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第6話

「何ナニなにーーーっ?今の何ぃ?」

 背後から襲った突風はすでに収まっている。


 真由は風に煽られた前髪を撫でつけ、外套に着いた木の葉を払うと、不安げに辺りを見回す。森は再び静寂を取り戻し、生き物の気配は無い。むしろ、先ほどの獣の咆哮のせいか、それとも強烈な突風のせいか、鳥どころか虫の声すら聞こえない。


「何かもう、急ごう。うん」


 先ほどの行楽気分は何処へやら、全速力で北に向かう。木の根につまづきそうになるのを踏ん張って堪えて数分走ったあたりで、何かが聞こえて真由は立ち止まった。


 まだまだ森の端は見えないが、巨木が立ち並ぶ密度が幾分かまばらになった様な気がする。


『・・・・キュルルルー』


「ん?」


 やはり何か聞こえる。動物の声だが先ほどのナニカの声とは違う、もっと小さくて高い声だ。それは何だか助けを求める様な、よく分からないが捨て置けない様な、悲哀の混じった声に聴こえた。


「あっちかな?」


 目指す方向より僅かばかり西側の繁みの向こうから聞こえる様だ。


───どうしよう。でもなー・・・・。


『ギュオーーーン、クルルゥ』


 かなりハッキリと聞こえてきた、悲しげに鳴いている。今まで聞いたことの無い動物の鳴き声だが、間違いなくこの繁みの向こうから聞こえる様だ。


 真由は腹を決めて様子を見に行く事にした。といっても抜き足差し足こそこそと繁みに近づき、チョコっと覗くだけである。


 近づくと背の低い繁みだと思ったソレが、折れた大樹の枝であると分かった。ソッと頭だけ出して覗いてみる。


───いた! ・・・ん?何だろう?


 はたしてそこには、一頭の動物が倒れていた。


「爬虫類?」


 思わず呟いてしまう。すると真由の呟きはホントに小さかったにもかかわらず、その推定爬虫類は首だけを持ち上げて、振り返って真っ直ぐに真由を見つめてきた。


───ヤバ、見つかった!・・・でも可愛いような?


 倒れこんでいるため全貌は定かでは無いが、その生き物は真っ黒の大きなワニのような鱗で覆われ、馬のように首が長く、耳がない馬とトカゲの中間のような顔型をしていた。ちょっと恐竜っぽいが、非常に大きくつぶらな瞳をしている。競馬なんかで目にするサラブレッドくらいの大きさだろうか。背中に鞍の様なものを付けている、ということは人に飼われているのか。


 ひょっとして、このファンタジーな世界の馬代わりなのだろうか。馬トカゲ、恐竜、まあチョットだけ竜っぽいと思わない事も無い。


『ギュリルルゥ(助けてほしぃのよー)』


 意味がわかってしまった。


『ルードは足が痛くて、走れないのよ。ご主人様を助けに行きたいの』


───喋っちゃったよー。この子が喋れるのか、自分の言語チートのせいなのか分からん!


 爬虫類的な生き物とはいえ、目があって懇願されたらさすがに無視できない。危険はなさそうなので、真由は近づいた。


「脚が酷いなー」


 見ると、投げ出された左の後ろ足に当たる部分が変な方向に曲がり、ざっくりと裂けて血の様な赤い体液が(したた)っていた。


『ご主人様、助けにいくのよー』


「ちょっと待ってね」


 何とも主人思いの良い子じゃないか。

 確か鞄に山ほど色んな薬が入っていたはずだ、と真由は外套をめくり鞄に手を突っ込んで目的の物をとりだした。『上級回復薬』だ。



 [上級回復薬]

  ・深い刺し傷・切り傷・骨折などの外傷を素早く治す

  ・液体を服用するか患部にふりかけることで効果がある

  ・効果:超優良

  《という体で作られた異界の薬 通常より効果があるかもしれない》



 なんだか微妙だが、効果が高いならすぐ治るかもしれない。薬術師になるはずの真由も、いつか作る薬だ。


「今薬かけてあげるから、おとなしくしてね」


 そう言って、回り込んで傷ついた脚の前にしゃがみ込むと、念の為患部に『浄化』を掛け、上回復薬の小瓶の蓋であるコルク栓を抜いて、一気に液体を患部にぶちまけた。真由は見た目よりワイルドなタイプである。


