龍の御子と光の勇者〜邪魔者を添えて
初投稿です。
そこは地獄のような戦場だった
数万の兵がぶつかることで起こる剣戟の音、空から落ちる稲妻、あちこちで起こる爆炎、全てを洗い流すかのような津波
地上で起こる天変地異がそこに集約されたかのような地獄だった
地には死体が横たわり、流れた血により足元はぬかるみ怒号と悲鳴と死で満ちていた
そんななか戦場の中心には大きな空白があった
そこでは人智を超えるような激しい戦いが行われていた
「オラァ!クソイケメンさっさと死にくされや!」
大気を震わせるように叫びながら腕を振るうのは5mを超えるかのような巨体を誇る真紅のドラゴン
体表の鱗はギラギラと陽の光を反射し並の攻撃や魔法では傷をつけることすらない
「全くもってナンセンス、そんな大振りな攻撃当たるわけないだろ?」
対するのは純白の鎧を着た見た目麗しい青年
右手に持つは透き通るような羽を模した大剣
左手に持つは塔のように聳える大盾
「クソッ、ちょこまかとうざってぇ!いっつもいいとこで邪魔してきやがってなんなんだテメェはよ!」
目の前にいる宿敵へとその剛腕をふるい、地を砕き土砂を巻き上げ稲妻を降らし攻撃するも青年は涼し気な表情で回避する
「そんなことわかりきっているだろうに、私は王国の光の勇者で君は帝国の龍の御子つまり敵同士さ」
その返答にさらに苛立ちを募らせたドラゴンはさらなる破壊を成すため大きく息を吸い己の最大の技を放つ
「これで消し飛べ!『龍の咆哮!』」
紅き龍の体内で増幅された破壊の咆哮は周囲の全てを消し飛ばさんと放たれた
「それは流石に当たれば不味い当たれば、ね『聖母の護り』」
青年は己のマナを総動員し、ドラゴンを包み込むように球体の障壁を構築した
周囲を蹂躙する筈の咆哮はその障壁により反射され、中にいるドラゴンへとその力を振るう
結果己の最大の技により自滅することとなるのだった
「ぐっ…クソッ…」
ギラギラと輝く鱗は無残にもヒビ割れ、全身より血を流し真紅のドラゴンはドゥと地に伏した
「ふぅ、これで君との因縁も終わりだ」
青年はマナの枯渇による目眩に耐えつつボロボロになり地に伏したドラゴンの首目掛けてその大剣を振るう
『ストーンウォール』
ドラゴンの首落とさんと迫る大剣は大地より聳える様に現れた強固な岩石の壁により阻まれた
「チッ、誰だい横槍入れるなんてナンセンスなことする人は」
周囲を油断なく見回しながら誰何する
「残念だけどそこまでだ、今そいつを殺されると困るんでね」
青年の後ろに魔術師のようなフードを被り右手に光るカードを持つ男が現れた
「認識阻害系のフードですか、本当にナンセンス方ですね。名前くらい名乗ったら如何ですか」
油断なく構えつつ名前を問う
「普通名前を聞くなら自分から名乗るものなのだがな。まぁいいか俺は元部キョウスケただの札使いだ以後よろしく光の勇者サマ」
新たに2枚の札を取り出し1枚を青年の足元へと投げ、もう1枚は横たわるドラゴンの方へと投げる
「それはなんですか?」
ドラゴンと青年の近くに落ちた札を訝しげに見ながら問う
するとニヤリとキョウスケは笑いつつ札を発動する
「こいつはな回復魔法だ『エクストラヒール』」
札から暖かな光が放たれ気づ付いたドラゴンとマナの枯渇により今にも倒れそうな青年を回復させる
「ぐっがあァー!クソ勇者!」
傷つき倒れ伏していたドラゴンがその身をガバッとはね上げ、周囲を見渡し壁の向こうに宿敵の気配を感じたのか暴れ出した
「グオー!クソ勇者そこにいるのはわかってんだ隠れてないで出てきやがれ!」
強固なストーンウォールも巨体から繰り出される攻撃に少しずつ欠けたりヒビ割れができてきた
「やれやれ全く元気なもんだな。このままじゃ話もできないし取り敢えずこいつ黙らせるか『天空の龍王バハムート』」
キョウスケは懐から蒼く輝く札を取り出すと天高く投げると目もくらむ様な光を放ちその光が実体をとりはじめた
現れたのは200mを超える巨大な龍
神々しいまでに蒼く滑らかな鱗と強い意志を感じさせる黒い瞳、背中には4枚の大きな翼、口の端からは黒い稲妻がバチバチと音を立て迸る
その堂々たる体躯
顕現したるはこの世界の王者たる龍王の一角を担うバハムート
地上で争っていた両軍の兵もあまりの威光に竦み指揮官ですら動けずにいた
暴れていた龍の御子や何が起こってもいいように身構えていた光の勇者でさえ一時呆然となった
そこにある、ただそれだけの事で人々は死を予感し恐怖し逃げ惑った
真紅の龍も、光の勇者も今すぐ逃げ出したい衝動に駆られるも蛇に睨まれたカエルの如く動けずにいた
「大丈夫何もしなければ攻撃はされないさ。ではこの邪魔な壁は壊して改めて自己紹介をしよう俺は元部キョウスケだよろしく、龍の御子田中龍一君光の勇者吉田光太郎君」
そうして自己紹介したあと二人に向き直った男はついに口を開く
「さて話をしよう、この世界の真実を」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回作へご期待ください(ないかも…)