番外編壱~狩人那我羅!
これは美猴王が妖怪軍を率いて天界へ進軍の最中に起き、伝説に残されずに消えた物語。
開幕!!
これは天界で起きた事件の一つだった。
美猴王が妖怪軍を率いて天界へ進軍の最中に起き、伝説に残されずに消えた物語。
話はその事件から少々過去の出来事から語られる。
天界はまだ平和だった。
だが、美猴王進軍が始まる前から天界には凶悪な妖怪が罵っこし、天界の民を恐怖に陥れていく。
そのために組織されたのが武神であり、武神が天界の平和を守護しているのだ。
だが、天界は余りにも広く、全てに武神を行き渡らせる事は不可能であった。
そこで、
男「ウォオオオオ!」
数人の天界の男達が武器を手に魔物に飛び掛かる!一人一人魔物の強靭な爪に切り裂かれる中、飛び上がった男が大剣を降り下ろし魔物を一刀両断にしたのだ!
男は全身に魔物の血を浴びながら、雄叫びをあげた。
場所は変わる。
ここは天界の下級層にある社。ここにはみすぼらしい姿の天界人が集まり、自分達の働きの評価を審査官に判断して貰う。ここは武神ではない身分の低い天界人が狩人として魔物を討伐し、その謝礼金を頂く場所であった。
天界の下級層は人間界に近く、その生活習慣も変わらず生活していた。
そこで腕自慢の者達は生活のために魔物を討伐しては謝礼金を手にしているのだ。
彼らは狩人と呼ばれた。
しかし武神でない狩人達は魔物討伐で数多くの命を落としていた。
この度の討伐でも死者は出た。
生き残りは…
一人だけ
その男が戻って来ると同業の狩人達は目を反らす。
男は周りから異端とされていた。それは男と一緒に討伐に出た仲間は一人も戻っては来ず、毎回その男だけが帰ってくるのだから…
口々に噂する。
男が仲間を盾にしているとか?報酬を一人占めするために仲間を手にかけているとか?
今回の討伐のリーダーには狩人の中でも信頼厚く、この男の噂を否定した元武神の男だった。だから男を仲間に加えて討伐に出たのだが………
戻っては来なかった。
生き残った男は周りから囁かれる。
死神と!
男は報酬を手にすると、一人帰って行く。
報酬は武神達が使う武器や贅沢な食べ物を交換出来る。
それに、
女…
男は天界の遊郭に入ると上級の天女達を囲ませ大酒を飲む干す。暫くすると他の客と喧嘩をし、暴れて、再び酒を飲み酔いつぶれた。
男の名は那我羅!
天界階層の下級神であった。那我羅は孤立無援の男だった。親は自分と同じく狩人であったが、身分不相応な大きな案件であった魔物討伐に手を出し、数人の仲間を引き連れて出て行ったきり戻らなかった。
その後、親を無くし頼るすべのない幼い那我羅は一人で生きて来た。
腕に自信はあった。
生き抜くために独学で剣一つで生きて来た。この剣だけが父親が残した唯一の遺産。だが、それも錆び付き、何処にでもある安物の大剣だった。那我羅は大人用の大剣を幼い身体で振り回し、やがて自らも狩人として討伐に出るようになる。
幾度と死線を潜り抜け、戦場こそが那我羅の牙を磨き、野生の本能が今まで生き永らえさせた。まさに戦場こそが那我羅の師なのだ。
那我羅は孤立無援であった。誰も近寄らず、誰とも絡まず、誰も信用してはいなかった。
一人こそが安らぎであり、孤高こそが意識を集中させ、四六時中戦う事だけを考えていられた。
血が騒ぐ…
荒ぶる魂が戦場を求めていた。
那我羅は討伐報酬は武器購入には使わない。所詮自分達に配給される武器は使用済みの錆びれた物や、欠陥品ばかりだからだ。
だから那我羅は自分が倒した魔物が使っていた武器を持ち帰っていては、自分で研ぎ直して使う。その方が数段と力のある武器を手に入れられるし生き残る確率が上がるのだから。
周りからは疎まれ、忌み嫌われる那我羅は戦場でも仲間から命を狙われる事もあった。しかし、全て返り討ちにしたのだ。
那我羅「俺にとって魔物も邪魔する連中も同じだ!全て薙ぎ倒すまで!」
そんなある日、天界の武神達が軍を率いて自分達の領地にやって来たのだ。珍しい事だった。こんな辺境な地に武神が来るなんて?
それは特別な魔物討伐が理由であった。
魔物には格付けがされている。討伐ランクが上がるに連れて魔物の強さも上がる。その中で最高討伐対象とされているのが…
蛇神!
