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異世界での生活 後日談

 戦いが終わり、王からありがたい言葉をもらって、決闘場を後にする。ちなみに、戦いが終わった安堵で王の言葉は頭からすり抜けている。

「ん?」

 出口に誰かがいると思ったらイヴを始めとした工場の皆が待ってくれていた。

「ケントさん!!」

 イヴが俺の方に駆けてくる。俺も思わず、手を広げてそれを迎える。

 むぎゅ!

 

 大きな腕が俺を壊さんばかりに身体に巻き付く。

「ケントぉぉぉぉ!よくやったぞ!よくやってくれたぁぁぁ!!」

 イヴより早く、工場長が抱き着いてきた。

「恐怖に耐えてよく頑張った!感動した!!ありがとよぉぉぉ!」

 続いて、副工場長を始めとした工場仲間が続く。……筋骨隆々の男たちの抱擁。……拷問かな?

「うふふ。皆、そんなに喜んで……。あっ。取りあえず、私馬車を呼んできますね。工場に戻って今後のことを話し合わなきゃ」

 イヴは抱き着くことはおろか、俺とロクに話をせずに馬車を呼びに行ってしまった。工場長も決闘の最後の確認があるとかで決闘場の方に向かった。


「……どうした?ケン?やつれちまって。戦いの疲労が出ちまったか?」

「……まぁ、そんなとこです」

 男たちの抱擁で、体力を消耗した俺はやっと解放された。

「でも、よくやったよなぁ。いつ気が付いたんだ?スタイの能力に」

 仲間の一人が聞いて来た。

「えっ?……まぁ、偶然ですよ。ほんとに、運に助けられました」

 正直に話しても信じてもらえないだろう。だが、俺には変な確信があった。この世界にやってきてから、生活をしていくにつれ、根拠は無いが感じていた。そして、確信する。この世界にある能力は俺が想像したものが原型となっている。なぜかは分からないし、分からないでよいと思う。今は、大切なものを守れたことを喜ぼう。

「明日から、工場は再開だな」

「いや、まずはお客にあいさつ回りだろ」

「それより、リッチの奴と契約書を確認だ!」

「だが!」「しかし!」「そんなことより!」「何より!」

「「「宴会だー!」」」

 工場の皆の声が重なって町に響く。だが、それには賛成だ。そう言えば、イヴとも約束をしていた。

「そう言えば、俺がもし勝ったら、イヴさんが腕を振るって料理を作るって言ってましたよ」



「「「……えっ」」」

 工場の皆の「えっ」が重なって町に響く。なんとも悲しい声だった。

「ケ、ケン……。そ、それ、本当か?」

 副工場長の震える声。

「は、はい……。なんかあるんですか?」

「馬鹿野郎!お嬢はなぁ―――」

「みなさーん!馬車が捕まりましたよ」

 声を弾ませてイヴが走ってくる。明るい笑顔。だが、工場の皆は意気消沈、まるでお通夜である。

「お嬢!」

 何かを覚悟した顔で副工場長がお嬢に話しかける。

「はい?」

「……料理をされると聞きましたが」

「はい。久しぶりに腕を振るおうかと思って」

「そうですか……」

「皆さんも楽しみにしてくださいね」

「「「……はい」」」

 工場のみんなの顔はひどく沈んでいる。

「!?……お嬢!いい考え。じゃなかった。悪い知らせがあるんですがね」

「なんですか?」

「お嬢に馬車を探していただいている間にね。俺たちは、工場の再開の準備で今日はのんびり食事をしている訳にはいかないんですよ」

「「「!?」」」

皆の表情に光が差す。

「えっ!そうなんですか?だったら後日……」

「いや、そんな日を変えるのも良くねぇ!残念だが、こいつを。ケンを置いていきます。こいつをイケニ―――」

「イケニ?」

 イケニってなんだ。まさか生贄か。

「……ケンにイケてる料理を振るってやってください。全員で祝う時は、酒場を貸し切りにして。酒場で!酒場で!やりましょう!」

「そう言うことでしたら」

「「「イヤッホー!!残念だなぁ!」」」

 工場の皆の声が重なって町に響く。残念だと言っているが、声は歓喜に満ちていた。



*******



 と、言うわけで夕食の時間である。本来なら美少女と二人での会食は心躍るものだが、今の心境は沈んでいる。

 その理由は決闘場での工場のみんなの態度。ちなみに皆、「それ、今やらなくていいですよね。今日やるより明日やる方がいいですよね」と、突っ込みたくなる用事ででかけてしまった。

