金の錫杖を持った少女?
美猴王の肉体を奪った錬体魔王
その矛先は牛角魔王と仲間達に向けられた。
美猴王の身体を奪った錬体魔王は美猴錬王として牛角魔王達の前に現れた。
仲間達は美猴錬王が獣王変化した分身達を相手にしている。
牛角魔王もまた現況である美猴錬王を相手にしていた。
牛角魔王の二本の剣から繰り出される斬撃を躱しながら、如意棒を振り回して攻撃して来る。
牛角魔王「重くて鋭い攻撃だ!美猴王と比べたら殺意が違うな?」
美猴錬王「余裕をかましていては、寿命が縮まるぞ?」
牛角魔王「お互い様だ!」
激しい攻防の中、先に違和感を感じたのは美猴錬王の方であった。
美猴錬王「何故だ?まるで私の攻撃を読んでいるみたいだ?まるで攻撃が当たらん?」
牛角魔王「気付くのが遅かったな?お前の動きは身体が覚えているのだ!」
美猴錬王「何だと?」
それは、牛角魔王は美猴王を相手に幾度と組み手を行っていたからだった。しかも手加減は無用の本気の組み手だった。
力の差は牛角魔王が上だった。美猴王は何度も瀕死の状態で地べたを舐めさせられた。
だが、次第に縮まる力の差。美猴王は死にかける度に経験値を上げて、力を上げて来たのだ。
リーダーとして力を手に入れるために、仲間達を守る力を得るために美猴王は死に物狂いだったのだ。
それを知るのは牛角魔王一人であった。
これは義兄弟として、互いに信じ、成長するための極秘訓練。
美猴錬王「だが、美猴王の力には私の力も上乗せされているのだぞ?それに極限まで身体能力を解放させているのだ?まさかそれだけ牛角魔王との力に差があると言うのか?」
牛角魔王「バカめ!例え力を上げようが、戦いの癖や攻撃パターンが解れば受けるは容易い!」
美猴錬王「あはは!良いぞ?素晴らしい!」
牛角魔王「?」
美猴錬王「何としてもお前の肉体が欲しくなった!私はお前を倒して新たな器を手に入れてやろう!」
牛角魔王「愚かな…まだ解らないか?」
美猴錬王「?」
すると牛角魔王は剣を床に刺し、無防備な状態で構えたのだ。
美猴錬王「何のつもりだ?まさか私に降参したと言うつもりではないだろうな?」
牛角魔王「ふん!寄生しなければでしゃばる事も出来ん軟弱者が意気がるな?」
美猴錬王「なぁんだと??」
美猴錬王は図星をつかれて顔を真っ赤にする。
牛角魔王「あはは!まさに猿だな?」
それは挑発とも言える言動であり、中にいるプライド高い錬体魔王を怒らせるには十分だった。
美猴錬王「この馬鹿者がぁあああああ!」
美猴錬王は如意棒を振り上げると、無防備な牛角魔王の身体を殴り付ける。それは牛角魔王の鍛え上げた肉体を血で滲ませ、額から血を流させた。
牛角魔王「ふふふ…」
美猴錬王「何を笑ってやがるぅううう!!」
牛角魔王「力に頼る打撃では俺を倒す事は叶わんぞ?」
美猴錬王「ならば、その減らず口を絶ってやろう。肉体だけ残っていれば、後は私の言いなりの傀儡に出来るなだからな?」
美猴錬王が如意棒を牛角魔王の心臓に狙いを定めると、
美猴錬王「先ずはお前の息の根を止めてやるぞぉおおお!」
如意棒が牛角魔王の心臓を貫く…
いや?
如意棒は牛角魔王の胸に達する前に止まったのだ?
美猴錬王「何が??」
美猴錬王の腕は如意棒を突きつけた状態で震えていた
。意思に反しているのだ?
何が起きているのか?
牛角魔王「やはりな…」
美猴錬王「??」
牛角魔王は気付いていた。
美猴錬王の攻撃が僅かに致命傷を避けている事に?
