崖下の里の麗華!
戦線離脱した美猴王は人間の住まう村にいた。
俺様は美猴王。
俺様は黄風魔王の領地にて敵の罠にかかり、崖から落下し意識を失っていた。
崖下は異様な霧に覆われ、そこでは妖気が使えないでいた。当然、俺様の治癒力も遅く回復がままならなかった。
そんな俺様を看病してくれたのが、人間の女である麗華[レンファ]だった。
美猴王「何故に俺様が…」
俺様が動けるようになると直ぐに麗華に…
使われていた。
荷物持ちに、畑仕事、家事手伝い。
この俺様は魔王だぞ?
魔王の俺様が何故に家事手伝い?何故に人間の女に顎で使われているのだ?
麗華「早く持って来なさい!」
美猴王「ほ~い!」
俺様は言われるがまま労働に励んだ。
てか、俺様は怪我人だぞ?
麗華「もう完治してるよ?大丈夫さ!動いていたら治るわよ?」
そんな馬鹿な…
あ、確かに大丈夫みたいだぞ?
俺様もタフだなぁ?
だが、妖気が使えないままでは、この崖から抜け出す事が出来ないのだ。
で、俺様が今いる場所は?
動けるまで回復した俺様は麗華に連れられて人間の村に来ていた。
この村は崖の下にあったのだ。
美猴「思ったより沢山いるんだな?」
麗華「あんまり目立つ真似はしないでよね?」
俺様は人間達に騒がれないように、人間らしい姿に変化しているのだ。
変化くらいの術は妖力がなくても使えるらしいな?
それにしても黄風魔王の支配下の土地に、人間達が隠れ住んでいようとはな?
村には出店が並んでいて、思っていたより賑やかだった。恐らく200人くらいはいるだろうな?これだけいれば俺様達の軍の非常食にうってつけだぜ!仲間達への手土産になるぜ!
そのためにも今は俺様の妖気が回復するのを待つしかねぇな?
すると麗華が俺様に荷物を持たせる。
一つ、二つ、三つに四つ?
美猴王「って、おぃ?何故に俺様がお前の荷物運びをせんといかんのだ!?」
怒る俺様に麗華は見向きもしないで言った。
麗華「今日は少し美味しい物を作ろうかね?」
美猴王「荷物を持つ事は俺様のリハビリに繋がる!どんどん持たせろ?俺様に持てない荷物はない!」
俺様は麗華に完全に尻に敷かれていた。
美猴王「でも隠れ住んでいると言っても、これだけの人間がいて黄風魔王にバレないのは不思議だな?」
麗華「私達はね?飼われているんだよ…」
美猴王「えっ?」
麗華は俺様に見るように指を指す。そこでは銀の金具に薬を混ぜながら武器を作っていたのだ。
人間達は黄風魔王に定期的に作った食料や武器、装飾品を貢ぐ事で生かされていると言うのだ。
美猴王「つまり家畜か?」
麗華「ふざけないで!」
美猴王「何を怒っているんだよ?人間なんか妖怪にとっては家畜同然だろ?知能は高い方だから使い道があるから有効活用。弱者は強者に従い、その恩恵で生かされる。何か間違ってるか?」
麗華「私達は人間よ!」
美猴王「だから人間だろ?」
麗華「私達人間はプライドがあるの!生きる事に妖怪の許可なんて必要ない!私達は自由なんだから!」
人間が自由を求めるだと?
家畜同然の人間がか?
考えた事もなかった。
だが、ハテナ?
人間が妖怪と同列の権利を求めるなんて、何か気持ち悪くないか?
弱者が強者に従うのは当然の摂理…そこに疑問があるは……ハッ!
そこで俺様は気付いた。
これって天界の支配下にある俺様達妖怪と同じじゃないかよ?