 さらに、ここにくる前に工場長と、こんなやり取りがあったからだった。

「ケン、話は聞いた。……残すな。とは言わん。だが、死ぬなよ」

 おや、これから決闘かな。今朝よりも深刻な顔なんですが。

「後、お前にこれを託す」

 そう言って、出されたのは。ビンに入った白い液体と錠剤だった。

「まずは、牛乳で胃の粘膜を保護するんだ。そして、食後はこの胃腸薬を6錠飲め。……基準量は3錠だが倍は飲め」

 俺はこれから、何をするのだろうか。正直自分の命は惜しいので。提案をする。

「あの、イヴさんに料理を作るのやめてもらえば済むのでは……」

「……あいつはな、一度料理をすると決めたら、何があっても作るんだよ。あっ!言っておくけど、俺は大事な会議があるから」

 嘘だっ!だって、イヴの料理の話を聞く前は明日行くって言ってたぞ。

「聞くところによると、お前がイヴに提案したんだよな」

「……い、いや」

「男だったら責任はとれよ」

「……はい」

 

 沈んだ心で、食堂の扉を開ける。

「あっケントさん。遅かったから心配したんですよ」

 明るい笑顔でイヴが迎えてくれた。エプロン姿は可愛いが、工場長やみんなの態度からその姿は死神のように見える。

「さぁ、座ってください。今飲み物を持ってきますね」

「う、うん……」

 冷静になれば。まだ食べてもいないのに判断を下すのは早い。もしかしたら、異世界からやってきた俺の口には合うかもしれないし。女の子の手料理なんて、初めてだ。そう考えれば、少しは楽しみになってきた。

「久しぶりのお料理だから。コースみたいにたくさん作ったんですよ。まずはサラダから持ってきますね」

 サラダ。サラダなら失敗は無いだろう。いや、待てよ。世間には洗剤で野菜を洗って出す人がいるらしい。

「あのさ、野菜を洗剤で洗ったり……。してないよな」

「はい?ふふっ。そんなわけないじゃないですか」

「そ、そうか。だったらいいんだ」

 ふぅ。まぁ、だったら大丈夫だろう。

「はい、どうぞ」コトッ

「……」

 目の前に置かれたのは白いお皿に黒い塊。

「サラダです」

 笑顔のイヴ。

「サラダ……。サラダ?」

 サラダの法則が乱れる。

「はい、生は良くないと思って火を通しました」

 火、通しちゃったかぁ……。サラダに火を通したら、それは野菜炒め的なものでサラダでは無いと思う。……ていうか、火を通したってレベルじゃねぇぞ。黒いもん、炭だもん。こんなものを食べたら……。

「あっ……あのさ。これ……」

「どうかしましたか?……お口に合いませんでしたか?」

「えっ?いや。そんなことないよ?いただきまーす!」

 ……男には、女のために、自分を殺さなければならない時があるという。俺は今日がその時だと察した。


 その後、

 ホワイトシチュー〈火をかけすぎたため、色は黒を超えた漆黒、炭化したもの〉

 新鮮な魚のカルパッチョ〈仕上げに火を使い炙ることで、風味と香りが立ち、炭化したもの〉

 霜降り肉のステーキ〈ウェルダンを十段階くらい超えた。超よく焼きにより、炭化したもの〉

 などのメニューが運ばれ、デザートであるチョコケーキ〈炭〉を食べ終えたところで、俺の意識は無くなった。



*******



 決闘と、イヴの食事会から一週間が経過したある日、俺達は国王に呼ばれた。俺たちというのは工場長とイヴの三人のことだ。ちなみに、この一週間は原因不明の腹痛で寝込んでいた。いや、原因は分かるがそれを明らかにするほど俺は野暮ではない。


「橘賢人。クドロ・シュタイン。イヴ・シュタイン。足を運ばせて悪かったな」

 案内されたのは、俺が最初に国王とは違う部屋だった。それこそ、RPGゲームの出てくるような、赤い絨毯が引かれた部屋の奥に豪華な椅子が置かれており。国王が威厳たっぷりで座っていた。

「いえ。国王の命令であれば。このクロド。何をおいても参上いたします」

 普段は偉そうにふんぞり返っている工場長も国王の前では、大人しく紳士な態度だ。

「イヴ・シュタイン。体調はどうか?」

「はい、最近は貧血も少なくなって調子が良いです。気にかけてくださって。ありがとうございます」

 イヴが慇懃に答える。後で聞いたのであるが、以前体調不良で苦しんでいたイヴを王様が助けたことがあるそうだ。国民の一人一人に気をかける賢王、アルベルト=クロノス。定期的にお忍びで町に出たりもするらしい。

