憎しみと悲しみ!満身創痍、蚩尤に刻まれたトラウマ!
刀剣魔王達がナタクと巨霊神の襲撃に散った。
そして、次の矛先は?
俺は蚩尤…
一体、何が起こっているのだ?さっきまで俺達は最後の戦いを前にして意気揚々と仲間達と気合いを入れ、その先の事を夢見ていた。
それが一転した…
そいつ達は突然俺達が張っていた結界を難なく破壊し入って来たのだ。
ガキと大柄の武神…
たった二人なら何とかなる!問題ないと、俺達は武器を手に襲い掛かった。
が、
仲間達は音もなく倒れた。
何が起きた?
外にいた見張りの仲間達はどうした?
外には刀剣魔王がいたはず?
他の連中は?
だが、結界が破壊されたのに外からは仲間達の加勢はもちろん気配どころか妖気すら感じない?
これはどういう?
嫌な予感が頭を過ったが俺は首を振った。
あり得ねぇ!
だが、次々と仲間達が倒れていく中、俺は我にかえる。
蚩尤「炎狼!氷狼!俺達も行くぞ!」
炎狼「えっ?あ、おぅ!」
氷狼「チョッ?あんな化け物みたいな強い奴にか?」
蚩尤「三人でかかるぞ!」
氷狼「仕方ねぇ…な…」
俺達は三人がかりでガキの武神の方に向かって行った。
そっちのがまだ勝ち目があるかと思ったのだが…
まるで通り過ぎるかのように少年神は俺達の背後に移動していた。
えっ?
気付くと、俺達の身体が裂け血を噴き出し、意識が遠退きながら倒れた。
今、何が起きた?
まさか斬られたのか?
いつの間に?
だが、身体中から力が抜けていく…
《バカヤロー!てめぇ~蚩尤!死ぬな!馬鹿!》
それは俺の魂に宿る魂喰魔王の声だった。
俺が死んだら、こいつも死ぬんだったな?
だが、力が入らない…
炎狼も氷狼もまた俺と同じく血まみれで倒れていた。
俺は辛うじて意識があった。
だが、大丈夫…
俺は袋を手にする。
これは邪魂の袋。この中にある飴玉を食べると瀕死状態から再び蘇られるのだ…
袋の中には飴玉が三つ入っていた。
が、
何故だ?
この天界に来てから気付いたのだが、袋の中の飴玉が全然増えないのだ?
そもそも邪魂の飴玉は死者の魂を飴玉に変えて、食った者を蘇生させる禁忌のアイテム。
なのに出来ない理由は魂の補充が出来ないから?
だが、変じゃないか?
仲間達はこうやって皆、目の前で死んだのに!!
まるで魂が何処かへ消えてしまっているようだ?
だが、大丈夫…
ここには剛力魔王に怪力魔王、それに玉面さんが…
だが、俺は動く右腕で地を這いながら仲間達のもとへと向かう。
魂喰魔王は俺を止めようと何やら叫んでいるが、俺にはもう耳に入らなかった。
ナタクと巨霊神は俺達の襲来に風雲魔王達も異変に気付く。
風雲魔王「外で何が起きているのだ!?」
すると風雲魔王に向かって何者かが接近して来る!
風雲魔王「!!」
風雲魔王の額に剣の先が当たるのを感じた?
皮膚にめり込むように骨を貫通する感覚が伝わり、その次に感じたのは…
自分は今から死ぬという実感だった。
その者はナタク!
ナタクの突き出しだ剣が風雲魔王の額を貫いたのだ!!
崩れながら倒れる風雲魔王は即死だった。
ナタク「どうやらコイツが軍の頭脳らしいな…」
仲間である風雲魔王の死を見た怪力魔王は怒り、ナタクに向かおうとする。
剛力魔王「怪力!!」
剛力魔王の叫び声に怪力魔王を気付く。背後に何者かが攻撃を仕掛けて来ると!
それは巨霊神!
巨霊神は怪力魔王の頭上に拳を降り下ろす。
が、剛力魔王の声に反射的に怪力魔王は巨霊神の拳を両腕を交差させて受け止めたのだ。
怪力魔王「な、何者!?」
巨霊神「ほぉ?俺の拳を受け止めるとは少しは力があるな?どれ?」
巨霊神の腕がのし掛かる!
