去る者は猿?水簾洞闘賊団の快進撃!
美猴王に牛角魔王、蛟魔王、獅駝王が同盟を組んだ。
こうなれば恐いもんはない?
『うおりゃああああ!』
様々な場所で雄叫びがあがり、武器と武器の衝突音が響き渡る。血生臭い匂いと鮮血飛び散る中、俺様達の戦いが始まっていた!
まさに戦乱真っ只中!
俺様は甲殻昆虫戦車[昆虫に妖気を与える事で妖気を纏った巨大な魔鎧虫となり、妖怪達が使う乗り物に使うのだ]の頭に乗りながら腕を組み、戦場の中を駆け巡っていた。
俺様は美猴王!
俺様の隣には牛角魔王、蛟魔王、獅駝王が同じく見果てぬ荒野を見ている。
そう!
俺様達は義兄弟となり、共に同じ夢を抱く…
世界制服!!
まさに世界への反逆者となったのだ!
しかし、俺様達率いる軍勢は五百足らず…
えっ?
魔王達が率いていたあの数万の軍勢は何処へだと?
それは…
俺様達が同盟を組んだあの日、俺様は今まで三魔王が率いていた軍勢を前にして演説を行ったのだ。
美猴王『見ての通り!俺様達四魔王はこの度同盟を組んだ!俺様達の目的はこの世界を征服する事!』
俺様の言葉に数万の妖怪達が顔を見合せ、ざわめき始めた。
美猴王『そして俺様達は天界に喧嘩を売るのだぁー!』
へっ?
その言葉に妖怪達が目を点にして硬直した。
地上界の妖怪達は天界に支配されている。その支配下から解き放つ救世主が[俺様]目の前に現れたのだから!
美猴王『これから先は戦う意志のある者だけが残れば良い!無理強いはしねぇよ?だが共に戦う勇気ある者は前へ出ろ!俺様達と一緒に自由を掴もうぜ!』
妖怪達は迷っていた。
確かに天界からの支配から解き放たれる事は夢のような話だ。
だが、相手が悪すぎる…
そこで俺様は追い打ちをかけるように…
美猴王『去る者は去れ!責めはしねぇ!ただし、これから先戦場で会ったなら俺様達を敵に回すとしれ!』
俺様の背後に揃い踏みする魔王達の姿!牛角魔王に、蛟魔王、獅駝王、そして俺様の威嚇が目の前の妖怪達を震え上がらせた。
これで良し!
逃げたらどうなるか解ってるだろうな?
俺様達が容赦しないぞっ?
と、遠回しの脅しをかけたのだ……。
俺様達についてくれば恐れる者なんていねぇ!
そして部下の妖怪達は『やってやるぜぇ!』『天界がなんだ~!』『俺達はあんた達についていくぜぇー!』と、活気づいていく。
まさに計算通りだ!
美猴王『自由を我達が手に!』
部下達『自由を我が手に!』
その後、これから始まる大戦に向けて俺様達は数万の部下達と共に宴会を開いたのだ。飲んで食って、これからの戦いに生気を養うかのように。
俺様は意気揚々とその日を終え、次の日…
目が点になった。
そこには数万の兵が…
あんなにこれからの戦いに熱く盛り上がった部下達が綺麗サッパリと消え去っていたのだから。
美猴王『のわぁ~に~?』
あいつ達逃げたぁ~!?
数万の部下達は一時的に盛り上がってはみたものの、やはり相手は地上界の魔王軍全軍に合わせて天界の奴達となると、後から冷静になってビビりが入ってしまい一人一人、また一人一人と、俺様達が眠っている隙にトンズラこいたのだ。
あの数万の兵が足音たてずにコソコソ逃げるなんて・・・」
想像しただけで余計に腹立たしくなる!
この軟弱者達がぁー!
そんな落胆の俺様に牛角は笑いながら言った。
牛角魔王「アハハ!所詮は臆病者の集まりだった訳だ!逃げた奴達は戦士ではなかっただけだ。気にするな?」
美猴王「…戦士?」
牛角魔王「見ろよ!チョロチョロだが残ってる奴達もいるだろ?これからの戦いは生き残れる保障なんかない!それでも戦う意志のある猛者!俺達の戦いにはそんなキモのすわった奴達がいれば良い!だろ?」
美猴王「そうだな!」
見渡す限り残ったのは五百かそこらか?
まぁ、良く残ったと褒めてやるべきだな!
それに俺様には…
戦士と呼べるに相応しい一番頼りになる心強い義兄弟達が残ったのだから!
俺様達は戦場に降り立った。俺様達は自分達の率いる軍を『水簾洞の闘賊団』と呼び戦場を駆け巡る。
名前の由来は俺様の独断だったのだが、一応理由があるんだぜ?俺様がこの世界征服を思い付いたのが俺様が猿達のボスだった幼少期にアジトにしていた『水簾洞』と呼ばれる場所だったからだ。
後は盗賊団と闘賊団を引っ掛けたダジャレだ!
最初は文句言う他の魔王達だったが、最後はジャンケンで俺様が勝ち取ったのだった。
美猴王『さ~て!水簾洞闘賊団の快進撃の始まりだぁー!』
俺様達は先ず手短に近い場所に城を持つ魔王から標的にしていく。俺様と三魔王が手を組んだ以上、鬼に金棒!僅か五百の闘賊団が五千の妖怪達を率いる魔王の城を落とした。まさに一騎当千と言うべきだろうな?