 本当に治るのか不安だ。

 だが結果は一目瞭然だった。何だが絶対飲む気にはならない腐った緑色をした液体だったが、薬をかけられた患部の傷がみるみるうちに塞がり、彼(彼女?)は直ぐに立ち上がった。


『ギュモモーーーン』と喜びの雄叫びを上げている。

『痛いのなおった、うれしいのよ、ルードはご主人様のとこに行くー』


 オスかメスかは不明だが「ルード」というのが彼の名前なのだろう。


 立ち上がるとルードはかなり背が高かった──真由が小さいのもあるが。後ろ二本脚がかなり発達しており大きな鉤爪のついた手は短い。背中に沿って長い尻尾があり二足歩行であった。


───うーんこれはあれだ、恐竜だね。映画で見たヴェロキラプトルにソックリなんですけど・・・。


 子供の時に見た元祖恐竜映画を思い出す。賢くってメッチャ凶暴だったアレだ。そのままアレを真っ黒くして目を大きく可愛くした感じだ。鞍がついているんだから騎乗用なんだろうけど、馬のようにだれでも乗れるとは思えなかった。


「君のご主人様も怪我してるの?居場所がわかるなら案内してくれる?」

『助けてくれるのー、うれしいのよ、ご主人様の居場所わかる』


 ルードがこちらの言葉もわかる様でなによりである。


───ルードにこれだけ慕われてるんだから 、きっと良い人だね、だといいよね!


 ご主人様とやらの怪我は心配だが、今の所アイテムチートだから、生きてさえいれば助けられるだろう。と色んな意味で能天気さは平常運転である。なにより、第一異世界人との初遭遇に真由はドキドキであった。



********************



 ルードが倒れていた場所から少し北に行った場所に「彼」は倒れていた。


 気のはやるルード見失うかと心配したが、すぐ近くであった。しかし・・・・


「キャアァァァ!」


 と真由が叫んでしまうほど、彼は重症だった。もうスプラッタのちょっと手前くらいである。倒れているその真っ赤な物体に、腰が抜けそうになったが、


『はやくー、ご主人様助けてー、助けてほしいのー』


 とルードが真由を急かすので、何とか『上級回復薬』と『特級回復薬』を何本か鞄から出すことができた。アワアワと真由が鞄を漁る様は、あの有名なアニメの猫型ロボットが慌てる様によく似ていたが、幸いここにそれを知る者はいない。


───落ち着けー、私。落ち着くんだぞ!・・・・うえーん、こ、これ生きてるよね。


 横向きの頬はザックリ切れてるし、変な方向いた左手の掌は粉々だし、何より右胸から左の腰にかけて袈裟掛けにザックリと深い傷がある。これがもうホントに深い傷で見えちゃいけないお肉やら臓器やらも露出しちゃって真っ赤っ赤なのだ。当たり前だがグロ耐性のない真由には凝視できない。


『はやくなのーよっ』


「分かってる!とにかく『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』!おまけに『浄化』」


 治療は清潔第一、結構冷静な真由である。そしてまずは一番酷い傷に『特級回復薬』を何本も掛けた。傷ついた面積が広いので、小さな薬壜では足りず六本が空になった。続いて顔に『上級回復薬』を一本、左手に二本掛けた。下半身には傷は見当たらない。


 衣服は初めから切り裂かれてボロボロだが、今や彼は赤黒い血糊とドブ色の薬品に(まみ)れて、酷い有様である。徐々に塞がってはいるが、傷が深いせいで回復は緩やかだ。


 もちろん直ぐに目が醒めるとは思わないが、後は祈るしかない。


 ルードは落ち着きなく彼の前をウロつき、時に顔を寄せる。

 真由は彼の前に蹲って、指を組んで祈った。


───お願い、お願い、頑張って、頑張れ、死なないで、お願い!・・・・うあぁぁぁっん!


