刀剣魔王の過去!負けられぬ戦い!
仲間達が敵の術中にはまり、唯一残った刀剣魔王。
赤妖石との一騎打ちの最中、過去を思い出していた。
我は刀剣魔王…
我は今、赤妖石と戦っている。同じく戦っていた鵬魔王は青妖石を、蚩尤も黄妖石を倒していた。
本人達も相討ちだが…
だが、やはり不甲斐ない!
我もまた魔王として名のある猛者だと言うのに。
そもそも我は…
刀剣魔王の名に相応しいのだろうか?
我は思い出していた。
過去の我を…
我は刀剣一族の長男にして生を受け、当時の名を千剣玉子と言った。
我には弟の宝剣玉子がいた。我に懐いては、いつも我の後を付いて回っていた。そんな弟に我は刀技を教えてやったりしたのだ。
しかし・・・
幼い頃は刀剣を持つ事もままならなかったと言うのに、みるみる上達を見せる宝剣玉子。
次第に我は弟の成長に焦りを感じていた。
弟は我と剣聖について語る。剣聖とは弟が夢見憧れる称号だった。我等が刀剣一族は、かつて剣聖と呼ばれた英雄の末裔なのだ。
剣聖の振るう剣は神速の刃!数々の強者をその剣一本で倒し、我が王国を造った伝説の先祖。我等、刀剣一族にはその血を引き継いでいるのだ。
いずれ我等が一族より新たな剣聖が現れる…
その伝承を信じ、弟は厳しい鍛練に励む。
我もまた負けじと修行に励んでいた。我は派手な技を好んだ。派手な技は我の強さを強調させ目立たせる。刀剣を分裂させて千本の剣を宙に浮かばせる。我は意のままに自在に宙の刀剣を操り、敵を薙ぎ倒した。まさに最強の刀剣奥義!
だが、そんな我を呼び出したのは父である前・刀剣魔王だった。
父は言った。
我と弟の宝剣玉子と玉座の前で試合をし、勝った方を次の跡取りとすると?
何故?
我が跡取りで良いではないか?どうして宝剣玉子と戦わないといけないのだ?
解っていた。
宝剣玉子は強い。我は宝剣玉子の舞を見て悟った。
あの美しき刀剣の舞に魅せられ、同時にイメージした。あの刀剣の舞を相手に攻撃を仕掛けるが、勝てなかった…勝てなかったのだ!
焦り、不安、恐怖…
次第に我は宝剣玉子を避けるようになっていた。
そして当日、我と宝剣玉子は父の前で剣を交わした。
例え才能があろうとも、まだ経験不足!我が操千剣の前では無力!
我は操る千本の剣を宙に浮かばせると、構えている宝剣玉子に狙いを定めて攻撃を仕掛けた。
宝剣玉子「兄さん…行きます!」
宝剣玉子は華麗な動きで間合いに入った我の剣を次々と弾き落としていく。
だが、我も負けるわけにはいかん!
その戦いは、我が勝った…
だが、釈然としなかった。
我は…宝剣玉子に完全に負けていたのだ。我の全ての刀剣を落とされ、無我夢中に特攻し振るった刀剣が運良く宝剣玉子の剣を弾き飛ばした。それは本当に運だったのか?
違う…
我は手を抜かれたのだ!
弟に…
恥!恥!恥!恥!
悔しかった。怒りが込み上げ、宝剣玉子への憎しみが我の魂を染めた。
そんな我を父が呼びつけたのだ。恐らく勝者である我に次の刀剣魔王の跡取りとして儀式をするためだろう。儀式は勝者に刀剣一族が引き継ぐ由緒正しい刀剣を手渡されるのだそうだが、そのような刀剣に興味はなかった。
が、手渡された剣は…
決して手離せない刀剣になった。
その刀剣は魂が宿っていた。父は言った。
刀剣一族の儀式による戦いは、敗者は勝者にその身を捧げ、魂と共に守護する刃となるのだと?
まだ、理解出来なかった…
それが何を意味するかを?
我に与えられし目の前にある刀剣は、我が知る妖気を纏っていた。それは魔剣?
魔剣とは、妖気を帯びた魂の宿る禁忌により産み出された呪われし刀剣。
しかも、我が目の前にある刀剣からは、我が弟の…宝剣玉子の妖気を帯びた刀剣だったのだ。
まさか…?
我に与えられた魔剣は宝剣玉子の変わり果てた姿だったのだ!
