猿の天敵?
首狩魔王を倒した六耳、腕力魔王を倒した蚩尤
そして美猴王も今!
俺様は美猴王!
六耳に後を任せ先を急ぐ俺様の前には、新たな魔王が道を塞いでいたのだ。
僅かながら記憶がある。
確か俺様が獣王変化して大猿となった時、力任せに振り下ろした拳をいとも簡単に受け止めやがった奴に間違いない!
確か名前を…
『怪力魔王!』
怪力魔王「ガハハハ!良く来たなぁ?だが、ここまでだ!お前では俺には勝てんぞ!」
はっ?何をたわけた事を?
美猴王「ばぁ~か!俺様がお前に勝てないだと?ナメんな馬鹿野郎!」
怪力魔王「やらなくても解る!お前では俺には勝てん!何せ俺は…」
美猴王「?」
すると怪力魔王は俺に向かって襲い掛かる。
俺様の二倍近くある大男。怪力魔王は胸板にのみ鎧を纏い、後は己の重圧な筋肉が見えていた。武器と言えば拳の黒い鉄甲のみか?
俺様は向かって来る怪力魔王に如意棒を振るった!
「!!」
が、怪力魔王は意外にも身軽に如意棒を躱して飛び上がり、俺様に向かって殴り掛かって来たのだ!俺様は咄嗟に如意棒で受け止めたが…
「うぐぅぅうわああ!」
力負けして俺様は大地に減り込み地面の中に埋もれる。
怪力魔王「これで墓はいまい?」
が、直ぐに地面は盛り上がり、そこから俺様が飛び出して来たのだ!
美猴王「まだ負けてなぁーい!」
俺様は如意棒をしまうと拳を石化させて、怪力魔王に向かって殴り掛かる。
怪力魔王「馬鹿が!俺と殴り合うつもりかぁ?」
俺様と怪力魔王は互いに拳を殴り合う。
グゥウ!ツェ~!!
俺様は身体中に痣を作りつつ耐え、怪力魔王もまた俺様の拳を受け続ける。
違和感を感じた。
コイツの戦い方は真っ向勝負だな?己の力に自信があるからか?
だが、負けられねぇ!
俺様の拳の速度が更に増していき、怪力魔王の拳の速度を凌駕した時!
美猴王『火王石拳!』
※カオウセッケン
燃え盛る拳の連打が怪力魔王の胸板の鎧を砕いたのだ!
手応え有り!
が!?
怪力魔王は自分自身の身体に減り込んだ俺様の拳を掴み、そのまま俺様を振り回して地面に叩きつけた。
美猴王「うぎゃあ!」
怪力魔王は俺様を見下ろしていた。良く見れば、俺様の攻撃は怪力魔王の異常に鍛えぬかれた筋肉の壁には効いてはいなかったのだ。
すると怪力魔王の身体が黒く変色していく?
その姿を見て俺様は思い出したのだ!
かつて俺様が幼少の頃に猿山にて世話になった長老猿の言葉を…
長老猿「美猴王殿!貴方は我々猿が獣の中で一番優秀な一族だと思っていらっしゃるとか?」
美猴王「当たり前だ!猿より強く賢い種族はいねぇーよ!」
長老猿「いやいや…美猴王様はまだ世界を知らなさすぎですぞ?儂は昔、見た事があるのです。儂達猿族の天敵なる種族を!」
猿の天敵!?
長老が説明した猿の天敵の姿に、俺様が目の当たりにしている怪力魔王の姿が酷似していた。
コイツ…まさか!?
猿族の天敵、それは…
『剛利羅族[ゴリラ]』
怪力魔王は両手を組むと俺様に向かって叩き下ろして来たのだ!俺様は転げながら躱すが、怪力魔王の攻撃は地面を揺らし陥没させた。
…何て馬鹿力だ!
俺様は体勢を整え次の攻撃に備える。
防戦一方かよ!
俺様は打開策を考える。
パワーだけでなく、スピードまである。更に俺様の攻撃も奴の筋肉の壁には通用しなかった。
まともに戦って勝てるのか?
猿の天敵、ゴリラか…
確かに恐ろしく強敵だが、今の俺様は不思議と冷静だったのだ。
何故?
あ、…解った!
ふふふっ
確かに怪力魔王は強敵だが、俺様の身近にはもっと恐ろしい奴達がいるんだ!
確かにゴリラ野郎の攻撃力は高いが、普段から牛角とのガチ喧嘩で慣れてるし、アイツに殴られる度に受ける痛みに比べりゃ…
屁でもない!
それにゴリラ野郎の頑丈さは脅威だが、あの獅駝王の奴の馬鹿げたタフさに比べたら…
屁でもない!
更にゴリラ野郎なんか、酒を飲み俺達に絡んでは自軍の城まで崩壊させて暴れる蛟魔王の酒癖の悪さに比べたら…
全然恐くない!
俺様の周りには遥かに俺様の命を脅かす[?]、頼もしくも力強い仲間がいるのだからな!
何とかなる!
俺様は考えた。そうだ!例え相手がどんなに頑丈な化け物であろうとも、頭を使えば何とかなるもんさ!
俺様は怪力魔王に向かって突進して行く!
怪力魔王「馬鹿な奴だ!今度は手加減なくゴミ葛の如く潰してやろう!」
俺様は再び攻撃を仕掛ける。目にも留まらぬ手刀や蹴りに拳の連打!が、怪力魔王は涼しい顔で受けていた。攻撃が効いてない?
