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出会い

翌朝。


ミアとポーラは朝食を食べた後、ペンダントを探しに森へ行くためリューナのところに行った。

特に許可をとる必要はないが、森に行くときは必ずその旨を誰かに伝えることが約束事になっていた。


「リューナ」


ミアは朝食の片付けも終わり、毎朝の習慣である礼拝のため礼拝堂に向かっているリューナを呼び止めた。


「なあに?」

「ポーラと一緒に森に行こうと思うから、一応リューナに言っておこうと思って」


ミアの言葉を聞いて、ミアとその後ろにいるポーラに目を向けた。どちらも昨日森に入ったときのような服装をしていることに気づく。

いつもはミアとポーラが一緒にいるときポーラが話をすることが多いが、今日は珍しくミアが会話を主導している。後ろのポーラが少し顔を伏せっているところを見ると、ペンダントを落としたことに対して後ろめたさがあるのだろう。


「分かったわ。でも、もう少し待ってね」

「え?」

「ミアたちはこのまま森に行こうと思ってたんだけど」


確かに時間的には朝も早い時間ではあるものの、気持ちが逸っている二人は森に行きたい気持ちでいっぱいだった。


「私も一緒に行こうと思ってるから」

「……別にわざわざついてこなくても大丈夫だよ」

「二人より三人のほうが見つかる可能性はあるでしょ?」

「でも……」

「いいのいいの」


リューナが渡したペンダントは、効果は怪しいものの実際に貴重な鉱物が使われている。さらに言えば実はもらったものではなく友人が効果確認のためにリューナに預けた試作品だ。その友人はおもちゃのようなものだと話していたが、さすがに無くしたとなればその友人も文句の一つや二つ言ってくるだろう。そんなことで貸しを作りたくはない。


「じゃあ、ちょっと待っててね。すぐ終わらせてくるから」


そう言って、リューナは礼拝堂に入っていった。


その後、礼拝が終わりリューナの支度が済んだのは一時間ほど後のことだった。


 □ □ □


ミア、ポーラ、リューナの三人は昨日ミアとポーラが通った道と同じ道を進んでいた。


「うーん、見つからないわねぇ」


ポーラが転んだのはまだ先の場所だがその前に落としていないとも言い切れない。三人は周囲を見渡しながら進んでいく。時々立ち止まっては草むらを探したりしたが、それらしいものは見つからない。


「やっぱ森じゃなくて村の中とか?それとも実はもう通り過ぎてたり……」


見つからないことに焦りと不安、罪悪感を感じているポーラはいつになく弱気だ。リューナもその不安はあるし、誰かが持ち去った可能性もある。考えていけばキリがないと消極的な思考を排除する。

そんな二人と違い、ミアは黙々と探している。二人よりも不安が少ないのもそうだが、何より昨日の感覚との差異を感じていた。獣除けの効果があると聞いて、そういえば獣の気配があまりなかったとミアは感じていたが、よく思い返してみると行きがとても少なく、帰りは普段と変わらないくらいの気配は感じていた。仮にペンダントの効果が本物だったら獣の気配を感じない場所にペンダントはあるはずだ。もちろん効果がない可能性もあるが、状況証拠的に少なからず効力はある。ミアはそう考えていた。



(あれ、今のって……)


特に何の収穫もないまま、競争を始めた地点の少し前まで来たとき、ミアは妙な気配を感じていた。


(これって、人の気配?)


