異世界探偵業 第一の依頼⑤
探偵になった時に国王から、定期的に城を訪問して能力者の報告をするように言われていた。今日はそのために、わざわざ城まで足を運んだのだった。てっきり最初に会った時と同じ部屋で会うことになると思っていたが、通されたのは大臣の部屋だった。
興味のなさそうな顔をした大臣に、この前の電撃使いのことをまとめたレポートを提出した。……ろくに読まずに、箱に放り投げられたが、多少なり金をもらったので良しとしよう。
帰るために城内の廊下を歩いていると、見覚えのある二人組を見かけた。灰猫の騎士団、ロイさんとレンさんだ。以前、出会った時とは服装が違っている。軽装ながらも鎧とマントを付けた二人は、それこそ物語に出てくる騎士様だ。
「おーぃ……」
挨拶をしようと手を挙げて、声を出した。しかし、その声は尻すぼみになった。二人の表情が、あまりに険しかったからだ。
「ん?探偵じゃねぇか。お前も城に用事か?」
お互いの手が届きそうな距離になって初めて、レンさんが声をかけてきた。その時の表情と声は以前のように快活な感じだ。しかし、やはりどこか元気がない。
「えぇ、まぁ……。あ、そうだ!ちょっと臨時収入が入ったんですけど。この後、酒場でいっぱいどうですか?奢りますよ」
正直、奢れるほど金に余裕がある訳では無い。しかし、暗い二人の空気を少しでも変えたかったのだ。
「……すまない、ありがたい申し出だが、また別の機会に。少々厄介なことになってしまってね」
ロイさんが、少々ぎこちない笑顔で答えてくれた。だが、厄介なこととは何だろう?その答えは、すぐに分かった。最も、答えてくれたのは、ロイさんでもレンさんでもなかったが。
「おやおや。これは、灰猫の騎士団のお二人ではないですか?」
背後から、声が聞こえた。どこかねっとりとした。耳につく声。振り返ると、緑色の鎧に身を包んだ二人組が立っていた。細身と大柄の男の二人組。ロイさんが、細身の男に声をかける。
「お久しぶりです。スネイク卿」
スネイク卿と呼ばれた男は、大げさな手ぶりを含めて話し始めた。
「シュナイド卿。どうしたのですか?滅多なことでは城には来ないあなた達が……。いや、来ないのではなくて、来られないのでしたね。団を維持するのがやっとと聞いていますよ。ふふっ」
「相変わらず、嫌味な奴だ。余計なお世話だよ。ヘビ野郎」
「だ、団長への。ぶ侮辱は。ゆ許さない」
レンさんの言葉に大柄な男が前に乗り出してきた。改めて顔を見るとどこかカエルに似た男だ。
「よしなさい。グログ、頭の悪い人の相手にしてはいけないと教えたでしょう。だが、シュナイド卿、無礼な団員は騎士団の品位を下げますよ」
「……彼の発言は謝罪しよう。だが、我々がここにいる理由を、あなたが知らないとは思えないな」
「おや?どういうことですか?」
「今回、王に召集されたのは、我々に対して離の決闘が申し込まれたからだ。決闘を申し込んできたのは、あなたの緑蛇騎士団にいた男だと聞いている」
「我が騎士団は大所帯なもので、自分の騎士団を起こすために辞めるものも少なくない。一々把握は出来ません。しかし、離の決闘ですか?それはそれは、恐ろしいことです。負ければ、灰猫の騎士団は解体になる訳ですね」
解体の言葉に、俺は二人の表情が暗い理由を知った。スネイクは言葉を続ける。
「最古の騎士団もこれで歴史に幕を下ろすのですね。実に残念だ」
「まるで解体が決まったような言い草だな。嘘でももう少し、残念そうな顔は出来ねぇのか?」
「いやいや、心から残念に思っていますとも、私はポーカーフェイスですので、そのように思うだけですよ。…おや、そう言えばこの方は?新しい団員を雇う余裕があったのですね」
「違いますよ、スネイク卿。彼は、この前知り合った訪問者です。挨拶をしていたところです」
「訪問者……。なるほど、あなたですか。タチバナケントとかいう知恵者、国王様のお気に入りというのは」
スネイクの品定めするような視線が、俺にまとわりつく。
「ど、どうも……」
スネイクは細身で正直強そうな雰囲気は無い。しかし、蛇を思わせる視線からは、威圧感のようなものを感じる。蛙が蛇に、にらまれるとこんな気分なのだろうか。
「ふっ、あなたも探偵の名を持つのであれば。考えて友人は作った方が良い。少し頭を働かせれば分かるでしょう?」
スネイクの言葉があまりに挑発的なので、俺も自然と喧嘩腰になる。
「いや、考える必要もないです。立派だろうが、屑とは友達にはなれそうにない」
「ふふっ。そうですか、その判断が身を滅ぼさないと良いですね。では、また」
そう言うと、スネイクはグログを引き連れ去っていった。できることなら、蹴りたい背中だ。
「後ろからドロップキックでも食らわせてやろうか……」
……どうも、レンさんも同じ考えのようだった。
この国の治安維持は、大きく分けて二種類の集団によって行われる。一つがお尋ね者を捕まえる報奨金や、住民などの依頼を受けて生計を立てる冒険者の集団。もう一つが、国が認め、王国からの依頼を受け治安維持をおこなう騎士団だ。
さらに騎士団は、国王が任命する五大騎士団とそれ以外の騎士団に分けられる。五大騎士団は王国直属ということもあって、他の騎士団より地位が高く、できることが多い。しかし、その分制約が大きく、かけられる期待も多い。
そして、離の決闘というのは五大騎士団に対して、他の騎士団が王国直属の座をかけて決闘を申し込むことだ。負けた騎士団は即解体することになっている。解体を避ける方法は一つ。決闘に勝つことである。
灰猫の騎士団は、2週間後の決闘に勝利しなければ、解体することになる。




