美猴王、じっとしてます。
逃げ王れた美猴王
相手は一桁ナンバーの砂塵魔王。
絶対絶命!!
俺様は美猴王…
さて、困ったもんだ…
俺様は砂塵魔王の拘束術にかかり、捕らわれていた。
砂塵魔王の砂捕縛にて石化している状態なのだ。
完全に逃げ遅れた…
周りには仲間は一人も残っていなかった。
本来なら「ガツン!」と勇ましく戦う俺様の大活躍を見せてやりたいが、無理!
まだ身体が本調子じゃないのよ?マジに!
と、言いつつも砂塵魔王は確かに強い…
怪力魔王、刀剣魔王に鵬魔王を手玉に取り、状況不利とは言え玉面魔王も退けた。本調子でも勝てるかどうかは微妙だった。
俺様は取り敢えず動かずに様子を見ていた。
砂塵魔王は辺りを見回すと崩れた石床や柱を見て、
砂塵魔王「俺の硬石城を荒らしやがって!」
と、一人で掃除を始めたのだ。壊れた床や柱に砂を固めて固定した後、造形まで始めた。俺様は感心しながらその様子を目で追っていた。すると?
砂塵魔王「……ん?」
砂塵魔王が俺様を見て立ち止まっていた。
砂塵魔王「何か今、動いたように見えたが?」
ドキッ!
冷や汗が流れた。
砂塵魔王「気のせいか?」
砂塵魔王は俺様から目を離すと再び掃除を始める。
そういえば入って来た時は気付かんかったが、この城は立派で綺麗じゃないか?
辺りには配下もいないし砂塵魔王以外は誰もいないから、恐らく一人で毎日掃除をしているのだろうな?
つまり…
綺麗好きな掃除オタクか!
すると、砂塵魔王は空を見上げて嫌な顔をする。
砂塵魔王「俺の竜巻結界を壊して、面倒な事を!」
砂塵魔王は両手を挙げると砂が巻き起こり、再び砂塵魔王の城を囲むように妖気の籠った竜巻が発生して新たな結界を作り上げたのだ。
困った…
これでは仲間が救援に来たとしても、また結界を壊さないといけないじゃないか?
マジにヤバし!
すると、再び砂塵魔王が俺様を見て立ち止まった。
砂塵魔王「はて?気のせいか?さっきと微妙にずれていないか?」
ドキッ?
砂塵魔王は細かい所が気になっていた。
こいつは…
神経質野郎だぁ!
神経質ってのは大雑把な俺様には解らないが、面倒な人種なんだ。
独角鬼王が昔、そんな感じだったなぁ…
砂塵魔王はまじまじと俺様を眺めた後、
砂塵魔王「やはり気のせいか?俺の砂捕縛の石化は絶対に破られないからな?」
…そうなのか?
砂塵魔王が振り返った時に様子見て、俺様は試しに石化した自分の指を動かしてみた。
あっ…動いた?
すると、再び砂塵魔王が振り返り俺様を見る。
砂塵魔王「それにしても本当にこいつが今地上を騒がしている美猴王なのか?呆気ないというか…なんというか…」
なぬ?突然、俺様への侮辱が始まったぞ?
砂塵魔王「そもそも下級妖怪が夢を見て何のつもりだ?身の程を知れ!ここまで来れたのも余程仲間に恵まれたのだろうな?」
ムカッ!
砂塵魔王「仲間なんて…仲間なんて…仲間なんて…」
ん?すると、突然砂塵魔王が座り込み『の』の字を描き始めたのだ。
もしや…
こいつは友達がいない寂しい奴なのか?玉面魔王にエラソーな事を言っていたが、こいつも引きこもりじゃねぇーか!
砂塵魔王は立ち上がると再び俺様を睨み付け、涙目で言った。
砂塵魔王「こんな奴に仲間がいて、何故に俺には仲間が出来んのだ?」
図星だった…
だが、砂塵魔王は突然笑顔になって言った。
砂塵魔王「しかぁ~し!俺には金剛魔王様がいる!あの方だけさ!俺を頼りにして必要だと思ってくださるのは!」
どうやら金剛魔王は砂塵魔王のこの性格を知っていて、上手く手懐け、自らを守らせるために使っているのか?しかも面倒臭いからこんな場所に一人にさせて?
少し情が出た…
砂塵魔王「よし!金剛魔王様に、この美猴王の首を持っていってやろう!そしたら久方ぶりにお話出来るじゃないか?おっ!楽しみだ!」
…前言撤回!
砂塵魔王は俺様の頭を数回掌で叩きながら、楽しいトークを金剛魔王とする自分自身に酔いしれ妄想にふける。そして俺様を見るなり、
砂塵魔王「たかが猿ごときが夢を見るんじゃな…」
『バァゴォーン!!』
猿を馬鹿にした砂塵魔王を反射的に殴ってしまった。
ぶっ飛び、倒れた砂塵魔王は鼻血を流しながら驚いた顔で俺様を見ていた。
砂塵魔王「おまっ…おまっ?…お前??」
美猴王「あっ…やばっ…」
俺様は殴った状態で後悔した。しまったぞ?こりゃ?
だが、もう後戻り出来なくねぇ?
