4/14
2015/11
2015/11
私の声は触覚だった。指先が奏でる文字が幾人ものの目に触れる。私の声には音がない。それに反して周囲の音はよく聞こえる。しかし、私はその音を好まなかった。それは私にとって声ではなかったからだ。冷たい芯が耳の中を通る。――うん、今日はちゃんと声が見える。
母は雷を嫌いだ。雷が大きく響く日は、鶏声に似た悲鳴を挙げて部屋の奥深くへと隠れてしまう。いやだいやだと涙を零していっそう己を隅に押し込むのだ。日に日に、母の存在は宙に吸われたようにその影を薄くしていった。その日は格別大きな雷雨であった。後日、母の髪の毛一本すら見つからない代わりに部屋の隅には大きな水たまりがあった。はて、私に母とは本当にいたのだろうか。




