美猴王死す??
美猴王は夢で見た男の言葉から、知らず知らずのうちに
敵軍の本拠地に一人向かったのだ。
俺様は美猴王…
俺様は今、夢の中に現れたムカつく野郎の口車のせいで、敵の軍勢に捕われ拷問を受けていた。
身体中から血を流し、髪は乱れ、意識も朦朧としていた。
だが、その眼光だけは失ってはいなかった。
拷問を行っていた奴らも、次第に俺様に対して恐怖を感じるほどに…
だが、実際…俺様は限界ギリギリだった。
死んでたまるかぁ!
死んでたまるかぁ!
死んでたまるかぁ!
俺様は生きて…必ず世界の頂点になるのだぁ!世界を統べる王になるのだぁ!
だから、こんな場所で…
こんな、つまらない理由で死んでたまるかぁー!
たかだか部下の数千、数万が殺されようとも、俺様一人の命と天秤にかけられるもんかぁ!
俺様は!俺様は!
が、そこで再び夢の記憶を思い出す。
傍若無人に王の道を貫き、一人孤独に消えて逝った王の姿と、今の俺様の姿…
全く同じ…
同じ?
そういえば、あの夢の野郎が消える間際に何か言ってたなぁ?
男『それにしても…』
美猴王「あんだよ?」
男は俺様をマジマジ見回すと、
男『よりによって猿とはなぁ…』
美猴王「ムカッ!猿で何か文句あるのかよ?」
男『いや…これもきっと俺に与えられた神罰なのだろう…情けなくも嘆かわしい…』
美猴王「はっ?さっきからお前は何を言ってるんだよ?」
すると男は真剣な眼差しになって俺様の肩を掴み言ったのだ。
「!!」
『心して聞け!全ての出会いには意味がある!そして再び魂の誓いと絆で結ばれし運命の兄弟達と巡り会うのだ!』
何を言ってるんだ?出会い?運命?魂の誓い?
『…お前は返さなければならない!俺が出来なかった…叶わなかった…償いを…お願いだ……お前が叶えてくれ!俺の分まで…あの運命の王子達と共に…今度こそ姫を!姫を!!』
そいつは涙を流していた?
全く意味が解らねぇ…
姫?友?何?
そして男は最後にこの言葉を言い残し消えていった。
『俺はお前だ!!馬鹿だった俺だ!やり直せ!運命を!未来をやり直せ!
お前には義務がある!何故ならお前は我が魂の成れの果てなのだから…』
そこで奴は消えた…
何を言ってたのか?何を伝えたかったのか?全く解らなかったが、俺様にはあの男の結末がトラウマの如く脳裏を過ぎる。
だが、俺様は俺様だ!
そんなん関係あるかぁ!
孤独死がなんだ!!
関係ねぇ!
そうだ…俺様は生き残らなきゃならねぇんだよ!
生き残る手段は一つ…
寝返る!
泣いて謝って、眼力魔王って奴に媚びて、媚びて、媚びりまくって舎弟にしてもらえば良いのだ!
うん。簡単!
プライド?
そんなもんを猿に期待すんなよ?
そして俺様は意を決して頭を下げて叫んだのだ。
生き残るために…
謝罪…いや?
俺様の口から出た台詞は俺様の意と反する言葉だったのだ。
『俺様の命をくれてやるから、捕まってる奴達を助けてやってくれ!』
正直、俺様自身驚いた。
…俺様は何を?
すると拷問者達は笑いながら言った。
拷問者「馬鹿かお前は?お前を見せしめに殺して、その後はゴミクズ同然の奴達も直ぐに始末してやるよ!だからお前は先に逝きな!」
拷問者の手には禁具と呼ばれる槍が握られていた。この槍の名前は『魂喰らいの槍』刺された者の魂をも消滅させる禁具なのである。拷問者がトドメを刺さんと、槍を振り上げ俺様に向けて振り上げる。
万事休すなのか?
直後、俺様の目の前で閃光が走った!
ゆっくりと俺様の目の前で頭から真っ二つに斬り裂かれてゆく拷問者?
更に俺様を囲み力を封じ込めていた法術師達も悲鳴をあげながら倒れていく?