俺様は頭を掻きながら諦め、砂塵魔王に向かって中指を突き上げたのだ。
美猴王「ばぁ~か?猿をナメるんじゃねぇーよ!」
砂塵魔王「馬鹿な?どうやって俺の砂捕縛から逃れたのだ??」
美猴王「知るかぁ!」
そもそも最初から何かされた訳でもなく、霧の中から逃げ遅れたら、確かに砂が巻き付いて来たが何ともなかっただけなのだ。
砂塵魔王「この俺を謀りやがって!しかも俺の独り言を盗み聞きしていたのか?」
美猴王「別に盗み聞きしていたんじゃねぇよ?お前が勝手に喋っていたんだろ?神経質な引きこもり孤独野郎!」
砂塵魔王「うぎゃああ!」
砂塵魔王は穴があったら入りたいような、顔を真っ赤にさせていた。
砂塵魔王「もう…殺す…殺すしかない…お前を殺して俺も死ぬぅうう!」
おぃおぃ…
美猴王「お前、重すぎる!そんなんだから友達出来ねぇんだよ!」
砂塵魔王「グサッ!許さ~ん!」
砂塵魔王の背後に砂玉が浮かび上がる。あれは仲間達を苦しめた技だな?
砂塵魔王「今度こそお前を殺してやる!」
砂塵魔王の砂玉が俺様に向かって飛んで来た。俺様は如意棒を抜いて打ち落としていくが、その止まない攻撃に直撃をくらった。
更に俺様の周りに砂が巻き起こり、俺様の身体に砂が引っ付いて来たのだ。
砂塵魔王「その砂はお前の血や水分だけでなく、妖気を吸い尽くすのだ!」
これが怪力魔王の腕を干からびさせた技か?
そして俺様は砂に覆われて石化してしまったのだ。
砂塵魔王「ふふふ…どうだ?圧倒的な力の差の前に後悔する間もなく息絶えたか?だが、一応今度は先にその首を落としてやるぞ?」
砂塵魔王が石化した俺様に近付いて来て、石の剣を出現させると
砂塵魔王「トドメだぁ!」
砂塵魔王が石の剣を降り下ろすと同時に、再び動き出した俺様にカウンターの拳を顔面にくらったのだ。
砂塵魔王「うぎゃ!」
俺様は倒れた砂塵魔王を見下ろして言った。
美猴王「今、気付いたんだけどよ?考えてみたら俺様は石猿だから石化とか効かないんだ!」
そうなんだ。
俺様は石猿であり、砂を使った術を得意とする砂塵魔王にとって俺様は天敵だったのだ。
美猴王「しか~も?何か身体が軽いぞ?」
俺様は砂塵魔王の妖気の籠った砂を逆に身体に取り込み、大量の妖気を得たのだ。それが酷使疲労し衰えた俺様の身体を癒し、完全回復してくれちゃたのだ!
砂塵魔王「そんなバカな?」
砂塵魔王は俺様に向かって攻撃してくるが、俺様は生まれ変わったような動きで躱し、如意棒で殴る。
殴る。殴る。殴る。
砂塵魔王「うぎゃああ!」
一方的な戦いだった。
俺様の圧倒的な幸運勝利に俺様は笑うしかなかった。
そこに、砂塵魔王の結界である竜巻が消え去り、俺様を奪還するべく立ち上がった水廉洞闘賊団の仲間達が駆け付けたのだ。
そこには砂塵魔王を踏みつけ勝利した俺様の姿。
仲間達の驚く顔に、俺様はブイサインで返した。
その後は仲間達の歓喜と俺様を称賛が続いた。
気持ちがよいぜ!もっと褒めたたえろ~
さてと…
俺様は倒した砂塵魔王を見下ろす。
砂塵魔王「殺せ…」
砂塵魔王は顔を伏せて言った。その目には涙が一粒落ちる。その涙は負けたからではなかった。仲間達のいる俺様と、孤独な自分とを比べて惨めで悲しくて辛くて…もう自暴自棄になっていた。
美猴王「やれやれ…」
俺様は砂塵魔王に言った。
美猴王「お前、これからは俺様の手足となれ?」
砂塵魔王「はっ?」
砂塵魔王は意味も解らずに俺様を見上げる。
美猴王「お前が俺様に従うなら、今からお前は俺様の仲間だ!ダチになるんだ!どうする?」
砂塵魔王「そんな…事を?俺に金剛魔王様を裏切れるはずないだろ?」
美猴王「それもそうだよな?」
砂塵魔王「それに金剛魔王様は俺よりも…いや?一桁ナンバーの誰よりも強いんだ!出来るはずない!」
美猴王「ならよ?俺様達が金剛魔王を倒したら考えてくれ?その後に改めてお前に問う。良いな?」
砂塵魔王「へっ…?」
砂塵魔王は複雑な心境だったが、何故か涙が溢れだしていた。
と、そんな事で…
俺様達、水廉洞闘賊団は砂塵魔王を残して、金剛魔王の待つ金剛城へ向かうのだった。
これにて一件落着!
その時、俺様達の向かう先で密かに動いている者がいた。
人間達が岩石妖怪達に捕らわれていた。牢獄の中から聞こえるのは恐怖と断末魔だった。
そして、その指揮をしている者は?
「美猴王…絶対に許さん!黄風魔王の所で味わった恨みは必ず返してやるぞ!」
その者の背後には黄風魔王を襲った額に石が埋め込まれた三人の者達。
そして、その者の額にも黒い石が埋め込まれた。
しかも、その顔は?
死んだはずの錬体魔王だったのだ。
次回予告
美猴王率いる水廉洞闘賊団は、金剛魔王の城に向かっていた。
だが、その前に!?




