破壊神と呼ばれる少年・・・
この物語は、第三段の序章。
特別過去編です。
美猴王率いる水廉洞闘賊団の天界進軍。
それに対抗するかのような天界の英雄神達が集まる。
天界はその戦いに震えるかのように、至るところで磁場が発生していた。
磁場は空間を歪め空に小さな亀裂が走った?
戦場の匂いが亀裂へと吸い込まれていき、漂っていく。
その先は?
次元の隙間に漂いながら、その匂いは木の上で果実を食べている褐色の少年の元へ?
少年は匂いを嗅ぐなり鳥肌が立って、いてもたってもいられなくなる。
「なんら?何か…身体中から熱くなってムラムラして来たらぁ??何なんら?」
少年は大木から飛び降りると、真下にある湖へと飛び込む。
そして泳いだ先に城があった。
少年は城の中に入って行くと、その城の兵達が膝をつき平伏する。兵達は皆、屈強な闘気を持った魔神の兵であった。
少年は通路の奥にある広間に入って行くと、そこに座禅を組む魔神の戦士がいた。
少年は戦士の前に座ると同じく座禅をし声をかけた。
少年「なぁ~?何か…変な感じなんら…胸が苦しくて、それにいてもたってもいられない気分で、でも何をすれば良いのか解らないのらよ?」
すると戦士は答えた。
戦士「そうか…なら、時が来たのだろうな?」
少年「時が?来たんら?」
戦士「前にも話したと思うが、お前は旅に出る運命にある。それはお前の宿命」
少年「宿命?難しい事は解らないらよ?オラはどうしたら良いんら?何処に行けば良いんら?山向こうらか?海の先らか?教えてくれよ?先生?」
先生…
この戦士は少年の先生。実際には少年が勝手に弟子入りし始めた事からの縁だが、少年の好奇心に様々な事を教えてくれていた。
少年「う~意味解らないらよ!オラは難しい事を考えるの苦手なんらよ!」
少年が戦士に飛び掛かると戦士は陽炎の如く姿が消え、背後に座禅を組んだ姿勢で現れる。
少年「先生は話す事は出来ても触る事が出来ないから力ずくで聞き出す事も出来ないら~」
戦士「ならば一つ…遮那よ!お前のしたいようにするのだ?その先に進むべき道が開かれよう!」
遮那?
この少年の名前であった。
遮那は自分のやりたい事を考えながら、
遮那「そっか!先生!ありがとうら!」
そう言って、その城を出て行ったのだ。
遮那が出て行った後に門番達は口にする。
「また遮那様が来たようだな?しかし何故、このような場所に度々来るのだろうか?」
「不思議に思い中を覗いた者の話では、一人言をブツブツ言っては帰って行くそうだと?」
「この場所が場所なだけに怖いな?まさか亡霊と会話しているのか?シャマーンではなかったはずだが?」
この城は過去の英雄神を奉る霊慰安所であった。
この城に刻まれた名は…
摩利支天
かつての十二天が一神の眠る場所であった。
遮那は自らの城に戻ると着替える。そして旅の支度を始めたのだ。
遮那「オラは世界最強になるんら!そして、必ず兄達をギャフンと言わせてやるらよ!」
遮那には兄弟がいた。
二人の兄と姉と妹。
その中でシャナは一番
弱かった。
遮那の一族は最強であり、最凶の破壊神の血統なのだ。
破壊神シヴァの血統!
シヴァ…十二天の一神であり、その力は最強を誇る。
戦闘の荒神であった。
その一族は強さが己の証明であり、弱者は存在を認められなかった。
中でも落ちこぼれの遮那は、弱者と呼ばれ、一族からも虐げられていた。
遮那「決めたら!オラは武者修行の旅に出るら!」
だが、何処に?
その時、噂を耳にした。
父神であるシヴァと同等の力を持つ神の存在を?
その者は破壊神シヴァと同じ十二天であり、雷神!
名をインドラと言った。
しかし十二天は遥か昔の戦争で散々になり、インドラは遮那のいる今の世界とは違う別の世界にいると噂されていた。
遮那「別の世界らか?どうやって行けば良いんら?」
遮那は悩んだ末、妹であるヴァティーの城に忍び込む。
例え兄妹でも遮那は気軽に顔を合わせて貰えない立場であった。
だが遮那は妹に合うために城に忍び込む。妹はシャマーンであり、様々な事を知っている物知りちゃんなのだ。
見張りの戦士達に気配を消しながら移動し、遮那は妹の部屋に潜り込む。
すると、
「お兄様?」
妹のヴァティーは兄弟で唯一シャナに心を許してくれていた。
遮那は異世界についてヴァティーに尋ねると、ヴァティーは困った顔をする。
ヴァティー「お兄様?本当に行かれるのですか?」
遮那「そうら!オラは決めたんら!」
ヴァティー「だけど…」
異世界への入口はある。
しかし、そこは十二天にしか出入り出来ない強力な結界に閉ざされていた。
力のない魔神が結界に入れば、その魂ごと消滅してしまう程の恐ろしい結界であった。それも結界を張ったのもまた十二天の一神であり、創造神梵天が造り上げた特別な結界なのだ。
ヴァティー「危険です!やはりお止めくださいお兄様!」
遮那「オラは決めたんら!」
その時、背後から声が?