牛角魔王は美猴錬王を挑発し、それが美猴錬王の意思でない事を確信したのだ。
牛角魔王「美猴王!!いつまで眠っているつもりだぁ!俺に本気で殴られたくなければ早く起きやがれ!」
牛角魔王の叫びに、
美猴錬王「ふ…ふふ…そういう事か?無駄だ!無駄だ!この器にはもう美猴王の魂はない。脱け殻だ!この肉体にまだ美猴王がいると思っているようだが、単に私がまだこの器に慣れていないだけに過ぎぬ」
牛角魔王「………」
美猴錬王「だが、そうと解れば話は早い」
美猴錬王は瞼を綴じると神経を全身に駆け巡らせる。そして指を開き、握る。
美猴錬王「その僅かな希望を消し去ってやろう」
美猴錬王の如意棒が鋭く伸びて、牛角魔王の肩を貫いたのだ!そして、両腿に、もう片方の肩を。堪らずに膝を付く牛角魔王。
美猴錬王「今のは手を抜いた訳ではないぞ?いたぶるためだ!既にこの器は私の支配下に落ちたのだ!」
牛角魔王は血を流しつつも立ち上がると、美猴錬王に突進して抱き付いたのだ。
美猴錬王「馬鹿め!そんな事をしても無駄だと言ったはずだ!」
美猴錬王の攻撃的な覇気が牛角魔王の身体に衝撃を与える。
牛角魔王「悪いな?俺は奴のしつこさを嫌なくらい知っている。お前みたいな雑魚にやられて黙っているほど素直じゃないのを知っている。何より奴は…」
『恨み深いのだ!!』
牛角魔王「必ず戻って来てお前に引導を与えるだろうよ?それまで俺がお前を逃がさないように掴まえていてやる!」
美猴錬王「なっ…何を?」
牛角魔王「いや?俺だけじゃないぞ?仲間達が既にお前の逃げ場を包囲した!もう袋の鼠だ?」
すると、部屋に向かって来る足音が?
それは大猿と化した分身達を相手に戦っていた剛力魔王だった。
美猴錬王「剛力魔王か…力だけなら一桁クラスと噂される事はある。分身を倒してやって来たのか?」
剛力魔王「私、だけ違う」
美猴錬王「何?」
すると床が盛り上がって来て水が噴き出すと、そこから玉面魔王が現れたのだ。
更に別の床から炎が迸り、鵬魔王と刀剣魔王が!
さらに、遅れて怪力魔王に六耳、蚩尤が到着し美猴錬王を包囲した。
美猴錬王「まさか?雑魚まで来たと言うのか?」
六耳「誰が雑魚だっち?例え美猴王様でも偽物なんかに俺っち負けないっち!」
蚩尤「…何とか腕力魔王の力を使いこなせるようになったようだ…」
《死にかけギリギリだったぞ?》
蚩尤「うるせー!勝てば良いんだよ!」
と、様々な戦いを制覇した仲間達が美猴錬王を包囲している中、美猴錬王は牛角魔王に抱き締められ身動き出来ないでいた。
蚩尤「兄者!俺達が手を貸すぜ!」
牛角魔王「…こいつは俺に任せろ?いや…こいつを倒すのは俺ではない…」
『戻って来い!美猴王!』
だが、美猴錬王は不敵に笑うと、
美猴錬王「まだ抜かすかぁ?ならば先ずは牛角魔王!お前を始末し、その後にここにいる全員をも始末してやるぞぉ!」
美猴錬王の覇気が再び牛角魔王の身体に浴びせられる。焼けるような臭いが漂うが、牛角魔王は美猴錬王を離そうとしなかった。
美猴錬王「この馬鹿力がぁあああああ!」
その姿を黙って見守る仲間達もまた、強い決意があった。全員が信じていた。
美猴王の復活を!!
美猴王…
本当に美猴王は死んだのか?
確かに美猴王の魂は肉体の中にはなかった。
なら魂は?
美猴王の魂は闇の中を漂っていた。既に己が何者かも理解していない脱け殻。
思考を停止し、無に返ろうとしていたのだ。
「まだ寝てるの?」
それは若い娘の声だった?
闇の中に響く謎の声?
それは美猴王に向かって話しかけていた。
「もう!あんまり時間ないんだからね?せっかく私が来てあげたんだから、シャキッとしなさい!」
完全に上からの声の主は本当に何者なのか?
「まだ寝てる…こうなったら目覚まし時計で頭をかち割ってあげようか?」
冗談とも言えぬ言葉…
そもそも目覚まし時計とは何なのか?
すると、美猴王だった魂に何かがぶつかった?
声の主は本当に目覚まし時計なる何かを美猴王に投げつけたのだ??
すると、その目覚まし時計からけたましい音が鳴り響く。
音は波紋を起こし、揺りかごのように美猴王の魂を揺さぶった。
「まだ寝てる…温厚な私でも正直、イライラしてきたわ?私!」
すると、金色に光る物体が闇の中に降りてきて、美猴王の魂を掴むと、
『起きなきゃぶん殴るわよ?マジで!!』
美猴王の魂を殴り飛ばしたのだ???
言う前に殴ってる!