蛇神とは天界の神にとって最も忌み恐れられる邪悪な化け物であった。
太古の伝説により蛇神は神々の旧敵であり、神を滅ぼし世界を終わらすとされていた。そのため蛇神の出現は天界にとって第一優先討伐対象となっていた。
そして、この下級層に蛇神の出現、目撃情報が入ったのである。直ちに最上階の層より討伐隊が組まれ、この下級層に蛇神出現の調査、討伐にやって来たのである。
武神達は下級層の城を陣地とし武器の手入れをしていた。討伐隊の隊長は将軍級の猛者で蛇神討伐の一任者であった。蛇神がいると思われる洞窟は地下迷宮になっていて、その奥に蛇神城があるらしい。
明朝、将軍率いる三百の武神達は蛇神討伐に出向いた。当然、直ぐに決着が付くと誰しもが思っていた。
だが、三日後に戻って来た彼等は疲弊し、隊長である将軍と三十人程度の武神達のみであった。
討伐失敗…
傷付いた武神達は再び討伐に出向こうとする。だが、今回は狩人達にも救援養成があったのだ。当然、謝礼金はたんまり出る。だが、武神達に比べて狩人達の力量は素人に過ぎない。
再出発の前日の夜、集まったのは十人前後だった。その中には当然、那我羅もいた。武神達は狩人達には期待はしていなかった。所詮は数あわせに過ぎないのだから。そんな武神達に那我羅は苛立ちを感じていた。
那我羅「武神だか知らねぇが、俺に指図するんじゃねぇ!俺は俺の好きなようにやる!」
武神「キサマ!最下層の狩人の分際で何を言っているのか解っているのかぁ!」
那我羅は武神達と揉めていた。
武神「誇り高き我ら武神に従えぬなら、お前達など生きては帰れんのだぞ!」
那我羅「ふっ…逃げ帰って来た誇り高き武神様はお偉いのですな?」
軽口を叩き、嫌味を言った途端、聞いているだけだった他の武神達も立ち上がる。誇りを傷付けられ、抑えていた怒りがついに爆発したのだ。
殺気だった武神達は腰の刀に手を置くと、
那我羅「ほぉ?この俺に剣術の手解きをしてくれるのかい?ありがてぇな?あんたらの御遊戯剣術見せてみろやぁああ!」
那我羅は背負った大剣を抜くと、武神達はざわめく。那我羅の剣は余りにも大型重量級であった。それを片腕で持ち上げたのだ。
那我羅「どうしたい?武神様がまさか怖じ気付いたんじゃないだろうな?」
だが、武神達は呆れたように笑いだしたのだ。
那我羅「何が可笑しい?」
すると武神達と那我羅のいざこざを見ていた将軍が姿を現したのだ。
名を項将軍と言った。
項将軍「威勢のよい若者だな?だが、そのような大型の大剣を振り回したとしても修練を積んだ武神には敵わぬぞ?」
那我羅「あはは!面白い冗談だ?悪いが俺は強いぜ?」
すると那我羅は項将軍に向けて斬りかかる!見ていた武神達は誰も焦る事なく二人の様子を見ていた。
那我羅の振り回す大剣が項将軍に触れる瞬間、
那我羅「!?」
那我羅の大剣が何かに弾かれたのだ?那我羅は意味も解らず再び大剣を振るい攻撃するが全て弾かれる。
那我羅「一体、何が起きているんだ?何が俺の剣を弾いてやがる?」
だが、気付く。
弾いていたのは将軍の小刀である事に?
那我羅「まさか?あんな小刀で俺の大剣を弾いているってのか?」
すると項将軍は那我羅に小刀を向けて答える。
項将軍「お前の剣術は我流にしてはよく磨かれておる。今まで数多くの戦場で化け物を相手に、生き抜くために培った剣術であろう?」
那我羅「………」
項将軍「だが、武神は生き抜くだけの剣術では駄目なのだ!弱き者を守り、天界を平和にするために、どんな化け物を相手にしようと負けられぬ強さを持たねばならんのだ!」
項将軍は小刀を那我羅に見せるように前に向けると、那我羅の大剣を小刀で弾いた種明かしをする。
小刀は確かに立派な装飾がされているが、大剣を受ける強度があるように思えない。だが、そこで那我羅は将軍から何か異様な力を感じた。まるで化け物を相手にしているような緊張感に、本能的にその場から逃げ出したくなる。
危険な何かを感じる?
項将軍「勘が良いな?気付いたか?これが…」
『神気』
将軍から発する神気は小刀を包む。その瞬間、小刀から名刀とも言えぬ程の覇気を感じる?
項将軍「神気を纏った剣は名刀をも上回る!」
項将軍は小刀を振るうと那我羅の足下の大地を斬りさき、足場が崩れて那我羅は尻餅を付いた。
那我羅「ばぁ…馬鹿な!!」
項将軍「若者よ?上には上がいる!私だけではない。ここにいる武神は皆、この程度の事は容易く出来るぞ?我ら武神の強さは神気によって決まると言って過言ではない」
那我羅「神気?」
噂で聞いた事があった。
神気とは武神達が使う力の根源。魂の力を物理的な力として修練で引き出す。
神気を使う者は武器だけでなく己の肉体をも強化するだけでなく、中には術として変換させる仙術もあると聞く。天界下級層の那我羅にとって、初めて目の当たりにする力であった。
力の差を知り、苦渋を味わった那我羅は戻って行く将軍と武神達を追う事は出来なかった。ただ、地面を握りしめ、自分自身への怒りと無力さに…
「くぅそぉおおおお!!」
那我羅の咆哮が響き渡った。
次回予告
若き狩人の那我羅は項将軍率いる武神達と蛇神討伐に向かう。




