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復讐

「いやー、予想以上に速かったなぁ。予想していたのに突きを避けそこなうなんてなあ」

「答えろ」


エインの突きを受けた脇腹をさすりながら、おどけた態度をとるシエン。だが、エインはそれを気にする様子もなく短く尋ねた。

だが、シエンはその問いに対しても悪戯をする子供のような表情を浮かべるのみである。


「いやだと言ったら?」


その言葉に返事をすることなく、エインは再度突撃していく。


「げっ」


さすがに間髪入れずに攻撃してくるとは思っていなかったシエンは遅れ気味に木剣を構え、受ける体制をとる。


「はっ!」


エインがシエンの脳天をめがけた木剣を振るう。シエンはそれを少し焦りながら受け止める。


「おいおい、殺す気かよ」

「冒険者ならばこのくらいはできるだろう」

「いやいや、意外とできないよ」


そのまま、シエンはエインの木剣をはじくように剣を振るうがエインは後ろにとび衝撃を受け流す。

それにより、二人の間にまた間合いができた。その間合いを詰めようとづるエインをシエンは慌てて止めた。


「待てって。ちゃんと答えるから。冗談くらい受け流してよ」

「ならもう一度聞くぞ。なぜ知っている?」

「あー、リューナに聞いたからだ」

「リューナに……」


シエンはエインの反応を注意深く観察しつつ、孤児院に来た理由と孤児院でリューナと話した内容を伝えた。


「そうでしたか。すみません、いきなり」

「あ、ああ……確かにいきなりではあったな」


先ほどまでの剣幕をまるで感じさせないエインの態度に、シエンは面を食らってしまった。


「しかし、どうして僕に話したのですか?話を聞いているとリューナは僕には話す気はなかったように思いますが……」

「え、そこまで話したっけ。まあいいや。実を言うと僕も話す気はなかったよ」

「ではなぜ……」

「さっきも言ったでしょ?エインが振るっている剣は誰かを殺すための剣だって」

「ええ……」


確かに、いくつか思い当たる節もあるし何よりクーデターという言葉を聞いた後のエインの行動はそれを自覚せざるを得ないものであった。

だが、エインには一つ気になることがあった。


「ですが、あの突きに関しては僕が先生から習った技の一つです。それだけで殺す剣なんて言われると」

「ああ、あれに関してはほとんど建前だよ」

「はい?」


エインは予想外の回答に思わず聞き返してしまった。それを気にした様子もなくシエンは言葉を続ける。


「正式な剣術にはないってだけだ。教える奴が実践重視なら教わっていても不思議はない。まあ、そんな人はまずいないらしいがな」


シエンは以前にともに依頼を受けたっミクトラン剣術使いを思い出しながらそう語った。その人が言うにはミクトラン王国は格式を重んじる文化だそうだ。貴族にはより貴族らしい振る舞いが求められる。それは剣術も同じだ。仮にも王子であったエインがその格式から外れた技を教わっていたということにはほとんど考えていなかったが、納得できないことではない。事実、そのミクトラン剣術使いはミクトラン剣術を基盤とし、全く別の剣術を複数取り入れた、より実践的な剣を振るっていた。おそらくエインの先生もそういった人間なのだろう。


「俺が一番気になったのは君の雰囲気だよ」

「雰囲気……」

「冒険者ってのは荒くれ者が多い。そもそも戦闘を主とする職業につきたいのなら騎士や兵士になればいい」


騎士というのは国に使える兵士のことだ。騎士団は表面上、完全な実力主義で成り立っている。ゆえに平民出身の騎士も一定数はいるし、貧民街に生まれた者や孤児であったものもわずかではあるが在籍している。だが、やはりその大部分は貴族の人間だ。そこには当然、教育の差がある。なお、実力というのは剣術などの武技だけでなく、兵法なども含まれる。

また、兵士は国ではなく地方の領主が所有する軍の通称だ。所有とはいっても一応は国に所属していることになる。給金も国から出ているし、国の有事の際は国軍として出撃する義務が発生する。また、地方領主たちが兵士を使って勝手に紛争などを起こすことも禁止されている。騎士との違いはその任命権と指揮権が地方領主にあることだ。騎士よりも給金は安いため実力は下がる。

また、力のある領主は私財を使って私的に兵士を雇っている。この兵士は私兵という呼称が存在するが、市井ではまとめて兵士と呼んでいる。


「それでも冒険者をやっているってことは、実力がないか、実力があっても素行が悪いかだ」

「じゃあ、シエンさんも?」

「意外と突っ込んでくるんだな」

「あ……ご、ごめんなさい!」


ここで聞くというのはシエンが実力がないか、素行が悪いかのどちらかだと決めつけるようだと気づき、エインは慌てて謝罪した。なお、実力はありそうだったため素行が悪いのだろうとエインは勝手に思っていたりする。


「別に、気にしちゃいねぇよ。俺が冒険者をやっているのは騎士や兵士に比べて自由に動けるからだ。こういう人も結構多い」

「そうだったんですか」

「でも、違う人もい。騎士になるために実力をつける目的で冒険者になる人も多いし。その場合は貴族が多いけど」

「へえ……」

「そして、他にも一定数いるのは復讐を目的としている冒険者だ」

「復讐…ですか」

「話を戻そうか。さっき雰囲気って言ったのはまさにこのことだ。君は復讐者と同じ雰囲気をまとっている」

「そういうのは……分かるものなんですか」

「大抵の人は隠しているんだがな。でも、剣を振るうと少なからず本性が出る。隠しきれない本性がね」

「本性……」


エインはシエンの言葉に、迷うようにして黙り込んだ。


「だから聞いたんだ。君の本心を。意識している、本心をね」


どうかな、と。


「…考えたことがない、とは言いません。でも、僕にできるとは思っていない。それに、復讐相手がわからない復讐なんてありえないでしょう」


その言葉を聞いたシエンは少し微笑みを浮かべた。


「まあ、まだ時間はある。じっくり答えを出せばいいさ。俺もしばらくはここにいることにしたし。その間も君に稽古をつけてやろうじゃねーか」


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