2015/5
2015/5
#書く予定のない小説の一部
――ねえ、あなた、抱いてくれる?
彼女が呟いた言葉を頭の中で反芻する。見えているはずのない目が形のない矢となって俺を貫く。
「何を言い出すんだ」
「愛してくれるかって訊いてるのよ」
「……そんな体で、と言っているんだ」
「こんな体だから、でしょう?」
#書く予定のない小説の一部
彼女の体は蝕まれていた。それは病だった。呪いだった。いいや、正しく呪いと言うべき代物だろう。彼女は救えない体になってしまった。
「愛してくれないの?」
「……」
#書く予定のない小説の一部
「あなた、言ったわよね。何があってもお前を守ると。だから私もあなたを守ると決めたの。苦しみを分かち合おうと決意したのよ」
そこからは憎しみは見えない。彼女はぽつぽつと雨粒の降りだしのように、俺の罪を代わりに紡いでいく。それは懺悔だったのかもしれない。
#書く予定のない小説の一部
彼女のためか、俺のためか。 誰のためとも言えぬ、赦しの言葉。
「なのに、あなたはもう私を愛さないのね」
呪いは移るものだった。移せば治る。そして移った先で呪いはまた育つ。彼女の呪いは、俺のものだ。彼女は俺を抱いてくれた。
#書く予定のない小説の一部
「……抱けない」
「……知ってるわ。あなた、そういう人だったもの。そして、そんな人を愛したのも私だわ」
「すまない。俺は、お前を――」
「やめてよ。気持ち悪い」
彼女は己を身代わりにした男が、過去に愛した笑みを浮かべた。