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出発

ミアが朝食を食べ終えてしばらくすると、エインが食堂に入ってきた。


「おはよう、ミア」

「おはよう」


軽く挨拶はするが、少しぎこちない。そもそもこの孤児院でお互いに会話することが少ない上に、こうして二人きりになるのはエインが目を覚ましたときが最後だったのだから、当然と言えば当然だ。


「じゃあ、ちょっと準備してくるからここで待ってて」

「う、うん」


そういって、ミアは一旦食堂を出る。ミアの服装はどう見ても部屋で過ごすことを想定してるものであったため、着替えてくるのだろう。あとは、薬草を入れるための袋か、籠を持ってくるのか。

エインは言われた通りに食堂の椅子に座って待つことにした。


「ねえ、ちょっといいかな」


すると、先ほどまで台所にいたルルがエインに話しかけてきた。どうやらさっきまではミアの使った食器を洗っていたようだ。


「どうしたの?」

「薬草、私も取りに行っちゃダメかな?」


すると、ルルは薬草採取への同行を願い出た。


「それはいいけど、午前の仕事はどうするの?」

「シュウに全部押し付けた」

「いや、それは……」

「快く了承してくれたよ」


エインが台所に目を向けると、まだ台所で作業をしているシュウと目が合った。


「いいのかよ、シュウ」

「ルルはチルルのことになったら周りのことなんてお構いなしだからな。多分、ダメとか言っても勝手についてきたりするぜ」


過去にも似たようなことがあったのか、シュウは諦めたようにそういった。


「なら仕方ないのかな?」

「本当!?よかった」


エインとしても、ミアと二人きりよりはルルがいてくれた方が会話もある程度弾むだろうという算段があった。

こうして、薬草を取りに行くメンバーに一人追加されたのだった。




しばらくして、準備を終えたミアが食堂に現れた。


「……なんでルルも来ることになってるの?」

「だって、チルルのために早く薬草をとってこなくちゃって思ったら……」

「二人が三人になってもそんなに変わらない」

「うっ」

「チルルだって、ルルがそばにいてくれる方が安心できるんじゃない?」

「そうかもだけど、リューナさんもいるし。看病とか、私がいない方がいいだろうし」


いない方がいい、というのは一体どういうことかと思ったが、エインはその言葉を飲み込んだ。


「それは……そうかも」


ルルの自己評価にはミアですら肯定の意を示す。過去にどんなことをやらかしたのか非常に気になるところではあるが、あまり出発が遅れるのもよろしくない。


「いいんじゃない、ルルも一緒で」


そういって食堂に入ってきたのはリューナだった。


「別に、着いてきてほしくないってわけでもないんでしょう。仕事もシュウがやってくれるみたいだし」


リューナの仲裁に、ミアはどこか納得していないながらも結局は了承した。


「それで、リューナは何しに来たの?」

「ああ、そうそう。これをまた渡そうかと思って」


そういって、ミアに渡してきたのは先日、ポーラが落としたペンダントだ。


「……ペンダント?」

「なぁに、これ?初めて見るけど」


エインとルルはミアに渡されたペンダントを覗き込み、リューナに問いかけた。


「私の友人が作ったものでね。なんでも獣除けの効果があるペンダントらしいわよ」

「へぇ~、そんなものがあったんだ」

「まだ、試作段階らしいけどね。この前、エイン君を見つける前日は効果はあったっぽいし、なら今日も使ってみてほしいなって。まあ、使うって言っても持ってるだけで効果あるみたいなんだけど」

「あの時も、ミアが獣の気配を感じなかったってだけで、効果があったのかはわからないけど……」

「だから、試しに今度も持っていってほしいのよ。あ、今度は落とさないでね」

「分かってる」


そういってミアはそのペンダントを薬草を詰めるための袋の中に放り込んだ。


「それじゃあ、行ってくる」

「気を付けてね、行ってらっしゃい」


 □ □ □


「薬草ってどのあたりに生えてるの?」


森に入ってしばらくして、エインは隣を歩くルルにそう問いかけた。

ルルは木剣を弄びながらエインの質問に答える。


「そこそこ距離はあるよ。私たちがよく木の実を取りに行く道とは違う道だけど、結構深くまで入らないとないんだよね」

「そうなの?」

「そりゃあ、そこらへんにも生えているとは思うけど、そんなに量はないよ。私たちが向かっているのは薬草の群生地なの」

「へぇ、ところでさ」


自分の目的地のほかに、もう一つエインには気になることがあった。


「何?」

「なんで木剣持ってきたの?」

「え、かっこいいから、なんとなく?」


さっきからルルが振り回しているのは、いつもエインが使っている木剣だ。薬草を取りに行くためにはあまり必要そうなものではないが、帰ってきた答えは案の定だった。


「一応、足元の草木を払ったり、蛇とかの生物を追い払ったりするのにも使う」


ルルの答えに、フォローを入れたのはミアだった。この森に入ってから一回も口を開かず、エインとルルの前をひたすらに歩いていたミアがフォローを入れることは二人にとってはかなり意外なことだった。

ただし、フォローはいれたもののミア自身は木剣を持ってきてはいないが。


「へぇ、そんな使い方もあるんだ」

「そう、そんな使い方もあるのだよ。あんまり使わないけど」


そんな軽い会話を続けていくと、話題はチルルのことになった。


「そういえば、ルルってチルルのことをすごく気にかけてるみたいだけど、姉妹なの?」

「え、ううん、違うよ」

「なら、どうしてって聞いてもいいのかな?」


もしかしたら、この質問がルルの過去に関わる可能性もあり、エインは少し遠慮がちにそう質問した。


「え、かわいいからだよ」

「……それだけ?」

「うん。妹みたいでかわいいくってさ、もうずっと一緒にいたいって思うのよ!名前も似てるし、ほんとに姉妹みたいじゃない?」

「うん……確かにそうだね」


ルルはチルルのことを聞かれた途端、まくしたてるようにチルルのことを話しだす。


「始まった……」


ミアはルルの声を聴いて、面倒なことになった、と軽くため息を吐いた。


「チルルってあんまり体が強くないから、体調を崩しがちなんだけど、だからこそ守ってあげたいっていうか!」

「あー、うん」


そのあとしばらくは、ルルによるチルル自慢が続いたのだった。

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