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「よう」


エインがいつものように剣の練習をしていると、エインが声をかけた。


「……こんにちは」


エインはこの見慣れぬ部外者に警戒心をあらわにする。恰好が騎士ではないにしろ、傭兵などの戦いを生業とするもののそれであるため、無理もないことではある。


「そんなに警戒しないでくれよ。俺はシエン。この孤児院出身で今は冒険者をやっているんだ。君は?前来た時にはいなかったように思うけど」


シエンは彼がエインであることは分かっていた。しかしそれを指摘すると間違いなく警戒心を上げる。そもそもクーデターに関しての情報をエインには話すつもりはない。ゆえにこのような態度をとることにしたのだ。


「エインといいます」

「エイン君か。君はいつからここにいるんだい?俺は一年以上いなかったからその間だとは思うけど」

「まだ、ここにきて数日ほどです」

「おや、思った以上に最近なんだな」

「ええ、まあ……」


会話の中で、シエンはエインが持つ木剣を注視する。


「剣術の稽古でもしてたのかい?」

「まあ、そんなところです」

「ふむ、なら俺が見てあげようか」

「えっ……」


エインはいきなりの提案にかなり驚いていた。


「なに、いつもやってることだ。この孤児院ではお世話になったからね。俺みたいに戦闘職を目指している子にはできるだけ助言するようにしているんだ」

「そうだったんですか」

「それで、どうする」


エインはほとんど考えることなく、シエンに鍛えてもらうように頼んだ。シエンはその頼みに笑顔で答え、一つの提案をした。


「じゃあ、とりあえずは模擬戦をしようか」

「模擬戦ですか」


エインは模擬戦というものをしたことがほとんどない。というのもエインは剣については教えてもらうばかりで、実際に使用したことはないのだ。


「僕は模擬戦とかはやったことないんですけど……」

「別に不安にならなくてもいいよ。俺だって本職の人間だ。子供に本気を出すようなことはしねーよ。君がよっぽど強かったり、実践慣れしているなら話は変わるけど。どう?」

「……よろしくお願いします」


エインは少し、おずおずとしたようすでシエンの提案を受け入れた。


「ここでは少し狭いな。ついてきな」

「はい」


シエンはいつも孤児院の子供に指導する場所として使用している村のはずれにある空き地まで移動する。


「あれ、シエンさん。エインも一緒なんだ。どこ行くの?」


途中で孤児院までの道のりで出会ったポーラたちがこちらに気づき、声をかけてきた。


「ポーラか、いつものところで少し彼を鍛えてあげようかとね」

「あー!ずるいぞ。俺も鍛えてもらいたかったのに」

「まあまあ、あと2、3日はここにいるつもりだし、シュウも明日にでも稽古をつけてあげるよ」

「ほんとに?約束だぞ」

「ああ。というわけで、これからエイン君の稽古をするから。またあとでな」

「はい」


ルルたちはそれ以降自分たちの遊びに戻った。シエンはそのまま目的の空き地まで足を進める。エインはその後ろをついて歩いていた。

しばらく互いに無言で歩いていたがエインは沈黙が耐えられなくなり、先ほどのシュウとシエンの会話を会話を思い出した。


「……シエンさんはシュウにも稽古をしているんですか?」

「おう、最近はあまりここに来れていなかったけど以前は結構頻繁に来てたし。騎士を目指しているシュウとは何回も剣の稽古をつけたよ」

「シュウとも模擬戦を?」

「模擬戦で実際に剣を振ってダメなところがあればそこを注意してもう一回。そんな感じで稽古はつけてる。っと着いたぜ、ここだ」


会話を続けていたが意外と目的の空き地までは、近かったようだ。

とても広いわけではないが、二人が剣を振るには十分な広さがあろ。また、周囲には何もといっていいほどにものがない。空き地で、なおかつ村の端にあるため草は生え放題だ。


「結構荒れてますね」

「そりゃあそうだ。ほとんど人が通ることもないし、村の中心からも結構距離があって子供たちもここまで来ることはあまりないしな。ほらよ」


エインがぼんやりと空き地を眺めていると、シエンは持ってきた木剣をエインに投げ渡した。


「うわっと」


完全に油断していたエインはバランスを崩しながら木剣を受け取る。取ることはできたが意外と重量のある木剣に、結局はしりもちをついてしまった。


「おいおい。情けないな」

「いきなり渡すからですよ」

「だからと言って、しりもちまでついてちゃあね」

「……」


シエンはからかい気味に少し不機嫌な顔をしているエインにそういった。


「まあいいや。やろうか」

「……」


よほど癪に障ったのか、ひょうひょうとした態度のシエンに対し、エインは無言で剣をかまえた。

それに対し、シエンも一応といった感じに構えをとる。だが、その構えはやはり戦闘職を本業としているだけあり隙は少ない。一流のものが見ればまた違った感想を持つかもしれないが、少なくともエインにはそう見えた。