『行かせれば良いじゃないか?』
遮那は振り向くと同時に腕を絡まれ、床に押し付けられたのだ。
その者は、
ヴァティー「お姉様!」
遮那とヴァティーの姉であるドゥルガーであった。ドゥルガーは虎の毛皮を被った褐色の少女であったが、その荒々しい性格は父神シヴァの妻である母神カーリー譲りとも言われていた。
ドゥルガーは遮那を床に押し付けると、
ドゥルガー「おぃ?遮那!お前、逃げるつもりじゃないだろうな?」
遮那「違うら!オラは強くなって必ず戻って来るらぁ!」
ドゥルガーは体勢を変えて馬乗りになると、遮那の胸ぐらを掴んで見下ろす。それは少女とは思えない殺気だった。遮那は一度もこのドゥルガーに勝てた事がなかったのだ。
ドゥルガー「馬鹿かお前?結界はお前のような弱者が入ったら、そこでバラバラになっちまうんだ?内臓ぶちまけ、跡形もなくなるんだぞ?おぃ?」
ドゥルガーは遮那が顔面を殴りながら、笑みをみせて挑発する。
遮那「関係ないらー!オラは必ず結界を越えるら!」
ドゥルガー「なら、付いてこいよ?」
するとドゥルガーは遮那とヴァティーを連れ、父神シヴァの神殿の中にある禁断の領域へと入って行く。
遮那「オラ…初めて入ったら~」
ヴァティー「私もです」
ドゥルガー「気配を消すの忘れるなよ?誰かにバレたらただじゃすまないからな?」
シャナ「お…おぅ!」
ドゥルガー「万が一、他の兄貴達に知られたら何されるか考えるだけで鳥肌がたつわ!」
遮那には他に長男のガネーシャ、次男のスカンダがいるのだ。
二人とも遮那達とさほど歳は離れてはいないが更に強力な力を持っていた。
遮那達は天にも届くかのような十二の柱のある不思議な場所に入る。そこは近辺一帯は森林になっているが、その先は何もない空間になっていた。その中央にかたく閉ざされた扉があった。
遮那「この扉の先に別の世界があるんらか?」
ヴァティー「やっぱり止めましょう!危険です!」
ドゥルガー「はぁ?ヴァティー、何を言ってるんだよ?せっかく連れて来たんだ!遮那が私の前で肉片散らばせなきゃ意味がないだろ?」
ヴァティー「そんな・・・」
遮那「安心するら…オラはやれる奴ら!」
だが、結界の扉からは危機を察知する本能が近寄ってはならないと告げていた。
それでも、
遮那は扉の前に出る。
躊躇しながら扉を掴むが開けられない。恐怖が今になって遮那に力を入れさせなかった。
ドゥルガー「何だよ?怖じ気ついたのか?私が見届けてやるよ?お前の最期をな?逃げないように!」
遮那「オラは…」
『絶対に逃げないらぁー』
そして意を決して扉を開けたのだ。
その瞬間、
遮那「!!」
強力な結界が起動した。雷?氷?炎?打撃?味わった事のない痛みが遮那の身体を襲った!
「ウギャアァアアア!」
血が沸騰しそうら?
身体が裂けそうら…
意識が消え…
その衝撃は見ていたドゥルガーとヴァティーにも解った。
近寄れば死ぬ!これ以上前に出れば巻き沿いに合う?
ドゥルガー「アハハ!馬鹿な奴ぅー!マジに入りやがった~!あいつ絶対助からないよ?アハハ!」
ヴァティー「お兄様ぁああ!」
既に二人の声は耳に入ってはいなかった。
何も聞こえない?
何も見えない?
何も…感じな…ぃ…
完全に遮那の五感は失っていた。指ひとつ動かせない、もう…何も…
遮那の魂が諦めかけた時、遮那の身体から血が噴き出して腕や足が折れ曲がる。もう耐える力が尽きてしまったのだ。
その時、
五感を失ったはずの遮那の耳に聞こえて来たのだ?
これは戦場?
その時、遮那の魂に何かが入って来て、見えない目で見たのだ?
戦場で戦う美猴王達の姿を!?
更に、自分を待つ別の何かの存在を感じたのだ?
遮那「皆が…待って…いる…ら…」
その瞬間、
ドゥルガー「!!」
ヴァティー「お姉様!」
二人は感じたのだ?
今にも魂すら消えかける遮那から、感じた事のない凄まじい力を!!
否!
この力を二人は知っていた。この力は父神!
シヴァの力そのものだと!
瞬間、遮那の額が割れて第三の瞳が開いた!
しかも、その瞳は金色に光輝き、遮那を覆うと折れたはずの腕や足が、傷付いた身体が再生していく。
そして、
遮那『ウラァアアア!』
遮那は振り上げた拳を放つと、結界に穴が開き、二人の前から消えたのだ。
ヴァティー「結界を…抜けたの?」
ドゥルガー「まさか…あの遮那が…」
残された二人は茫然とその様子を見ているしか出来なかった。
そして遮那は?
遮那「う…う~ん…」
遮那は眠っていた。
目覚めた遮那は理解した。ボロボロの衣だったが身体は何ともないみたいだった。そして見慣れない土地?ここは…
遮那の住んでいた世界とは別の世界だと?
遮那「オラは…抜けたんらか?」
そして遮那は立ち上がると、新たな道に一歩踏み出した。
遮那「行くら~」
これは後に破壊神と呼ばれる少年の序章…
美猴王達が戦っている戦場とは別に起きた物語。
異世界へと現れた遮那の存在に唯一気付いた者がいた。
「ようやく来てくれましたね…永かった…」
その者は蓮が浮かぶ湖で一人、釣りをしながら水面に映る遮那を見ていたのだった。
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この遮那の続きは、『唯我蓮華~破壊神と呼ばれた少年~』
にて完結してます。
そして、物語は美猴王達へ!