我は膝を付き放心状態になった。
これは…どういう事なのだ?あの一度きりの戦いで、敗者が勝者に命を捧げ魔剣に身を投じたと?
違う!
あの戦いはマグレだった!本来なら宝剣玉子が勝利し、我が魔剣となる定めだったと言うのに…
だが、既に変えられぬ現実。宝剣玉子は何を思って我が身の定めで魔剣になったのか?
戦った本人である宝剣玉子が一番良く解っていたはずだ!
我は弟より弱い事が…。
しかし一度きりの戦いで命を奪われ、悔しかっただろう?怒りに、憎しみがあったであろう?後悔と絶望…
我を恨んだであろう?
我は泣いた。
刀剣の道に生きて刀剣の下にて死ぬ定めと誓った時より、一度も涙した事のない我が…
初めて泣いた。
その後、我は父の代わりに新たな刀剣魔王として君臨した。
刀剣魔王「ふぅ~」
あの日から我は無我夢中になって己を磨いた。刀剣の鬼と化していく。
娯楽も捨て、長く続き受け継いだ城を配下達に任せ、戦場に自らの身を投じた。
そして我は自己が満足出来る力を手に入れ、大手を振るって城に帰ったのだ。
だが、そこで我は目にした…
城が…我の受け継いだ城が、たった一人の者によって滅ぼされたのだ!
その者は刀剣の一族を根絶やしにした…
その者は刀剣の戦士だけでなく、力の無い者達まで手にかけていく…
我はその現状を目の当たりにして、戦うどころか…
逃げ出してしまったのだ。
我は強くない。
臆病者の卑怯者なのだ…
暫くして、恐る恐る滅びた城に戻った。一人残らず生き残ってはいなかった。
目的は我の一族が魔剣を生み出す一族だから…
戦いに死んだ一族の躯の姿は魔剣と化すのだ。
襲った者は我らが一族より生み出される魔剣を得るために現れたのだ!
我は、その後は生きる屍だった。
後に元黄風魔王様に見込まれ、新たに生きる目的を諭された事で、我はその配下として腕を奮って生きてきた。
そして我は今、美猴王との反乱に巻き込まれ、その中で我は自らの力の無さを実感する。
怪力魔王、虎先鋒に偽物の黄風魔王、砂塵魔王、身内にも牛角魔王に美猴王…それから剛力さん。
そして鵬魔王と、まさかの蚩尤の潜在能力。
強すぎる猛者の中で我は再び己の無力さを感じていた。
だが、今は仲間が全滅危機の状態で戦えるのは我が一人!決して…
刀剣魔王「負けられん!」
弟の才能を踏み台に生き残った我…
一族が滅びる最中、一人逃げ延びてしまった我…
今、再び仲間をも見捨ててしまったら、もう我は二度と刀剣を手にする事が出来なくなる。
我は刀剣を手放せぬ。
何故なら、我が強く戦う事が弟の願い。弟の夢を奪った我への贖罪。弟の代わりに我が剣聖となろう!
そして我が一族を滅ぼしたあの者を見つけ出し、今度こそ我が一族の仇を討たねばならぬのだ!
我は刀剣に魂気を籠めた。
自らの生命エネルギーを刀剣に籠め、爆発的な力を引き出す。だが、失敗すれば力尽きる諸刃の剣。
我は駆け出すと赤妖石に向かって刀剣を振るったのだ!
赤妖石の振るう大剣と激しくぶつかり合う。特殊な身体移動や術を使う黄妖石や青妖石と違い、赤妖怪は剣と剣の真っ向勝負!決して負けられぬのだ!
だが、かすれば硬直し身動きが取れなくなる。それだけは意識せんと…極度の緊張と集中力の中で、我は己の限界を越え始めたのだ?
激しくぶつかり合う刀剣が赤妖石の大剣を弾き、赤妖石が距離を取り始める。
刀剣魔王「逃がさぬ!」
鬼気迫る我の猛攻が赤妖石を追い詰める。
赤妖石「二段階突破」
二段階突破?
赤妖石が大剣を振るうと目の前に赤光りする壁が出来たのだ? 我の刀剣は壁に弾かれて引き下がる。
刀剣魔王「!?」
何だ?全くビクともしない壁だと?
赤妖石は大剣を我に向けて振り払うと、壁が飛んで来た。我は刀剣で弾き返そうとしたが、逆に刀剣が砕け散ったのだ!
