魔神・牛角魔王の変貌!?
目の前で蚩尤が斬られた時、牛角魔王の何かが切れた?
それは、己の中に眠る血?
俺は蚩尤…
目の前で兄者が戦っているのが、あの祝融だなんて…
祝融は父、神農に従える将軍だった。その実力は神農の右腕である事で解る通り向かう所敵無しの将軍であった。
父神である神農は祝融を兄者である軒轅[後の牛角魔王]兄者直属の剣術指南役として任せていた。
軒轅「セィヤアア!」
軒轅兄者の降り俺した剣が祝融の剣に弾かれる。
祝融「軒轅様、動きが単調過ぎます!もっと変化を付けるのです」
軒轅「くぅ…無念」
だが、祝融は痺れた自分の腕を見て喜んでいた。
祝融「いずれ軒轅様は神農様の跡取りとして地上界を統べる王となられるのです。まだまだ行きますよ?」
軒轅「無論だ!」
二人の剣が交差した。
その時、俺は地下牢獄に監禁されていた。俺は忌まわしき運命を持った異端の子だそうだ。
だが、俺にはそんな大層な力も無ければ、何の才能も持たない弱者。どうして父神は俺を忌み嫌うのか解らなかった。
そんな俺でも軒轅兄者は弟として見てくれた。
夜な夜な地下牢獄に忍び込んでは、兄者は俺に会いに来てくれたのだ。
軒轅「すまぬ。蚩尤!父神には俺から説得してみせる。必ず俺がお前を自由にしてやるからな?もう暫く我慢してくれ?」
蚩尤「兄者!兄者が謝る事は何もない…もし本当に俺が牢獄より出られたら、必ず兄者を手助け出来る男になる!」
軒轅「それは頼もしい!約束だからな?」
軒轅兄者は俺の手を握り誓ってくれたのだ…
こんな俺なんかと…
その暫く後、兄者は俺に顔を見せなくなった。
孤独に慣れてると思っていたが、たまに顔を見せてくれていた兄者の存在に俺は救われていたと感じる。
父神の命令で兄者も俺に会っている事を断たれたのか?
もう兄者とは話す事が出来ないのか…
そう感じた時、俺の目から溢れるほど涙が零れた。
それから暫くした後、俺は暗闇の牢獄から解放されたのだ?太陽を見たのはいつだっただろう?俺は生きて再び世界に解き放たれたのだ。でも、何故?
その理由は直ぐに解った。
軒轅兄者が父神と条件を交わし約束したのだ。俺を牢獄から解放させる条件として、父神に対しての抵抗勢力の討伐への出兵。
軒轅兄者は軍を率いて戦争に出向いた。長く激しい戦いだったらしい。それでも兄者は見事に抵抗勢力を討伐したのだ。
そのお陰で俺は牢獄から出られたのだと…
兄者は約束を果たしてくれた。俺は兄者に対して返しきれない恩を受けたのだ。
なら、俺は!
この借りに対して俺が出来る事は、俺を兄者の盾となる事だ!
俺は兄者の下で力を付けていった。やがて俺は兄者を支える副将軍とまで出世する。
俺の剣術の師は兄者だった。兄者は俺に親身になって剣術を教えてくれた。
その兄者がよく剣術の師である祝融将軍の話をしてくれた。
兄者は祝融将軍を尊敬していたのだ。
そんなある日、俺は兄者と祝融将軍が稽古をしている現場を覗いてみた。それは俺の稽古とはレベルの違う実戦的な稽古だった。
蚩尤「あれが祝融将軍か…」
初めて見た祝融将軍は兄者に対して優しい第二の父親のように思えた。
だが、
蚩尤「!!」
隠れて覗いていた俺に気付いた祝融将軍が俺に視線を向けたのだ。
だが、その視線は兄者に向ける温かい目ではなく、まるで敵を見るような殺気の籠った目だった。
鳥肌が立ち、寒気が走った!
あの殺気だけで殺されてしまうのではないかと思ったくらいだ。
その後、再び戦火の日々が始まった。かつての対抗勢力が再び力を付けて攻めて来たのだ。
軒轅「仕方あるまい。今度は情けはせんぞ!」
軒轅兄者に続くように戦場で暴れる俺は、無我夢中だった。
とにかく兄者のために戦うまでだ!
が……!?
俺は突然背後より背中を貫かれたのだ。
馬鹿な?
油断はしていなかった…
はず?
俺の背後には仲間しか?
まさか!?
俺は倒れる瞬間、俺を斬った者の顔を見たのだ。
「!!」
俺は意識が消える瞬間、呟いたのだ。
祝融…将軍が、何故?
そうか…
父神の命令か…
異端なる俺を始末するために、ここまでするのか?
そこまで憎まれているのか?俺は?
どれくらい経っただろうか?俺は奇跡的に目覚めた。
兄者は何処だ?