怪力魔王の両足が地面に沈み、まるで大山を支えているような感覚になった。
怪力魔王「何て…力だ!だが、俺は負け…」
怪力魔王の姿が獣神変化し巨霊神の腕を押し上げようとした時、更に押し潰す力がのし掛かったのだ!?
怪力魔王の腕は折れ、脳天が潰れ、膝から支える足が折れ曲がり潰れた。
剛力魔王「カァ!怪力ィイイ!」
弟を目の前で殺された剛力魔王が怒りで獣神変化した瞬間、気付いた…
剛力魔王「ごふっ」
剛力魔王の目の前にナタクが後ろ向きに、自分の胸に剣を突き刺しているのを!
剛力魔王「きさ…マ!」
ナタク「力の解放が遅かったな?」
直後、ナタクの神気が雷の如く剛力魔王の体内を感電させ、全身から雷が肉を破り、皮膚を裂いた!
鼻、口や目から血を流しつつも、目の前にいるナタクに腕を伸ばす…
ナタク「………」
ナタクは突き刺した剣を抜くと、剛力魔王は胸から血を噴き出させて倒れた。
バカな!!
怪力魔王、剛力魔王があんな意図も簡単に…
殺されただと!?
そして、ナタクの次の標的は…
ナタク「気付いていた。お前が一番力があるようだな?」
ナタクの視線の先には玉面魔王が、この絶望的な現状に戸惑っていた。
次々と倒れていく仲間達。
喧嘩をしながらも認めあっていた剛力魔王の死…
何もかもが…
零れ落ちるように消えて逝ったのだ。
玉面魔王「キサマァア!」
玉面魔王の覇気がナタクへ向けられた!大地を揺らし攻撃的な水玉が弾丸のようにナタクへ放たれる!
が、ナタクは少しずつ玉面魔王へ近付いて行く。
向かって来る無数の水玉はナタクの剣により斬られ消滅する。
そして間合いに入った時、ナタクの斬撃が玉面魔王の身体を斬り裂いた!
玉面魔王「グゥ…ヌゥ!」
が、玉面魔王の再生能力が傷を消していく。
これが玉面魔王の瞬間再生!
だが、ナタクの斬撃は止まる事なく玉面魔王を斬り続ける!
傷が裂け、塞がり治ると、新たな傷が!
玉面魔王「ガァ!」
さしもの玉面魔王も後退し悲鳴をあげた!瞬間再生能力は妖気が尽きればそれまで…更に痛みまでは止められないのだ。永遠に続くように感じられる斬撃の痛みに玉面魔王の心の方が先に折れたのだ。
玉面魔王は尻餅をつき、腕で庇うようにして退く。
が、その腕も斬られ目の前に指と手首が落ちる。
「ぎゃああああ!!」
血を流して後退する玉面魔王にナタクが近付く。
ナタク「終わりだ…」
ナタクが剣を振り上げ、玉面魔王が恐怖に顔を歪めた時!!
ナタク「!!」
ナタクに向かって俺が飛び付いたのだ。
ナタクは冷静に剣の軌道を玉面魔王から、俺の首筋と腹に変えて斬り裂いた!
俺は大量の出血させ崩れるように倒れる。
大地は玉面魔王の妖気の水溜まりが血に染まり出来ていた。
ナタク「先ほど命を絶ったはずだが、生きていたとは?」
が、俺は倒れ様に体勢を変えて、脅え泣く玉面魔王を抱えて移動する。
ナタク「逃がさん!」
ナタクの斬撃が俺の背中を斬り裂いた!
