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作戦

シエンがこの孤児院に来てから1週間が経過した。

この1週間の間に、エインとシュウに剣の指導をつけていた。予定であった3日を大幅に過ぎてはいるが、シエン自身はそのことについて特に気にしている様子もなかった。


「ただ、さすがにそろそろ戻らないとなぁ」


そう話したのは、1週間が経った夕食だった。


「そういえば、もともとはもっと早くに帰る予定だったものね」

「まあ、別にやらなければいけないことがあるわけではないんだがな。ずっと仕事しないとさすがに腕がなまるし、感も鈍っちまう」


シエンはリューナの言葉に同意を示す。この1週間で剣の修業をつけているため、剣は毎日振るっていたがやはり仕事として戦うのとはどこか違うもののようだ。


ちなみに、シエンはやらなければいけないことはないと言っているが、リューナたちにミクトラン王国の情報を伝えたということを騎士であるキースに報告する必要がある。忘れていたわけではないが、エインが自分から事情を話したポーラを除いて、孤児院の子供たちはそのことを知らない。そのため、ここでそのことを口にすることはなかった。


「えー、じゃあ明日には帰っちゃうのかよ」

「仕方ないじゃない。そもそも、こんなに長くいてくれたんだし」

「でもよ、もっと剣のこといっぱい教えてほしかった……」


まともに剣の指導をしてくれるような人は、この村にはいない。シュウにとってシエンは剣の修業においてかなり重要な存在になっていた。

そして、同時にエインもそう思っている。エインの場合は剣の修業だけでなく、シエンが来たことによって自分の目的、考えなどを見返すことができた。エインにとってはすでに剣の師匠以上の存在となっていた。


「うーん、明日にはまだ帰らないよ。荷物まとめたり、いろいろ準備しなくちゃだしね。帰るのは、明後日になるかな」

「……じゃあ、もう剣を見てもらうのは無理ですかね。準備ってことは明日も忙しそうだし」

「いや、あんまり長くはできないけど、少しくらいなら見てあげるよ。この1週間のまとめみたいな意味も込めてね」

「1週間の……まとめ……」


それからは、夕食中にこの話題に触れることはなかった。しかし、エインは明日の最後の修業のことをずっと考えるのだった。


 □ □ □


「エイン、あそぼ~」


夕食の後、ポーラがエインを遊びに誘う。

エインがまだ、この孤児院に来たばかりときから孤児院に馴染んでもらうために、遊びに誘ってきていた。そのおかげもあってか、エインはこの孤児院に比較的早く馴染むことができた。

ポーラはエインが馴染んだ後も、遊びに誘う頻度が変わることはなく食事の片付けや頼まれた仕事がなければ大抵は誘いに乗ることにしていた。


「ごめん、今日はもう部屋に戻るよ」


エインも一人の時間が欲しいこともあるため、たまに誘いを断ることもあったが、そういった場合は共用の部屋でくつろいでいるか、図書館に行くかだ。食事後すぐに部屋に戻るというのはエインにとっては初めてのことだった。

それゆえに、ポーラは不満そうにすることなく、むしろ心配そうにエインの顔を覗き込んだ。


「大丈夫?熱でもあるの?体がだるいとか、吐き気がするとかは?」

「大丈夫だよ。ちょっと一人で考えたいことがあって……」


エインが言い切る前に、ポーラはエインの顔を自分の顔のほうに引き寄せる。


「え、ちょっと……」


そのまま、ポーラはエインの額と自分の額を合わせ熱を測る。

エインはいきなりのことで、とっさに反応できず、なされるがままになってしまった。


「うん、確かに熱はないみたいだね。もし気分が悪いようならちゃんと誰かに言いなよ?変に隠されて大事になる方が面倒なんだから」

「う、うん……」


ポーラのいきなりの行動にエインは顔を赤らめ、軽い放心状態に陥っていた。


「……本当に大丈夫?顔、赤いよ?」

「え、あ、大丈夫だよ!」

「そっか、ならいいけど。まあ、シュウも今日は部屋に戻ったみたいだし二人が一緒にいれば大丈夫かな」

「シュウも?」

「うん、シュウもエインと同じようなこと言ってたよ。今まで、そういうことほとんどなかったから少し心配だけど。だから、ちょっと気にかけておいてほしいかな」

「分かった。じゃあね、おやすみ」

「うん、おやすみ」



ポーラと別れた後、エインはそのまま寝室のほうに向かった。

寝室にに入ると、そこではシュウが扉の方を向いて座っていた。


「今日は早いじゃん。もっと遅くに戻るんじゃないかと思っていたぜ」

「シュウこそ、いつもはまだオルトたちと遊んでいるのに」


軽口を言い合いながら、二人は向かい合うようにして座る。お互いに目的は分かっており、相手も同じ考えであることに少しほっとしていた。


「やっぱさ、勝ちたいよな」


先に口を開いたのはシュウだった。誰に、とは言わなかったが、エインにはシュウが言おうとしていることがよくわかった。


「今のところ全敗、というよりもてあそばれている感じだしな」


この1週間でシエンと何度も試合をしているが、勝ったことはおろか一撃を入れたことのない。初日にエインが振るった剣が今のところ最後だ。

初めのほうはエインとシュウがバラバラに攻撃していたがいつからか二人で連携して攻撃するようになっていた。それでも簡単にあしらわれてしまう。


「シエンさんも言っていた。1週間のまとめだって」

「なら、シエンさんにがっかりされないようにしないとな」


お互いの意思を確かめ合い、二人で作戦を練る。あまり複雑ではない、単純で効果的なものを。

結局、消灯時間のギリギリになるまで二人で作戦を話し合うのだった。



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