俺様の前には俺様の知る人物が立っていた。
処刑される寸前で俺様を助け、目の前に現れた者の名を…俺様は信じられずに口に出した。
「ぎ…牛角?」
牛角魔王「生きてるか?」
それは二本の刀を両手に握りしめた牛角魔王だった。牛角は背中越しに俺様に言う。
牛角魔王「フン!貴様にはまんまと騙されたぞ?俺達は貴様の本性を蛟魔王の水晶を通して全て見ていた!」
なっ?
マジ?ヤバッ?見ていたのか?
あの、ぶっちゃけ話を?
そうか…
俺様は騙していた。
お前達を…
こいつは俺様を始末しに来たのか?自らの手で始末しに??何て暇人!!
牛角は続けて言った。
牛角魔王「お前!俺達が見ていたのを知っていて、わざと心にないゲスな台詞をかまし、まんまと俺達を騙したつもりでいたようだがそうはいかんぞ?」
ヘッ?
牛角魔王「お前が一人で敵陣に向かうと言えば、俺達が止めると見越しての茶番だろうが、俺達もお前をみすみす見捨てはせん!」
…何を言ってるんだ?
牛角魔王「だが、貴様の男気見せて貰った!俺は猛烈に感動したぞ!」
あ、もしかして…
勘違いしちゃってる?
あの~
黙ってた方がいいかな。
牛角魔王「動けるか?」
美猴王「あぁ…」
俺様は牛角が投げた団子を口に放り込む。
牛角魔王「蛟魔王からの痛み止めだ!それで少しは動けるようになるはずだぞ?」
美猴王「ありがてぇ!」
俺様は気を取り直して周りを見回す。
俺様と牛角魔王の周りには最初は驚いていた敵軍勢が、武器を持ちジリジリと囲んでいたのだ。
多勢に無勢…
二人だけで切り抜けられるか?
俺様と牛角に襲い掛かる雑兵達を、二人のコンビネーションで返り討ちにする。
敵将「えぇい!捕らえた奴達がどうなっても構わないのか?面倒だ!奴達を処刑しろ!」
しまった!
このままじゃ、今までの苦労が無駄になる!
俺様が飛び出そうとすると牛角魔王が止める。
美猴王「!!」
すると敵将の言葉を合図に捕われた連中の傍で首を切り落とすために刀を持って待機していた処刑者達が次々と倒れていく?
そこには地面を掘り潜り、気付かれないように近付いた六耳と岩猿、水猿に気火猿達が処刑者達に不意打ちの如く襲い掛かっていたのだ。
更に俺様と牛角魔王を囲んでいた敵兵達の大群を割って、吹っ飛ばし暴れる奴が一人?
美猴王「獅駝王!」
それを合図に空中の雲上から隠れて潜んでいた水簾洞闘賊団が全面攻撃を仕掛けて来たのである。
美猴王「これは?」
牛角魔王「お前が時間を稼いでくれたおかげで、奇襲に成功したんだ!例を言うぞ!」
アハハ…
俺様の苦労が報われやがった。てか、全て勘違いのなせる結果往来なのだが…
美猴王「アハハ…そんじゃあ!俺様も今までの分も合わせて倍返しに暴れるとしようかぁ!」
俺様と背中合わせに牛角魔王が「後方は任せろと!」と、剣を構える。俺様は安心して前方の敵に集中して暴れる!
仲間か…
まだ複雑な気分だ…
仲間?友?
正直、どうでもよいはずなのに…
この安堵感は何だ?
複雑な心境の中で俺様の考えに異変が生じ始める。道具同然だと疑う気もなかった…都合の良い手駒。
それが、こんなに熱い気持ちにさせられるなんて・・・
その時、落ちていた禁具の槍を拾い上げる者がいた?
しかし、俺様は気付いてはいなかったのだ。
そいつは暴れ戦う俺様に狙いを定め、その禁具の槍を投げ付けたのだ!
誰も気付いては…
禁具の槍は交戦状態の中、真っ直ぐに飛んできた…
そして、槍は深々と胸を貫いたのだ。
美猴王「えっ?」
何が起きたか解らなかった…胸を貫き噴き出す生暖かい鮮血が、茫然と立っている俺様の顔を真っ赤に染めていく?
俺様は……!?
次回予告
それは、サヨナラの別れ?
物語は、脱線する!?