怪力魔王は俺様の放った拳を受け止めると、更にもう片方の腕も掴み、持ち上げたのだ。
怪力魔王「無駄だ!お前の攻撃なんか俺には…」
が、そんなの解っていた。
本当の狙いはこれだ!
どんな戦いも頭を使えば不可能をも可能にし、大逆転がうまれるんだぜ?
くらえ!
美猴王『石猿の石頭を喰らいやがれぇー!』
俺様は頭を振り、掴んで両手が塞がっている怪力魔王の頭に頭突きを食らわしたのである。例え筋肉で覆われていようと頭まで筋肉じゃないだろ?
怪力魔王「ウグゥ…だが、頭もまた鍛えている…」
美猴王「まだだ!」
俺様は続けざまに二度三度と頭突きを食らわした。お互いの額から血が噴き出す。が、これは直接攻撃じゃない!
次第によろけ始める怪力魔王は、ついに俺様の両腕を手放したのだ。
俺様はそのチャンスを逃さなかった。自由になった腕で怪力魔王の後頭部を掴み、そのまま地面に叩きつけた!怪力魔王の頭は地面に埋もれ、そのまま動かなくなったのだ。
やった…
やはり俺様は頭がキレる猿だぜ!
俺様の頭突きは直接攻撃ではなく、怪力魔王の頭の中[脳]を揺さぶる事が目的だったのだ。幾度と脳に衝撃を受けた怪力魔王は脳震盪を起こし、立ってはいられなかったのだ。
俺様はトドメを刺すために、倒れている怪力魔王の前に近寄っていく。
すると目を回し立ちあがれないでいる怪力魔王は、
怪力魔王「俺の負けだ…油断したからと言っても猿に遅れを取るとは情けない!さぁ…早く俺を殺せ!」
コイツ?
やけに往生際が良いな?
すると怪力魔王は…
怪力魔王「早くしろ!生き恥を晒してまで生きてはいたくない!」
ハッ?
美猴王「お前なぁ?俺様に負けたからと言って拗ねるんじゃねぇぜ?逆に誇りに思え!さぁ!他に言い残す事はないな?」
俺様は如意棒を抜くと怪力魔王は予想だにしなかった事を言ったのだ。
怪力魔王「言い残す事か…お前に負けた事は恥じゃない…お前は確かに強いぜ?ただ、こんな事を頼めた義理はないが願いがある!俺を!俺達を操り、洗脳して、無理矢理この戦場に参加させた眼力魔王を殺してくれ!俺の代わりに奴を倒してくれー!」
美猴王「!?」
…どういう事だ?
俺様は振り上げようとしていた如意棒を下ろすと、
美猴王「おぃ?どういう事か話せ!お前は眼力魔王の仲間だろ?眼力魔王がお前に何をしたと言うのだ?」
…聞くに怪力魔王は静かな地にて争いもなく暮らしていた。ゴリラ族は仲間通しで技を磨き合い、その力を高める事にのみ生きがいを持つ穏やかな一族だった。…決して私利私欲で戦う事はなかった。
だが、その並外れた戦闘力に目を付けた者がいた。
それが眼力魔王だった。
眼力魔王は前触れなく現れ、ゴリラ族の首領に結託を持ち掛けに来たのだ。だが、従わない首領に対して眼力魔王は自らの魔眼にて首領を洗脳し操っているのだと!
怪力魔王「ゴリラ族の戦士は当然怒り、眼力魔王に戦いを挑んだ…が、首領を人質にされた挙げ句、逆らった仲間達は俺を除いて全員殺されたのだ!」
美猴王「お前程の奴が眼力魔王ってのに手も足も出なかったのか?」
怪力魔王「眼力魔王には…力じゃ勝てない…奴には恐ろしい…ち」
その時、突然目の前の怪力魔王が頭を抑えて苦しみ出したのだ?
えっ?
…まさか俺様の頭突きのせいか?いや?違う!
怪力魔王「美猴王!逃げろ!俺が…お…」
美猴王「おぃ?お前、どうしたんだよ?」
すると怪力魔王は心配し近寄った俺様を押し飛ばしたのだ?
怪力魔王「早く俺を殺せぇー!!眼力魔王の呪いだぁ!俺はもう少しで自我を失う。奴に操られるままの化け物になっちまうんだぁー!」
…何??
苦しみながら怪力魔王は俺様に告げた。
怪力魔王「美猴…王…眼力魔王…は、俺達に…強力な呪いを…かけ…た。逆らったり、敵に寝返った時に…俺達は自我を失い、ただの獣として暴れ続け、そのまま野垂れ死にする……する?する!アッ!アッ!アッ!アガァアアアア…」
すると怪力魔王は悶えながら立ち上がり唱えたのだ!
『獣王変化唯我独尊…』
その直後、怪力魔王の身体が膨れ上がり、黒い体毛が覆い始める。
コイツは一体…??
眼力魔王は怪力魔王が敗れた時に、魔眼の力にて強制的に獣王変化をさせる呪いをかけていた。
俺様は迷ったが、覚悟を決めた。コイツをこのままにしては置けない。人質を取られ、戦争にかり出され、操られた挙げ句、自我を失い、ゴリラとしてのプライドを捨てられ、使うだけ使われて死ぬ。
許せねぇ…
考えてみたら、猿もゴリラも似たり寄ったり?
遠い親戚じゃね?
突然、仲間意識が芽生え初める俺様。
それにゴリラより猿のが強いと判明した事だし、もう恨みもない!
美猴王「安心しろ?眼力魔王の呪いからお前を解き放ってやる!俺様が何とかしてやるぜー!」
次回予告
ただでも強い獣王変化した怪力魔王を相手に、美猴王はどうする?




