まさしく神業である。「いえいえ、私なんてまだまだですよ、先輩方はこの倍の速さでやりますからね」上には上がいると言うことだろう。取材班は驚愕した。


 その後も職人は、様々な作業をこなしていく。意外であったのは、休憩をこまめに取っていた点だ「朝にも言いましたが、体が資本です。一日限界まで頑張っても次の日体を壊したら意味が無い。事故は周囲にも迷惑をかけますしね」はっきりと言い切った職人。我々の職業倫理を考え直させてくれる発言である。

 

 そして、日が暮れるころ。職人の仕事も終わる。「えぇ、風呂に入って、夕食を食べたらすぐに寝ますね」疲れた表情で職人は語った。つまり、余暇や趣味の時間は無いということだ。我々の表情に気が付いたのだろう。「はは、確かにきつい仕事だけどやりがいはありますよ。休日もちゃんとあるし」にこりと笑うと職人は続ける「それにいいもんですよ。限界まで体を動かして働くのもね」そう言って職人は、踵を返すと工場に戻っていった。その背中は大きく見えた。職人のプライドがそのように見せたのだろう。

                          

                          「プロフェッショナル―製鉄工場の1日― 完」

・・・・・

・・・




「ケンお前、今日何ぶつぶつ言いながら仕事してんだよ」

「それな、気持ち悪かったぞ」

 夕食の時間、俺は工場の仲間から辛辣な批判を受けた。

「…だって。簡単な仕事しか回してくれないじゃないですか。独り言も言いたくなります」

 夕食のシチューを食べながら応える。ちなみに、今日の食事当番は腕が良くて、とてもおいしい。まぁ、先日いただいた黒いホワイトシチューと比較してしまうと健康的に食べられる食品は至高のメニューに感じる。

「てか、ケン。おめぇ、探偵の仕事はどうした?」

 痛いところをついてくれる。

「…です」

「は?」

「仕事が、来ないんですよ!」

 そう、実は国王からの任命を受けて探偵の仕事を始めることになったのは一か月ほど前の話だ。それから、今日まで、何も無かった。びっくりするほど、何も無かった。探偵の収入は、依頼人からの依頼料と、依頼を受けて知った能力のことを王国に報告することによる報酬だ。だから、この一か月の探偵業による収入はゼロである。

「大体みんな冷たい!人が探偵になった途端、追い出して!絞るだけ絞っていらなくなったらポイですか!」

「いや、人聞きの悪いこと言うなよ。大体、探偵っていう職業は貴族がなろうとしてもなれない特別な仕事なんだよ。お前はそのこと分かってねぇ。あの国王から任命されたんだ。普通では考えられない名誉なことだぞ」

「あのさぁ……。名誉な仕事で誇らしくねぇの?」

「まぁ多少はね?……って、依頼が無いから仕事をしたくてもできないんですよ」

 チラシを配ったり、あいさつに回ったりできる限りの宣伝はしたものの、今まで依頼は無かった。周りの反応を見ても、いくら王国から資格をもらっても、この世界に来たばかりの訪問者に相談などできないということらしい。だからと言って働かなければご飯が食べられない訳なので、アルバイト契約で工場で働かせてもらっているわけだ。

 ガチャ

「失礼します。あっ、いたいた」

 イヴが食堂に入ってくる。俺を見つけると、早歩きで向かってきた。何やら良いことがあったのか笑みがこぼれている。

「ん?どうかした?」

「これ。工場の郵便に交じっていたんです」

 そう言って差し出されたのは、手紙だった。宛名にはこの世界の言葉で「探偵 タチバナケント 様へ」と書かれている。初めての仕事の依頼だ。

「本当か!」

「やったじゃねぇか!」

 仲間たちも、集まってきて口々に祝福の言葉をかけてくれる。だが、俺としてはどうも心から喜ぶことは出来ない。当然と言えば当然だ。この国において、探偵は知性と知識の最高職だとか言われているらしいが、国王の言うような頭の回転や、ひらめきが俺にある訳では無い。あるのは、結果的にこの世界の能力の解説書のようになっている俺の中二ノートだけだ。そんな、俺が本当に探偵の仕事をできるのだろうか?


だが、俺の不安はイヴの言葉で吹っ飛んでしまった。

「うまくいったらまたお祝いしないといけないですね。また、私料理作りますよ」

「えっ!?」


 こうして、俺の探偵としての異世界での仕事が始まった。……が、成功しても失敗しても地獄かもしれない。


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