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ミアの実力

ミアがエインの助けに入ったときには、すでにエインは満身創痍な状況だった。


(油断してた)


魔物に対するエインの立ち回りを見て、思ったよりも余裕がありそうだと判断したミアだったが、結果としてその判断は間違っていたのだ。

事実、エインが焦って反撃を行わず、魔物の攻撃をよけることを第一とした立ち回りをしていれば、魔物の予想外な行動にもある程度対応はできていただろう。

しかし、エインが考えたように体力的の問題もあるため、結果論でしかないが。


エインはミアが魔物を吹き飛ばしたという予想もしなかった事態に呆然としている。しかし、エインがいる場所はこれからミアが魔物と戦う場合、巻き込まれる危険性の高いところだ。


「エイン、立てる?」


未だにエインは、呆然としているうえに大きなダメージを負ったことで意識が朦朧としている。ミアが何度か言葉をかけると、ようやくエインは反応してなんとか立ち上がる。


「ああ、なんとか大丈夫だ。まだ戦える」


ボロボロになりながらも、ミアが戦うという選択肢が頭の中にないエインはやせ我慢をして、そう口にする。


「今のエインじゃ足手まとい。早く隠れていて」

「おい、足手纏いって……!」

「今まで頑張って抑えててくれたんだから、今度はミアが頑張る番」

「でも……」


エインが持っているミアのイメージは仕事以外では大体図書館か勉強部屋で本を読んでいる、インドアな女の子だ。どうひっくり返しても、魔物と戦うような人種には感じない。

エインはミアに対して抗議しようとするが、ミアはエインの言葉を聞くより先に魔物に突っ込んでいく。


その速さはエインの比ではない。感覚的に言えば、魔物と同程度にも感じる。


「くっ……!」


あとを追いかけようとするが、エインの体はボロボロで、まともに走ることも難しい。

どちらにしても、まともに戦えない体であることを自覚したエインは、ミアの言うことを聞いて、おとなしく物陰に隠れることにした。


ミアは、先ほど殴り飛ばした魔物と対峙する。かなり派手に吹き飛ばしたが、ミアが思っていたほどのダメージは入っていないようで割と簡単に立ち上がる。


(やっぱり、皮膚も強化されてるんだ)


基本的に魔物は全て、自身の魔力によって体を強化する。目の前の魔物の場合、特に脚力が強化されている。だが、大抵の魔物は体全身を強化しており、武器となる場所を重点的に強化する傾向にある。この魔物も例にもれず、皮膚も硬度も強化され高い防御力を備えているのだ。


(思っていたより厄介かも)


本によって魔物の特徴や性質はある程度知っているが、こうしてまともに相対するのは初めてのことである。ミアはエインのほうに意識を向け、自分が行ったように避難したことを確認すると、目の前の魔物に全神経を集中させる。


すると、魔物が予備動作もなく突進してくる。予備動作がないにも関わらず、その脚力により十分すぎる威力だ。


(甘い!)


全神経を集中し、相手の動きの一切を見逃さなかったミアは最も効率のよういであろう体さばきで魔物の攻撃を流す。遠くからミアを見守っていたエインは気が付いたらミアが攻撃をかわしていたような感覚で、あたかも瞬間移動したかのような早さだった。


「フッ!」


魔物の攻撃をよけ、その横腹に向けて掌打を放つ。狙いは先ほど攻撃した場所と同じところだ。

先ほどとは違い、不意打ちではなかったことやミア自身がどちらかといえば回避のほうを意識していたため、大きく吹っ飛ぶこともない。


(思った以上に通りが悪い。頭に当てられたら一番いいんだけど……)


大抵の生物は頭部が急所だ。魔物も強化されているとはいえ横腹よりは通りがいいだろう。

だが、この魔物は頭から猛スピードで突っ込んでくる。頭を殴るには被弾覚悟で攻撃するしかない。隙を見て攻撃しようとしても、今のように予備動作のない攻撃をされたら、とんでもない痛手を負うだろう。

時間をかけて攻撃を繰り返すほうがいいのだが、ミアが戦える時間は限られている。


(でも、ここで焦って攻撃したらエインの二の舞)


焦らず、注意深く魔物の動きを観察する。今までは突進くらいしか攻撃を行っていないが、だからと言って他の攻撃手段がないと決まったわけではない。事実、エインは突進もパターンが一つしかないと思い込んだことによって被弾している。


(来る!)