「橘賢人。今回三人を呼んだのはお前の今後のことで、相談があるからだ」

「相談ですか?俺の今後のついて?」

「ふむ、クロド。お前から見て、橘賢人はどういう男か」

 工場長がちらりと俺を見てから答える。

「はぁ。悪い奴じゃないです。仕事は真面目にやってますし、訪問者だがこの世界にも大分親しんできたと思います」

「ふむ、イヴ。お前はどのように見ている?」

 イヴさんも俺の顔をチラリと見てから答える。

「……良い人だと思います。優しくて。今回の決闘も、ケントさんがいなければ。きっと……」

 正直、こう、恥ずかしい。ただ、悪い印象じゃなくって良かった。しかし、この質問に意味があるのだろうか。

「ふむ、では仮にこの男が工場を離れることになればどうか?」

 何を言い出すんだ。この王様。

「ちょ、ちょっと。何を急に―――」

「今は、クロドとイヴに話を聞いておる」

 国王の静かで重厚のある声そう言われては、俺は黙っているしかない。

「そうですね。まだ、見習いという立場ですし、こいつが居なくなって大きく困る訳じゃありません。ただ」

「ただ?」

「できれば、こいつには色々教えて、この世界でいっぱしに働ける実力を身に着けて欲しいと思っています」

「イヴ。お前はどう思う」

「……はい。ケントさんは、うちに来てから工場の皆とも仲良くなっていますし。このお仕事を辞めることになったら、みんな悲しむと思います。……もちろん、私も」

 この発言はうれしい。特に「もちろん、私も」のところが。

「ふむ、橘賢人。ずいぶん、信頼を受けているのだな。中々いないぞ、この短期間でここまで評価される訪問者は」

 なんか知らんが褒められた。

「はぁ、ありがとうございます」

「しかしだ。しかし、この短期間で二人の能力者の能力を暴き。決闘に勝利した訪問者はこの国の、いやこの世界の歴史を見てもいないだろう。その知略、行動には驚嘆させられる」

「……」

 いや、知略は無かったのだ。自分で考えた能力だから気が付けただけである。なんとか否定しようとしたが、国王はさらに言葉を続けた。

「私はこの国王として、一つの決断をした。適材適所、クロドの工場を卑下するわけでは無いが、知謀と探求に長けた者には相応しき仕事があろう。橘賢人は我が国における探偵の称号と資格を持つに相応しい男であると結論付けた」

 国王の有無を言わさぬ話の後に、工場長の口から言葉が漏れた。

「探偵、ほ、本当ですか?」

 イヴも工場長と同じように驚いた声で言った。

「探偵……。すごい」

 どうやら、分かっていないのは俺だけだった。

「探偵?」

 イメージするのは、眠りの小五郎、コナン君、金田一少年などの漫画のキャラクターやシャーロックホームズである。国王が俺に向けて説明を始める。

「この世界にやってきたときに、能力を持つものとその能力を調べることの罪については説明したな」

「はい」

 もちろん、覚えている。国王の能力を聞いただけで、怒られたのはちょっとしたトラウマだ。

「その時に、国で認めた者に、能力に関して調べることを特別に認めていると教えたはずだ。相応しいと判断された者をこの国では探偵と呼んでいる。この称号を持つものは、必要があれば能力者の能力を調べることができる。定期的に王宮に報告をすることで国の平和と秩序を守る守護の一翼を担ってもらうのだ。やってくれるな?」

 お断りします。よくわかんないし。と、断れれば良かったが、国王の有無を言わさぬ言い方と、イヴと工場長の羨望の眼差しを受けて断れる感じでは無かった。

「はぁ……。分かりました。……善処します」


 この日、この国において異例の探偵が誕生することになった。知識なし、知性なし、戦闘能力なし。この世界の能力がまとめられた中二ノートを持つ以外は、平凡な俺の異世界生活はどうなっていくのだろうか。

 ここまで見て下さった方。どうもありがとうございます。すごく時間がかかりましたが、人区切りつけることができました。

 能力が支配している異世界で、能力は持っていないけどちょっとチートな主人公の探偵物語を書きたいと思い、書き出しましたが思ったよりまとめられませんでした。

 駄文、遅筆、不定期更新ですが、これから色々なキャラクターを出して。時にギャグ寄り、時にシリアスなドタバタした偶像劇にしていきたいです。

 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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