だが、それは消えかけていたはずの美猴王の魂に、力を与え、魂が強く光だしたのだ。
美猴王「何をしょっとかぁあああ??」
美猴王は頭を抱えて泣きそうな顔でうずくまる。
美猴王は声の主に怒り顔を見てやろうとするが、その顔は光眩しく見えない。
だが、声からして女だった?
女「ようやく起きたようね?あんたが起きないから私がどんだけ心配したか解ってるわけ?」
美猴王「って、誰だよ?お前??突然現れて殴った挙げ句に説教って、何?何なの?これはどういう状況?マジに?」
女「あ~うるさい…」
美猴王「え~~??それで片付ける??」
女「それより…」
美猴王「?」
女「今のアンタの仲間が待ってるわよ?あんまり牛角さんに迷惑かけたらダメじゃない?早く戻って安心させてあげなさい?」
美猴王「ちょっ?ちょっ?ちょっ?牛角が何?お前は牛角の知り合いか?説明してくれないと、俺様ちんぷんかんぷんだぞ??」
女「あ~めんどくさい、却下ぁ!!」
それは娘の威圧だった。
女「早く戻りなさい!孫悟空ぅ!!」
美猴王は無意識に身体が反応し、たまらず命令を聞いてその場から飛び去ったのだ!!
美猴王が、去った後…
娘は一人、残っていた。
そして呟く。
「孫悟空。あんたが戻らないと時が動き出さないじゃない…」
すると錫杖の音が響き娘は光と共に消えた。
この娘は一体、何者だったのか?それはまだ語られぬ時の悪戯…
いずれ出会うべく運命の邂逅であった。
闇の中を飛び去った美猴王だったが、
美猴王「しかし戻るって何処にだ?」
すると、美猴王を導くように錫杖の音がする?音を頼りに向かう闇の奥に光が見え始めた。
光が美猴王の魂に入って来る。それは記憶?錬体魔王によって自害した記憶だった。そこで美猴王は自分の置かれている状況を理解した。
そして…
美猴王「俺様は絶対に死んでたまるかぁああ!」
美猴王は思いを籠めてありたっけの感情を力と共に解放させたのだ。その直後、闇を消し去る金色のオーラが光輝いたのだ!
美猴王「それにしてもアイツは何者だったんだ?てか、人違いじゃないか?猿違い?最後に俺様の事を孫悟空と呼んだぞ?とんだ勘違い娘だぁ~」
美猴王は光に飲み込まれ消えていく。
それは錬体魔王の城で起きた。
黄眉大王「まさか??儂の幻術封印が壊れていく?」
黄眉大王は美猴王の魂を厳重に瓢箪の中に封じ込めていたのである。その瓢箪が光を放ちながら砕け散ったのだ!
光は瓢箪から飛び出し、向かって行く。
その先は!!
牛角魔王に掴まれた状態で美猴錬王が覇気を放っていた。既に牛角魔王は立っているのも限界だったはず。それでも離さなかったのだ!友が!義兄弟が戻って来ると信じて!
その姿を堪えながら見ている仲間達。直ぐに手を伸ばしたかったが、牛角魔王の思いを、美猴王が戻って来ると信じて抑えていた!あの鵬魔王でさえ、牛角魔王の無謀かつ無策な行動に心が奮えていたのだ。
必ず戻ると!
その時、奇跡が起きたのだ。突如光が天井を抜けて牛角魔王と美猴錬王に落ちてきたと思うと、閃光が放たれたのだ。その衝撃に牛角魔王も弾かれるくらいに!
牛角魔王はすかさず立ち上がり、目の前に立っている美猴錬王を見る。
美猴錬王の身体から黒い影が抜け出て来た?それは障気に似た穢れた魂?
錬体魔王の魂!!
その影が美猴王の身体から弾き飛ばされると、目の前にいる牛角魔王に向かって言った。
「待たせたな?とんでもなく世話かけたようだな?」
牛角魔王「ふん!ちょうどお前に愛想つかし、俺の手で錬体魔王もろとも引導を与えてやる所だったぞ?美猴王!!」
美猴王「コワッ!」
間違いなく美猴王の魂が帰還したのだ!
美猴王「さてと…」
美猴王は肉体を失った錬体魔王を睨み付ける。
錬体魔王「馬鹿な?馬鹿な?そんな馬鹿なぁあああ!」
全員が答えた。
『馬鹿はお前だ!』
次回予告
謎の少女の登場で救われた美猴王
しかし、何者だったのか?
それは、蟹の味噌汁・・・
神のみぞ知るのであった。
そして、物語は?