昨日の行きのように、獣の気配が少ないのだが、近くに獣ではない、人間のような気配を感じたのだ。その気配も希薄で、気のせいであることも否定はできない。だが、その気配が気になったミアは気配を感じた場所まで走っていった。


「なんだろ、ミア。いきなり走り出したりして」

「もしかしたら見つけたのかも。ついていきましょう」

「そうだね」


何の収穫もないことに焦りが頂点に近くなっていたポーラとリューナはいきなり走り出したミアの後をついていくことにした。全く手掛かりがない上に焦りで冷静な判断もでていない二人は競争をした場所が近いことにも気づいていなかった。リューナの場合はミアからきいた程度の情報なので正確な場所がわからなかったということもあるが。


ミアが向かったのは普段使う道からはそんなに離れていない草むらだった。


(このあたりだったと思うんだけど……)


ミアは一旦ペンダントを捜索するのをやめ、さっき感じた人の気配の正体を知ることを優先した。もしかしたら、その人がペンダントを見たり、拾ったりしている可能性もあるからペンダント捜索から大きく外れてはいないだろうという考えもある。


「ミア―、見つかったの」


期待を込めたような声でポーラは尋ねた。


「ううん、まだ。でもさっき、ここで人の気配を感じて」

「人の気配?」


ポーラに尋ねられ、再度周囲の気配を探ろうとして獣の気配が希薄になっていることに気づいた。


「うん、それにこのあたりっていつもの道から外れてて動物もいっぱいいるはずなのにほとんど気配を感じない。多分この辺りにあるんじゃないかな」

「はぁはぁ、それなら……この辺りを手分けして探しましょうか。ミアの気配察知くらいしか頼れる情報がありませんし」


よほど普段から運動をしていないのか、ポーラの後を追ってきたリューナは息を切らしながらそう提案した。


「この草むらをかぁ……」


ポーラがうんざりしたように溜息を吐く。それも無理はないだろう。周囲を探しながらそこそこの距離を歩いた挙句、自分の背丈くらいの草がたくさん生えている草むらでペンダントを探さなければならないのだ。さらに言えばここにペンダントがあると決まったわけでもなく、ミアの勘によるところが大きい。子供でなくても気が滅入る作業であることに違いはない。


「それにこの辺りはポーラが競走の特に転んだ場所とも比較的近いから可能性は高いよ」

「え、あ、ほんとだ。もうそんなに歩いてたんだ」


ミアに指摘され周囲を見渡してみると、昨日の競争でゴールにしたククリの木があることに気づいた。ずっとしたばかりを見ていたから気づいていなかったのだ。


「じゃあ、手分けして探しましょう。ミアはあっちをお願い。ポーラはそっちね。私はここを探すから。あんまり遠くに行っちゃだめよ」

「「はーい」」


そうして、三人で手分けした探索は、意外にも十分ほどで終わった。


(あれ?)


草むらの中で探していたミアが、ふと顔を上げたときと誰かのズボンの裾が見えたのだ。


(あれって、ポーラでもリューナでもないよね?じゃあ一体……?)


もしかして、さっきの気配の人間かと思い慎重に近づく。すると、その足元に青く光る宝石のようなものが見えた。


(あれ、もしかしてペンダント!?)


意外と早く見つかったことに安堵し、だが慎重にその人の近くに行く。すぐ近くまで寄ってもこれといって反応を見せないため、完全に気を失っているかもしくは死んでいるかのどちらかではないかと考える。

もしものことを考えて、気づかれづらく瞬時に襲うことが難しいであろう足元から近づく。どちらにしろペンダントがあったのは足元なのだ。危険を冒す必要はない。

ミアは、この人を連れて帰るにしても放っておくにしてもリューナに相談すべきだと思ったためとりあえずはその場所に放っておいた。どちらにしても、ミアの腕力では動かすのは大変そうだが。


「リューナ、ポーラ、ちょっとこっち来て」

「どうしたの、ミア。見つかった?」

「うん、それとちょっと問題があって」


倒れている人とペンダントを視認できる位置から動かず、声でペンダントがあることをリューナたちに知らせる。もし、倒れている人が害をなす人間で実際には意識があった場合は完全に悪手だが、ミアはそこまで気が回らなかった。

幸い、その声でその人が起き上がることはなかった。


「どこにあるの?」


リューナはミアのところに移動しながら尋ねる。それに対し、ミアはペンダントと人間が倒れているところを指さし、リューナに場所を伝える。


「あと、誰かが倒れてるようなんだ」


ミアがそう教えたのと、リューナが倒れている人を発見したのはほぼ同時だった。


(この人は……!)

