ミクトラン王国にて
「おい、まだ見つからんのか」
ミクトラン王国の応接間、その玉座に座る青年は、控えた家臣に対していらだち気味にそう尋ねた。
「申し訳ございません!森の探索、並びにその周辺も探索させておりますが……これといって重要な痕跡等は発見できておらず……最悪の場合、ヴァルスリア王国に亡命している可能性も」
「もうよい。下がれ」
相手に、言い訳をさせる間もなく彼は家臣を退室させた。
「全く、どいつもこいつも無能ばかりか」
「そういいまするな、殿下。少々焦り過ぎですぞ。そもそも行方が分かっていないのは第5王子のみ。未だ7歳の子供です。すでに死んでいてもおかしくはないでしょう。もし生きてたとしても、あなた様に対抗できるほどの家臣もいなければ人望もないのですから」
そういって、殿下と呼んだ青年を諭すが、青年はそれに対してあきれたように反論する。
「そういう、小さな事柄から窮地は訪れる。過去の歴史でも、温情から生かしておいたために戦争で敗北を喫した、というのはそう珍しいことでもない」
「……」
「私とて、あやつが何かできるとは考えておらん。しかし、もし奴が生きていれば不満を持つ貴族たちにより祭り上げられることは十分に可能性がある。事実、私以外のものがあやつを探している動きはあるのだろう?それも一人ではなく複数」
「……そうですな」
「念には念を。それが私の方針だからな」
そう言って彼はそれまで話していた家臣の反対隣に控えるものに視線を向ける。
「それで、私の即位に関してはいつ発表するのだ?」
「……もう少し待った方がよいでしょう。未だあなた様の即位に反発するものも多くおります。やはりほかの王族を全員処刑したのはやりすぎだったのでは……」
「先までの私たちの会話を聞いていなかったのか?」
「い、いえ。申し訳ございません!」
「まあいい、前にも言ったが即位の時期や段取りについてはお前に任せている。できるだけ早くしろ」
「分かっております、殿下」
そうして、二人の家臣を下がらせ深く息を吐き椅子に体重をあづける。
「おるのだろう」
そう、青年が問うと誰もいなかったはずの背後からローブで身を包み、深くフードを被ったものが姿を現した。
「気づいておいででしたか」
「……気づいてはおらんよ。ただ、そうではないかと思っただけの、ただの予想だ」
「ホホ、これは一本取られましたな」
声は、女のもののように感じる。だが、その口調、態度などがどうもちぐはぐは印象を与える。おそらくは正体を悟られないためにわざとそうしているのだろう。
「我が主からの伝言です。『やり過ぎるな。できる限り早く即位せよ。こちらはすでに準備ができている』とのことです」
「了解したと伝えろ」
「かしこまりました。そう主には伝えましょう」
そういってそのものは姿を消した。
「……」
しばらく応接間には物音ひとつない、静寂が訪れた。
ややあって、青年は口を開く。
「ふん、卑怯者めが」
それは、先のものに対する言葉か、はたまた青年自身に対してのものか。分かるのは青年本人だけである。
□ □ □
『ほう、わかった。できる限り早くこちらに戻れ』
「心得ております」
そう言って、フードの者は誰かに対しての通信を切った。場所はどこかの森だろうか。
「やれやれ、あの人も人使いの荒いことで」
あの人、というのは先ほどまで通信していたもののことだろう。
「それにしても、この国は大丈夫なのか?支援した我々が言うことでもないが、王族皆殺しはさすがにやり過ぎだろう」
そう独り言をいいながら、そのものは歩を進める。しかし、その速度は尋常ではない。
そのものが主のもとにたどり着いたのはそれから数時間後のことだった。