先ほどとは違い、分かりやすい予備動作からその突進が繰り出される。その分、突進の威力も速さも先ほどの突進を上回っている。


だが、予備動作がある分ミアにとってはむしろ先ほどの突進よりも避けやすい。魔物の突進に合わせて先ほどと同じようによけようと試みる。


「!?」


だが、魔物の行動は予想外のものだった。突進がミアに届くより前に跳躍したのだ。そのまま、ミアにのしかかるように飛んでくる。

ミアは、突進に合わせるように体を動かしていたため、タイミングをずらされたことで一瞬硬直してしまう。


「っ!」


ミアが予想外の攻撃がある可能性を考えていたのが功を労し、ギリギリのところで体を転がすようにしてその攻撃をよける。


運よく、間一髪で避けることに成功したミアは、さらなる予想外の追撃を警戒し魔物から距離をとる。


自重によるダメージを若干期待したが、そううまくいくはずもなく何事もなかったかのように立ち上がり、追撃する。


「!」


かなり無理な動きをしたため、まだ体制を完全に建て直せていない状態での突進に対応に若干遅れる。

とにかくその場から大きく離れるために、地面をけって跳躍する。無理な体制からの跳躍に、着地に失敗し地面を転がる。服が所々破れ、露出していた部分は傷を負っているが結果として魔物から距離をとることには成功した。


想定外のことを気を付けていても、ギリギリの回避しかできないことに、何とか対応策がないかと思考しようとするが、魔物の追撃がそれを許さない。

魔物は突進を急停止し、ドリフト突進に切り替えミアに迫る。

思っていたよりもスピードはなく、また十分に離れることができていたミアはその対処はだいぶ楽になっている。


(このくらいなら!)


試すように、魔物の突進に合わせて掌打を放つ。魔物の顔面に掌打が入る。そんなに力を込めたわけではないが、魔物の突進力が大きいため確かな手ごたえを感じる。そのまま手のひらで魔物の攻撃方向を若干ずらし、ずらした方向とは逆の方向に体をずらす。

結果、魔物に攻撃を加えつつ、魔物の攻撃を受け流すことに成功した。


「よし!」


うまくいったことに思わず声を出す。

ちなみに、魔物がボディプレス、突進、ドリフトの連続によって最後のドリフトの威力がそれまでの突進に比べて大きく低下していたためにできたことだ。ミア自身、それを感じたからこそこの反撃を試みたのである。


魔物は力を受け流されたことで、ミアからかなり離れた位置でようやく停止する。もう少ししたら草むらに突っ込むか木に激突する可能性も十分あり、魔物が必死になってブレーキをかけたことによってギリギリで停止することができたのだ。


ミアの攻撃をまともに受けてしまったことで、魔物の怒りは頂点に達していた。魔物が体制を立て直し、より強力な突進を食らわせようとミアのほうに振り返ったその瞬間、


「はぁ!!」


魔物が体勢を立て直すよりも前に、ミアが魔物に迫っていたのだ。魔物がブレーキをかける数瞬前にミアが魔物に対して突っ込んでいたのだ。そして、魔物がミアのほうに顔を向けるタイミングで全力の速度と力を込めた拳を魔物の眉間にお見舞いする。


完全に油断しきっていた魔物はその一撃をくらい、踏ん張ることもできずなすすべもなく吹き飛ぶのだった。


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