「えっ、だれが倒れてるの?」


唯一まだ発見できていないポーラは興味本位でリューナのほうに向かう。

リューナはまず、その人の足元にあるペンダントを回収した。そしてその人の服装や状態、脈拍などを見る。


「……大丈夫、脈もあるし呼吸もしっかりしてる。外傷は結構あるけど、ほとんどは擦り傷とか切り傷ね」


リューナは倒れている人の大体の状況を確認し、ペンダントがあったことと生きていたことに安堵する。


「……男の子?」


リューナが診察しているのをミアと一緒に少し後ろから観察していたポーラは倒れている人が、自分と同じくらいの年頃の少年であることに気づいた。


「あんまり傷は深くなさそうだけど、服はあっちこっち破けてるね」

「獣に襲われたとかじゃない?」

「……いえ、木の枝に引っかかったり転んだりしたような傷だわ。とりあえずペンダントも無事に見つかったことだし、この子を連れて早く孤児院に戻りましょう。傷の手当てもしてあげたいし」

「……わかった」

「そんじゃとっとと帰ろう!」


リューナは拾ったペンダントを首にかけ、服の中にしまう。その後、少年を背負っていつもの道へ向かった。ミアとポーラはその後ろをついて歩いていた。


(何か、厄介ごとのにおいがするわね)


ミアとポーラは気づかなかったが、少年が来ている服はかなりボロボロだが生地はかなりいいものを使っていた。貴族の子供が来ていてもおかしくないくらいのものだ。そんな服を着ている少年が森の中で傷だらけで倒れているというのは、違和感しかない。

傷に関しても、膝や肘といった子供がよく転んでけがをする場所のほかに、肩やわき腹といったところにも傷があった。普段通りの生活をしていたらこんなところに傷はできない。さらに言えば、受け身を失敗したのか顔にも傷が見られた。


(よっぽど焦って走っていたようにも見えるけど……どうしてそんなに焦る必要があったのか)


何かに追いかけられていた、ということが最も考えられるだろう。だが、何に追いかけられていたのか。


(獣って可能性も十分あるけど……人って可能性も十分すぎるほどにある)


「ねえ、リューナはどう思う?」


リューナが一人で考え込んでいると後ろからポーラが話しかけてきた。


「え?何が?」

「だから、その男の子だよ。こんな森の中で何してたんだろうなーって思って」

「ミアは、ただの迷子だって思ったんだけど……」

「だったらどこから森に入ったんだろうって思ってさ」

「たしかに、そうね」


この森はかなり広いため、森の入り口も何個かある。だが、少年が倒れていた場所から一番近いのはリューナたちが住んでいる村の近くにある入り口だ。外部のものがその入り口から森に入ることは珍しくないが、そのほぼすべての人が村に立ち寄る。村を大きく迂回すれば村に入らずとも森に入れるが、そこそこ大きな村だ。迂回するにもかなりの時間を要する。だが、一番近い他の入り口でもこの場所からはかなり離れていたはずだ。


「ねぇ、リューナはどう思うの?」


また考え込んでしまったリューナに対してポーラは回答をせかすように話しかけた。


「え?うーん、やっぱり別の入り口から森に入ったんじゃない?」

「やっぱり、リューナもそう思うよね」

「別の入り口っでどの辺にあるんだろう?」

「さあ、私も詳しくは知らないから」


(でも、仮に入り口から入ったのならこの国の人間じゃない)

(私が把握していない森の入り口があるとすれば)

(ミクトラン王国の入り口)


森を抜けるころには、リューナはこの仮説に確信をもってたどり着ていた。


(正確な情報を集めなきゃね)


これから起こる面倒ごとを考え、少し気分が陰鬱になるリューナだった。

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