Piece-1 始まり
見渡す限りの草原が続いている。
そこには一人の少女らしき人影が立っていた。
彼女は黒に近い紫色の長髪を持ち、それを後ろでポニーテールのように束ねている。白い作業着のようなものを着込んでおり、左手には何のためにかは分からないがやたらと大きなサーベルを掴んでいる。
しばらくして、その少女は目線の先を見やって一言、呟いた。
「これは…、ひどいなぁ」
まるでどこかのサバンナのような、広い平原の中。
そこに空気をぶち壊すかのように大量の残骸が置かれていたのだった。
その残骸を構成するのは、粉々に打ち砕かれたコンクリート、バラバラに引き千切られた鉄の塊、そして焼き切れたカバンに、パーツごとに分解された自転車。
どれもこれも酷い有様で、原型なんてどこにも見当たらない。
ちょうど町に強力な爆弾でも落として、その残骸を持ってきたような感じだ。
ただ、これを運んできた形跡などは無く、下敷きになった地面にも草は生い茂っている。
これを見ると、どう考えても突如としてこの残骸がここに現れたとしか考えられないのだが。
それもそのはず、これが現れたのは、つい数分前のことなのだから。
------------数分前-------------
ドォォォォォン!と轟音がした。
同時に地面が激しく揺れ、強烈な波動が感じられる。
「わわわっ」 がしゃん。
広大な草原に面した町エリニア。
一度は栄えたこの町だが、いろいろと訳あって今では過疎状態となっている。
そんな中でも特に外れた場所にある小屋。そこから人の声がした。
「やっば… 割っちゃったよ…」
そこには一人の、紫ががった黒髪が特徴的な女の子がいた。
彼女は先ほどの衝撃に驚き、つい持っていたグレープジュースの入ったカップを
手から地面へと取り落としてしまったようだ。
最初は焦ったような表情を見せたが、しかし数瞬後には衝撃の来た方向を向いて
「とりあえず、あっちが優先ね」
と言うやいなや、彼女は壁に掛けてあった白い服を羽織り家を飛び出していく。
玄関のすぐ横にスタンドで立ててあったバイクに乗り込み、エンジンをかける。
バイクはかなり古い物のようで、傷だらけの上に修理跡だらけだ。
胴体部分横にはかなり大きなサーベルがくくりつけられていて、異様な雰囲気を出していた。
「さてと… 大体5,6km先、方角はこっちね… それ!」
少女は思いっきりアクセルを踏み込み、バイクを急発進させた。
あっという間に大きく加速し、彼女は小さな点になっていく。
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「さて、生存者はいるのかな?」
少女は一体これが何か知っているような口調で呟きながら、ガレキの山へ歩を進めた。
適当に生存者がいそうな場所を考え、素手でガレキをどかし始める。
ガシャン。ばたん。ドスン。
彼女は華奢な見た目からは想像できないような力を発揮し、テンポよくガレキをかき分けていく。
適当にやっているように見えるが、もちろん崩れないように計算しながらの行動だ。
「よっ……ほっ……このっ…… およ?」
すると、バラバラ自転車のすぐ近くのコンクリート片の下から少年が見つかった。
見えている部分― 額からは血が流れ、右腕はどうみても骨折している。
「生存者だ!」
少女はいきなり嬉しそうな声で叫び、少年を無理矢理ひっぱり出した。
出てきた半身も傷だらけだったが、半分は今ついたとも思えなくもない。
こんなのケガ人に対する扱いではないうえに、第一、生存確認もまだだ。
しかし彼女は生きているのを確信しているような行動…
「いつまで寝てるのよ、早く起きなさい!」
つまり少年の頭をバシバシと遠慮なく叩き、起こそうとした。
最初は無反応だったものの、しばらくするとさすがにたまりかねて少年は目を覚ました。
「う…ん。何だよ… って痛ッ!なにこれ痛い!」
当然のごとく、強烈な痛みに襲われて少年は悲鳴を上げる。
それを意に介することなく、少女は澄んだ声で質問する。
「あんた、名前は?」
人がいることに気がつき、驚きながらも少年は答える。
「ア…アキラ、氷室…アキラだよ…」