「さあ、どうぞ」


エインはシエンに対し、一直線に突進していく。


「おっ」


そのまま、エインはシエンのみぞおちに向かって突きを繰り出す。それに対しシエンは自身の木剣を突きに添えてその軌道をそらしつつ、体を左にずらし、半身にして受け流す。

それによってエインは少し体勢を崩すが、前方に出していた右足を軸に体を反転させ、シエンの懐に入り込む。そのまま回転を利用し、右薙ぎを繰り出す。

だが、シエンはそれより早く、後ろに下がり右薙ぎを回避する。それと同時にがら空きになったエインの胴に横なぎを叩き込む。


「くっ」


エインは急いで地面をけって後ろに下がる。しかし、若干剣に体が流され気味だったためバランスを崩した。

その大きな隙にシエンは一歩踏み込むと下から上に剣を振るう。


「うわっ」


体勢を崩していたエインはその攻撃に対応することができずまともに食らっていしまう。だが、すぐに立ち上がり再度、剣を構える。


「へぇ、結構強く入ったと思ったんだけど」

「まだ、これくらいならなんてことないですよ」

「がんばるねえ」

「ふっ!」


木剣を肩に担ぎ、エインと会話するシエンにそれを隙と見たエインはまたも距離を詰める。

先ほどとは違い、今度はシエンに袈裟切りを叩き込む。シエンはそれを後ろに下がることで余裕をもって回避する。エインはその行動を読んでいたようにさらに一歩詰め寄りそのまま逆袈裟を入れる。だが、シエンはその逆袈裟を自らの木剣を防ぎ、そのまま木剣を弾き飛ばした。元々大人と子供で力に差があり、かつ打ち込みのタイミングをずらされたため、木剣は簡単に飛んで行ってしまった。


「うん、悪くないよ」

「はあ、はあ……ありがとうございます」


シエンはエインの剣技についてそう評価した。


「基礎をそのまま実践した感じだ。一つ一つの動きは結構きれいだった。基礎練習はしっかりやってるって感じだな」

「はい」

「でも、多分対人戦の経験はほとんどないでしょ。剣が素直過ぎるし、動きが単純だ。だから簡単に躱せちゃうし、反撃一つで簡単にやられちまう」

「……」

「あと、エイン君」

「?」

「誰か、殺したい、もしくは復讐したい相手でもいるのかな?」


エインはその言葉に驚きと戸惑いを隠せなかった。


「殺したいって……」

「対人戦に慣れていない割には結構人の急所を容赦なく攻撃してきている。そもそも、一番初めに鳩尾に突きをしてくるなんて、慣れていない人間は普通はしない。自分が人を傷つけることを恐れるからだ。それに、エイン君が使っている剣術って多分、ミクトラン王国の貴族が使っているものじゃねーか」

「……」

「別に隠すことはねぇよ。ヴァルスリア王国にだってそこそこ使い手のある剣術だ」

「……なんでわかったんですか」

「ヴァルスリア王国にも使い手はいるって言っただろ。俺の友人にその剣術を使うやつがいたし、しかも君の剣術はお手本のような動きをしている。さすがにわかるぜ」


剣の構え方や振り方にはそれぞれの国や流派によって異なる。エインがミクトラン王国で教わっていた剣術は大きく特徴づけるものはないが、全体的に大振りで強い一撃を繰り出すものだ。また、大きな動きで相手をけん制するものでもある。


「だが、ミクトラン貴族の剣術では突きはないはずだ」


貴族の剣術であるがゆえにパフォーマンスのような側面も持っている剣術だ。派手さもなく、殺傷能力の高い突きはその剣術では禁じ手となっているのだ。


「あの突き、あれは明らかに殺すための攻撃なんだ」

「……」


シエンのその言葉に対して、エインは返事をすることができなかった。

元々、嫌々やっていた剣術の練習をクーデター以来自主的に行っていた。そのことは考えないようにしていた。だが、他人から指摘され、意識しなければいけなくなってしまったのだ。


「……そうだねえ、例えばミクトラン王国のクーデターの首謀者、とか」


その言葉を聞いたとたん、エインは飛ばされた剣を拾い、シエンに突撃する。先ほどの突き攻撃のように、きれいな攻撃ではない。だが、より鋭い一撃であった。

シエンはとっさに身をひねり、回避を試みたが避けきることができず、脇腹に浅く入った。


「くっ……」


エインはそのまま逆袈裟の方向に剣を振るう。


「はぁ!」


シエンはそれを木剣で防ごうと試みる。木剣同士が当たる直前にエインはさらに一歩踏み込み、手首を狙う。エインの踏み込みに対して、シエンは予測していたかのように後ろに下がる。


「なんで、知ってる」


ここで、ようやくエインが口を開いた。その口調は、それまでの少し遠慮した感じとは程遠いものだった。

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