俺が無事だと伝えないと…
きっと心配してくれてるに違いねぇ…
そこで俺は知る事になる。
今、この時!軒轅兄者が俺のために父神と戦争をしているのだと…
俺は傷の完治していない状態で飛び出した。向かう場所は勿論、兄者と父神の戦っている神殿だった。
兄者!
死なないでくれ!
相手は地上界を統べる魔神の王・神農!例え兄者が強かろうと勝てる相手ではないのだ。なら、俺は自分の命と引き換えで謝罪し、兄者だけは助けて貰うしかない!
俺は覚悟を決めて二人が戦っている扉を開けたのだ。
そこで俺が目にしたのは!
蚩尤「あ…あれが兄者なのか?」
それは俺の知る兄者とは違う、異質な力を持った魔神へと変貌していたのだ!
俺は腰が抜けたように膝を付き、その場に座り込んでしまった。
父神・神農の強烈な圧力。だが、それをも上回る兄者から発する禍々しい闘気に俺は押し潰されそうになった。
魔神と化した兄者は自我を失い、狂戦士の如く父神様を追い詰めていく…
戦慄が走る!
それは普段の紳士的な兄者とは思えない残虐な戦い方だった。
その姿を見た俺は兄者に対して恐怖を感じ、トラウマにも似た感情が俺の中に植え付けられた。
そう。あの時の兄者は…
まさに…まさ…に…
「はっ!」
そこで俺は意識を取り戻したのだ。俺は牛角兄者を庇って祝融の溶剣で貫かれた…ったはず?
《ギリギリだったぜ?》
それは俺の魂の中に寄生している魂喰魔王の声だった。魂喰魔王が死にかけた俺に、例の飴を口の中に入れたのだ。傷口から飛び出した触手を伸ばして…
だが、飴玉は残っておらず、僅かに欠けて残っていた欠片を集めて入れたために完全な再生は出来なかった。とりあえず意識が戻っただけでも運が良かった。
《何度も言うがお前が死んだら俺も終わりなんだ!無茶すんじゃねぇよ!》
無茶?
そうだ!兄者はどうなったのだ?
俺は首を傾けると、そこには美猴王と砂塵魔王が信じられないような顔で固まっていた?
俺は身体を起こして、二人の視線の先、つまり兄者と祝融の戦いの状況を見る。
そこには!?
蚩尤「あっ…あ…あの姿は!間違いねぇ…あの時の…最強の兄者の姿だ!」
それは兄者から発する気が起こす大地の揺れ?
兄者を中心に凄まじい力が巻き起こっているのだ。
祝融「こ…これは…」
すると兄者からどす黒い気が噴き出し、身体が黒く染まっていく?
その黒い気は妖気とも神気とも異質な気。
魔神の放つ魔神闘気であった。
更に、兄者の背中が盛り上がって伸び始めると、それは腕へと代わっていく。しかも、六本の腕に!?
牛角魔王「フゥゥウ…」
更に兄者の額と頭上にある二本の角の他に、新たに四本の角が伸びていく?
まさに鬼神…
六本角の六腕の鬼神羅神!
気付くと兄者の纏う鎧が変形していき鬼神の鎧へと?
そもそも牛角兄者と俺は獣族妖怪に似てはいるが、太古よりこの地を支配していた最高神の末裔。
その一族の血統は荒ぶる魔の血と、静める神の血を合わせ持つ…
それが魔神なのだ!
兄者はその強き精神で荒ぶる魔の魂を抑え付けていたが、怒りの感情が理性の限界域を越えた時…
その血が表に出て、魔神としての牛角兄者が姿を現すのだ!
美猴王「あれが牛角魔王だと?」
魔神へと変貌した牛角兄者の身体から発する覇気と祝融の覇気が衝突した時、
美猴王「この場から離れろ!巻き込まれるぞー!!」
美猴王の指示に砂塵魔王が砂を操り、仲間達を砂の防壁で覆って二人の戦いから離れる。
俺はここに残る!
だが、俺の腕を美猴王が掴み起き上がらせると、
美猴王「どうやら生きてたようだな?頑丈な奴だぜ!」
蚩尤「俺は最後まで兄者の戦いを見届ける!」
美猴王「二人の邪魔はするな!足を引っ張りたくなければな?」
蚩尤「!!」
俺は兄者の戦いを見ている事すら出来ないのかよ…
俺は頷くと、美猴王に従って距離を取る事にした。
絶対に負けないでくれよ?
兄者!
が、その時…
戦場の匂いが呼び覚ましてはいけない奴らを呼び寄せていた。
「血の匂いがする…しかも、強い力を持った匂いだ!」
「嗅いだ匂いもあるぜ?だが、強さの匂いが桁違いだ?」
「ふふ…面白い。再び俺達を楽しませて貰おうか?そのために今まで己の力の使い方を色々と試していたのだからな!」
それは六体の妖恐達であった。この最終戦争に新たな火種が迫ろうとしていた。
次回予告
牛角魔王と熔岩魔王の一騎打ちの最中、
あの妖恐が再び動き出す!