ただ、人間には抗う力がない。抗う手段がない。
弱者は弱者なんだ。
何か人間って生き物が不憫に思えて来た。
麗華「私達人間は例え妖怪に抗う力はなくても…その志、人としての誇りは決して失わない…心までは屈したりしない!」
俺様は麗華の瞳の奥に強く、気高さを感じた。
人間にも、こんな奴がいたのか…
俺様が知る人間って生き物は臆病で、同族で裏切り合い欲深く、それでいて無力な弱き者。
俺様は人間に対しての価値観に少し考えさせられた。
村を回った後、俺様は麗華と一緒に畑に向かい耕していた。
そこには数人の人間達も同じように畑仕事をしている。
たまに話しかけられる事もあった。
「あんた?よそ者だろ?麗華ちゃんの彼氏かい?」
「彼氏?それは何だ??」
「野暮言うなよ~お前さん?旦那だろ?」
「麗華は美人だからね~大切にしなよ?」
まったく会話の意味が解らなかった。
人間とは謎な生き物だ・・・
すると、隣の畑を耕していた爺さんが突然胸を抑えて倒れたのだ?
美猴王「ん?」
周りの連中も集まって来る。
それを見た麗華が慌てて爺さんに駆け寄ると、爺さんの胸元を開いた。
美猴王「どうしたんだ?」
麗華は黙っていた。
見ると爺さんの胸には黒い痣があったのだ?
美猴王「!!」
俺様は気付いたのだ。
爺さんの胸の痣から僅かだが妖気を感じたのだ?
美猴王「これは?」
麗華「妖血病さ…」
美猴王「妖血病?」
妖血病とは人間の体内に障気が入り込み、血を穢れさせて死に至る病だそうだ。
つまり日常的に妖気を吸っていた免疫のない人間が、かかる病の事なのだ。
美猴王「じゃあ、この爺さんは死ぬのか?」
麗華「死なせないよ!」
すると麗華は懐から小瓶を手に取ると、その中の液体を爺さんに飲ませた。
美猴王「!!」
液体を飲んだ爺さんは落ち着き始めると、その胸の痣が小さくなっていく。
周りの連中も安堵した顔付きになって顔を見合わせ喜んでいた。
麗華「間にあったようね…」
美猴王「それは?」
それは妖血病を抑える唯一の薬であった。
麗華「この村にいる私達は皆、肌身離さずに持っているんだよ」
美猴王「そんなんどうやって?」
妖気を消す薬なんて人間には作れるはずがない。人間が使う薬は薬草を煎じたようなのだからな?
麗華は言った。
この村には人間達が住んでいる。しかし黄風魔王の領地で人間達が住むなんて自殺行為に近かった。何せ人間は妖怪にとって餌に過ぎないのだから。
だが、この地は黄風魔王が認めた人間に与えし地だと言うのだ。この地に生きる人間には妖怪は手を出さないと約束されたのだと?
そのため人間を生かすために必要な薬を配るのらしい。
人間を飼うつもりなのか?
ただし条件とデメリットがあった。
この地には障気によって穢れている。そのため免疫力の弱い人間は妖血病によって死に至る。その死体を提供して来たと言うのだ。
この地を支配している黄風魔王の配下の錬体魔王は、その死体を使って何やら実験をしていると言うのだ。
だが、人間達は平穏に生きている間は、襲われる事もなく安住の地でもあることから、この地から離れる事をしないのだと…
麗華「結局は縛られているんだよ…私達は…」
美猴王「………」
俺様はその後、爺さんを届けた後、再び麗華と村を見て回った。
収穫した野菜を持たされ。
村をすれ違う何人かに俺様は見付けた。
黒い痣を…
薬を飲んでも痣が消えない場合、腕や足なら切り落とすしかない。さらに自害の薬を用意していると…
美猴王「生きた心地がしねぇな…」
俺様は帰宅と同時に麗華に命じられるまま、畑で取った大根と人参の皮を剥いていた。
美猴王「よし!」
皮は薄めに身を残して我ながらナイスな包丁さばきだ!褒めるに値するぜ!
美猴王「………」
俺様は大根を片手に固まっていた。
美猴王「って、何が良しだぁあああ??俺様は何をやっているんだぁああ??」
我にかえる俺様は自分の頭を数回殴りながら、自らの情けない姿に涙する。
魔王なのに…
魔王なのに…
魔王なんだぞぉおお!