そんな調子で一つ一つ他の魔王の城塞を崩していく。
そんな俺様達の進撃に地上に残る他の魔王達も脅威に感じたのか?次第に地上の魔王達も手を組み同盟を結び始めた。
やがて、地上には強い魔王の下に幾つもの国が出来上がる。それは水簾洞闘賊団への牽制にも思えた。
牛角魔王「奴達も総力を上げて来たようだな?どうやら本気で俺達を潰しにかかる気になったようだ!」
獅駝王「俺俺!もっと強い奴達と戦いたいぞ!」
美猴王「で、どうするよ?蛟魔王?」
蛟魔王は俺様達の前に地図を広げて説明を始めた。
蛟魔王は俺様達水簾洞闘賊団の軍師的役割なのである。正直、俺様達がいくら強いと言っても、僅かな人数の闘賊団が数千や数万以上の軍を持つ魔王の城を落としていけたのは、この蛟魔王の采配と戦略あってのものだ。
蛟魔王「今、あたい達がいる場所はココ!で、この場所から一番近い場所は…」
東方の地!
眼力魔王が統べる大国か!
美猴王「眼力魔王ってそんなに強いのか?独角鬼王?」
独角鬼王「へぃ!そりゃあ~強いなんてもんじゃないですよ!なにせ…」
美猴王「?」
独角鬼王「魔王番号が一桁クラスなんですからね!」
一桁?
魔王には一人一人に魔王ランクがあるのだが、それは数字の番号として自分の持つ魔王玉に印されている。その番号が一桁に近いほど、格上だと言うのだが…
眼力魔王って奴は一桁の奴なんだな?
だったら今まで以上に強いのは間違いないだろう。
まぁ、どちみちやらなきゃならないのだから避けては通れんな!
が、そんな事より…
七十二いる魔王の中で俺様が五十番なんて有り得ん!
そもそも最初は七十二番と印されていたのだが、自分より数字の上の魔王を倒したら玉の数字のランクが上がったのである。
面白いなぁ~
魔王玉には魔王になった者が己の血を垂らす。それが契約となり魔王の称号を与えられるのだ。魔王になると、その地の区域を支配する権限を得る。俺様は独角鬼王から魔王玉を奪い、契約を上書きして魔王となったのだ。そこで俺様達は近場の魔王達から魔王玉を奪い、その地を手に入れているのである。ちょっとした陣地取りゲームだ!
そんで、俺様達は七十二から五十の番号の魔王玉を既に手に入れていたのだ。
美猴王「あ、そうだ!これこれ!」
俺様は懐に入れていた今まで倒して奪った魔王玉を蛟魔王に渡す。
蛟魔王「はいはい!預かっておくよ!」
蛟魔王は受けとった魔王玉をしまうと、
蛟魔王「本当にあんたって馬鹿正直なんだから…」
俺様は奪った魔王玉は全て蛟魔王に預けていた。そうそう!魔王玉にはもう一つ使い道があったのだ。魔王玉が他の者に奪われると厄介なのである。それは魔王玉の持ち手を一度だけ支配出来ると言うのだ。
死ねと言えば自害するし、仲間を殺せと命じられたら逆らえない。
つまり、魔王玉を奪われたら俺様達は敵の魔王の支配下に落ちるのだ。
マジかよ!
そんな訳で俺様は…
いや、俺様達は自分達の魔王玉を蛟魔王に預けたのだ。
そんな俺様に独角鬼王が以前言っていた忠告が頭に過ぎる。
『裏切りの蛟魔王』
蛟魔王の異名であった。
それは蛟魔王が竜神族の財宝を奪い、一族を裏切った挙げ句、地上界にて魔王になった経緯からである。
だが俺様は…
魔王玉を誰に預けるか話題になった時に、真っ先に蛟魔王を指名したのだ。
美猴王「蛟魔王!お前に任せるぜ?ほらよ!」
そう言って自分の魔王玉まで蛟魔王に投げ渡すと、牛角魔王と獅駝王も何も言わずに蛟魔王に自分の魔王玉を渡したのだ。
蛟魔王「はっ?何故、あたいなのさ?あんた達も噂で聞いてるんだろ?」
美猴王「関係ねぇよ!」
蛟魔王「関係ないって?どうなっても知らないよ?女ってのは移り変わり激しいからね?」
蛟魔王は俺様を試すように言った。
美猴王「だって義兄弟だからな?俺様はお前を信じるしお前は俺様達を裏切らない!だから大丈夫だ!」
蛟魔王「!!」
蛟魔王は俺様達の魔王玉を手にすると、懐に閉まった後に言った。
蛟魔王「ふん!あんた達に持たせて何処かに無くされるよりかはマシか!」
そう言って部屋を出て行ったのである。
蛟魔王は一人になった後、
蛟魔王「馬鹿な奴達…」
と、口元が笑んでいたが、その瞳は何か思い詰めていた。
蛟魔王…
かつて、仲間の竜神族の追っ手を…
全て手にかけた罪悪人…
そして、こうとも呼ばれていたのである。
『同族殺しの竜姫』と…
次回予告
水簾洞闘賊団の目的地は眼力魔王が統べる地!
これから先は今までよりも楽じゃなかった。