蚩尤「ガァ!」
俺は倒れ様に玉面魔王が落下の下敷きにならないように身を呈する。
玉面魔王「嫌!嫌ゃあ!嫌ゃあああ!」
玉面魔王は発狂するように泣き叫んでいた。
それは恐怖から過去のトラウマが甦り、まるで脅える童のようだった。
あの誇り高き玉面が…
それほど今の状況は絶望的状況なのだと解る。
それでも俺は泣き叫ぶ玉面魔王に向かって、
蚩尤「しっかりしてくれ!俺が絶対に助けるから!俺が絶対に!」
そんな俺と玉面魔王を見下ろすナタクは、
ナタク「不様…」
蚩尤「!!」
ナタク「この程度で天界に攻め混んで来るとは身の程知らずな連中だ…」
巨霊神「地上界では大層に魔王と名乗っていたようですが、所詮神にとっては無力!」
蚩尤「………」
ナタク「地上界と天界では格が違うのだ!!地上界の戦争などたかが知れてる」
見下ろし、俺達の戦って来た時を無駄だと罵る…
確かに、神は強い…
けどな?
地上界での苛酷な戦いは決して、楽なもんじゃなかったはずだ!
命をかけて戦い、数え切れぬ程の仲間達を失い、幾つもの死線を潜り抜け、何度も死にかけた……。仲間達の屍を乗り越えて俺達はここまで来たんだ…
それを笑うな!
だが、今の俺は無力…
このまま…脅え泣く玉面魔王と一緒に殺されるのか?
全てが無駄に…
兄者…
その時、俺は自分自身に怒りを感じた!
何を諦めている?
俺は仲間達の魂を喰らう禁忌を犯して生きて来た…
楽に死ねるなんて
おこがましい!
それに!
俺は玉面魔王を抱き寄せると、懐に入れてあった最後の飴玉を手にする。
その時、魂喰魔王が俺の魂の中で叫んだ!
《相棒?待てよ?それは駄目だって言っただろ?死ぬ気かぁあああ!!》
忘れてはいねぇ…
このまま死ぬくらいなら、せめて一矢報いてやるよ!
俺の手にした最後の飴玉は他の飴玉より大きく、真っ赤に、熱を帯びていた。
蚩尤「愛する女を助けるために命を張れないでどうする?俺は生きる!死んではならねぇんだ!」
俺は飴玉を口に放り込み歯で砕くと、身体がみるみる再生していく。
ナタク「!!」
同時に大地が突然揺れ始めたのだ??
地震?
違う!
俺の身体から強烈な覇気と熱が一帯を覆う。
蚩尤「グゥ…グググ!」
俺の皮膚が裂けて血が流れる。だが、その血は熔岩のように熱を帯びていた。大地が沸騰し、強烈な覇気がナタクと巨霊神をも怯ませた。
巨霊神「これは…一体!?」
ナタク「足掻いた末に面白い物を見せてくれる…」
俺が最後に食った飴玉は地上界でもNo.2の力を持つ妖魔王…熔岩魔王!
祝融の魂の飴玉だ!
これが地上界の魔王の真の恐怖であり、力だ!!
俺の魂の中で魂喰魔王が身を焦がすような痛みに発狂している。俺も発狂し、このまま意識を飛ばして楽になって死ねたらどんなに楽だろうか?
だが、死なん!
俺は玉面魔王を助ける。
そして、俺は必ず…
蚩尤『天界人よ?俺は必ず戻って来る…俺は必ず再び天界を滅ぼすために…舞い戻って来るからなぁー!』
俺は覇気を籠めた渾身の一撃で大地を殴り付けたのだ。
熔岩が噴き出し、地面から噴火が起きた!!
崩れ落ちる浮遊島が崩壊し俺は玉面魔王を抱き寄せ落下していく。
「兄貴ぃ!俺達も~」
俺に向かって逃げるように飛び降りたのは炎狼と氷狼だった。俺は最初に斬られ瀕死状態だった時に飴玉を砕き、破片を二人に食わしていたのだ。
そして俺は落下しながら…
憎しみと怒りを誓う。
必ず力を付け、戻って来る!俺が天界を…
滅ぼしてやると!
巨霊神「追いますか?」
ナタク「捨てて置け?俺達は他にやるべき事がある!」
ナタクは上空を見上げると玄武門が見える。
ナタク「あそこに戦いの臭いがする」
そう言って次の戦場を求めて飛び立った。
俺は落下し意識を失いながら、
「兄者…すまねぇ…」
この後、消えた四人の生存は確認出来なかった。
次回予告
ナタクから匂う仲間達の死を嗅いだ獅駝王の胸中は?