が、そこに麗華が入って来て、ジャガイモを手渡す。
廉華「これも宜しくね?」
美猴王「任せろ!芋の一つや二つ!朝飯前だぜ?」
と、再び皮をむく。
あれ?
もしかして俺様は完全に尻に敷かれているのか?
そんなこんなで二人で飯を食らい、今日起きた些細な出来事なんかを会話したりした。
変な気分だった。
何だ?この感覚は?
その晩、俺様はベットに横にな…
蹴られた?
えっ?えっ?えっ?
麗華「あんた、もう怪我治ったんだから床に寝なさい!いつまでも客さん気分なんて許さないよ?」
美猴王「なにぃ~?俺様に床に寝ろだと?ふざけるなぁよ?俺様は俺様なんだぞ~!」
麗華「意味解らないし!」
そう。俺様が怪我をして意識がなかった間、麗華は自分のベットに俺様を寝かして看病してくれていたのだ。が、そんなん当たり前じゃねぇか?俺様は美猴王様なんだぞ?
麗華「男なんだから女に優しくしなきゃダメでしょ?」
美猴王「へっ?雄は雌に優しくするもんなのか?」
廉華「当然だよ?」
意味解らない?
美猴王「王様と雌はどっちがエライもんなんだ?」
麗華「それは女だよ!だって女は子育て未来に子孫を繋げる事が出来るのだから」
美猴王「子孫?」
繁殖の事だとは解る。しかしそれが大切な事なのか?
俺様と麗華は言い合いを繰り返しながら、仕方なく一緒に寝る事にした。
狭い…
狭くて寝られん…
狭いベットで、寝返りする度に廉華の身体に当たる。
狭いせいか、何か…
ムラムラする!!
俺様の中で何か沸き上がる感情が俺様の血流を速める?
鼓動が高まる?
ダメだ…
もう我慢出来ん!!
俺様は欲求のまま眠っている麗華の上においかふざった。
ハァ…ハァ…
俺様は麗華の肩を抑え身動き出来なくし、口を開けて近付く。
「喰らいたい…」
それは食欲の願望!!
傷は塞がり身動きが取れるといっても、俺様の身体はまだ全回復した訳ではないのだ。それが食欲による治癒回復だった。
すると目を瞑っていた麗華が口を開く。
「良いよ…お前になら…」
「!!」
俺様は我に返り、麗華から離れて横になる。
美猴王「はぁ…はぁ…」
俺様は何を?
人間を喰らう事に躊躇?
違う…
俺様は麗華を喰らう事に躊躇したのだ。
その夜はその後何もなく眠りについた。
朝が明けると、麗華は昨日の晩の事が何もなかったかのように接した。
そして、俺様を村の外れにある湖に連れて行ったのだ。
美猴王「?」
麗華「村で肉は貴重だから取れないけど、魚なら取れるわ」
そう言って湖に向かって走ると、飛び込んだ。
美猴王「おぃ?」
湖から顔を出した麗華は衣を脱ぎ、裸になっていた。
裸猿の身体なんか…
そう思っていたが、俺様は麗華の身体に魅せられてしまった。
麗華「馬鹿!そんなにまじまじと見るなよ?」
頬を赤らめる麗華、
俺様は頭を振ると、そのまま湖に飛び込み泳ぐ。
そして麗華の近くに行くと、一緒に湖を泳ぎ遊んだのだ。
湖の底の主を掴み取りし陸まで投げると、流石に麗華も驚いていた。
そして、
気付くと俺様は麗華を…
抱きしめていたのだ。
この感情は何だ?
何だか解らないが、とても包まれたような穏やかな気持ちになれた。
麗華「美猴…私を外の世界に連れて行ってくれないか?」
俺様は…
直ぐに返答出来なかった。
俺様には待たせている仲間達がいる。これから先、俺様は再び戦場に身を置く事になろう。そしたら人間の麗華を連れて行けるはずがなかった。
このまま麗華と共に平穏に暮らすという選択肢が頭を過る。
しかし、俺様には・・・
俺様は答えた。
美猴王「麗華、俺様と一緒に来い!俺様がお前を世界に連れて行ってやる!」
次回予告
まさかの美猴王の急展開にどうなる?
てか、色恋??