刀剣魔王「我の魂を籠めた刀剣が砕け…るなんて?」
我の身体は力が抜けるように膝をつく。
ダメだ…
我の視界がボヤける。
我の渾身の力を籠めた刀剣も折れ、同時に戦う心も折れた。
我は無力で弱い…
我は倒れている蚩尤と硬直し動かない鵬魔王の姿を見て謝罪する。
我には鵬魔王や蚩尤のような天武の才もなければ、弟のように本気で剣聖を夢見て抱く事も所詮は受け売り。もぬけの殻。
だが、我には一つだけ強く抱く思いがある。
我は再び立ち上がった。
我の折れた刀剣は再び蘇る。我が一族の身体には刀剣が封印されおり、例え砕けたとしても命ある限り再び蘇るのだ。そして我の身体には数千、数万の刀剣が体内に封じられ、全ての刀剣を自在に操れるのだ。
我が一族の中でもレアケースなのだが、その一本一本の剣は刀剣一族が体内に宿す一本の剣に劣る。
それを補うために我は数で力を得たのだ。
だが、今のこの状態で柔な刀剣は無力。
しかし!我には唯一折れない剣がある。
それは!
我が弟にして、宝剣玉子の変わり果てた姿…
『魔剣・知我意宝剣!』
我は弟の剣を過去に一度使った事がある。だが、あの時はこの剣の力を使いこなせなかった。
だが、今の我なら!
我は握られた宝剣に力を…
いや!想いを乗せた。
この宝剣は持ち主の強い想いを力にする魔剣。
かつての我には強い想いは持っていなかった…
だが、今なら!
我は知我意宝剣を握り駆け出す。思いを乗せた知我意宝剣は今までにない力を発現していた。
赤妖石「!!」
赤妖石の額が赤く光り輝くと再び壁が現れ行く手を塞ぐ。だが、我の知我意宝剣はその破壊出来ない壁を一刀両断にしたのだ。
魔剣・知我意宝剣の能力は思いが強ければ強いほど威力を増し、その斬撃は空間を斬る事が出来る。
空間切断能力の知我意宝剣に斬れぬ物は無い!
赤妖石は大剣を持って突っ込んで来たのだ。それは死への恐れも、覚悟も無く、ただ命じられた敵に特攻する無感情の刃だった。
まさに対極!
空間を斬る我の刀剣と、斬った相手を硬直させてしまう魔剣。
互いの剣が同時に降り下ろされた。
我の知我意宝剣は赤妖石の魔剣をも一刀両断にした。
だが、赤妖石の頭上で知我意宝剣は止まったまま動かなかった。我もまた折れた魔剣が肩を掠めて硬直化が始まっていたのだ。
相討ち?
否、赤妖石は折れた魔剣で我に向かって襲い掛かる。一歩、我に近付いたその時、頭上から降ってきた剣が前に出た赤妖石の額の石を斬り落とした。
赤妖石「あっ…アアア!」
赤妖石は額を押さえながら、そのまま倒れたのだ。
計算通り…
前以て頭上に飛ばした刀剣が、役に…たっ…た…
我もまた身体の硬直が広がっていく…肩から胸へ、腰から足へ…もう動く事も叶わなかった。
だが、どういう事だ?
赤妖石を倒せば身体の硬直が解けるのではないのか?
確かに根拠はなかったが、これでは仲間達が助からないではないか?
我は…
仲間達を救う事が出来なかったのか?
無念…
無念無念…無念!
このままでは・・・
刀剣魔王「我は、まだ剛力さんと夫婦になっておらんじゃないかぁーー!!」
『バァコーン!』
我が叫ぶと同時に後頭部を殴られたのだ。
あれ?
振り向くと、殴ったのは怪力魔王??
更には動かなくなっていた仲間達が呪縛から解けて立っていた。
あら?お主達?
我の硬直化も解け始める。
あはは…
どうやら無事に助かったようだな?
我は、
「ふっ…」
駆け出して剛力さんの手を握ると、
刀剣魔王「我、剛力さんのために頑張りましたよ~!だから、是非に我の嫁に…」
『バァコーン』
再び怒る怪力魔王に後頭部を殴られた。こいつは我の頭を何だと思ってるんだ?
痛いだろ?
全く…
我がどれだけ苦労したと思っているのだ?
刀剣魔王「とにもかくにも…良かった」
そして、我は気を失って倒れたのだった。
怪力魔王「あっ…強く殴り過ぎたか?」
次回予告
刀剣魔王の活躍で無事に仲間達は助かった。
そして、錬体魔王に連れ去られた美猴王は今?