 生前、というか日本においての人生で、真由の母は交通事故で亡くなっていた。

 病院に駆けつけた時には既に息を引きとっていたのだが、あの時病院で母に縋り付いて泣いた事がフラッシュバックしてしまう。たった三年前の事なのだ。


 この世界に投げ出されてから今まで、喜怒哀楽は感じつつも、どこかずっと夢の中みたいな現実感がない気分で過ごしてきたが、今やっと「知る人が誰もいない孤独で未知な世界」をリアルに感じ、この世界で初めて会った誰か(・・)が死んでしまうかもしれない恐怖に、表現しがたい激情が喉元にせり上がってくる。


「うわぁぁぁぁぁーん」


 真由は荒ぶる気持ちのままに、蹲って拳を地に叩きつけて、見かけ同様の小さな子供のように号泣した。

 辺りはすっかり闇に包まれつつあった。



********************



 パチパチと弾けるような小さな音に、意識が浮上する。瞼を透かす明るいオレンジ色の光、頬には柔らかい熱を感じた。


 徐々に覚醒する。真由はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。


 ゆっくりと目を開けると、何故か瞼が腫れた様に重かった。大きな樹の枝が視界の上部に被さり、柔らかな灯りを受けて揺らめいている。少しだけ覗く深い闇に小さく散りばめられた光は、夜空の星?


───あれ?ココ何処だっけ?


 寝起きのボンヤリとした頭で、自分が野外で寝ているのは何故なのか記憶を辿る。


───土砂降りの中仕事に行って・・・ん?いや違う、謎世界の森に来たんだ、子供になってて、魔法とか調べて、それで・・・。


 森を歩いた記憶を辿る。恐ろしい獣の咆哮と突風、恐竜みたいなルードと会って、ご主人様とかいう彼の怪我、酷い、傷が、


「そうだっ!」


 ガバリと飛び起きた。


「目が覚めたか」

「うぇっ?」


 突然聞こえた低い声にビクリと顔を向けると、カラムの大樹に体を預け、大柄の男性が座っていた。彼の目の前には火が焚かれ、今もまたパチパチと燃える枝が音を立てた。


 彼がかけてくれたのか薄手の毛布が、パサリと真由の膝下に滑り落ちた。


「・・・・・」


 彼の鈍い鉛色の短い髪が、焚き火の明かりに照らされている。真由をまっすぐに見つめる瞳は黒い。上司管理者がこの世界は西洋風の風貌の者が多いと言っていた気がしたが、確かにこの男性は骨格が大きく、座っていてさえも背の高さが伺える。鼻筋も羨むほど高くスッと通っている。


 だが、真由の予想に反してさほど濃い顔ではなく、切れ長の瞳のせいか薄めの唇のせいか、スッキリとした顔立ちであった。刷毛で払ったような綺麗なラインの眉は髪と同じ鉛色だ。


 一番目を引くのは右目を大きく覆っている黒革の眼帯だ。真由が着けたなら厨二病を心配されるようなそれも、端正ながらやや強面といった表現が似合いそうな彼に、やけに似合っている。無表情でこちらを見る様子は落ち着いて見える。


───同じ歳くらいかなー、ちょっと下かも?


 魂年齢二十九歳の真由は思った。


 しかし、これがあの血まみれで倒れていた人物なのだろうか、としげしげと見つめてしまう。顔の向きのせいか眼帯には気が付かなかった。


 まああの時は良く観察する余裕は無かったのだが。見る限り頬は滑らかで傷一つない。いや、頬どころか裸の上半身──華美ではない如何(いか)にも実用重視といった感じの、アスリートのような筋肉質なそれにも、傷跡はおろか血糊や汚れも見たらない。

 回復薬とは傷跡すらも残さず治してしまう物なのだろうか。


───だったらスゴすぎ。


「おい」


 多分かなり長いこと凝視してしまったのだろう、声をかけられて我に返った。


「ああ、すみません。あの、えっと・・・」


 何から聞けば良いのか悩む。あなた誰?なのか、死にかけてた人?と確認すべきか。それとも挨拶するべきか。


───ん?言葉はそのままで大丈夫だよね?


 その時、彼の後ろの木立からルードが顔を出して「グルゥゥ(おきた)」と嘶いた。


───ああ、ルードがいるって事はやっぱり怪我の人か。


「あの、怪我はもう大丈夫なんでしょうか?」


 日本語で喋ってみたけど、通じるのかこれ?と思いながらも、取り敢えず一番気になることを聞いてみた。


 真由の言葉が予想と違ったのか、意味がわからないのか、彼の左眉が訝しげにグイッと上がる。その仕草は確かに外国人っぽいなと、真由はしょうもない事を思った。


「オレはゲイツという、ハンターだ。・・ハンターは分かるか?」


 彼──ゲイツは思案しながらゆっくりと喋った。やはり日本語に聞こえる、言語補正なのだろうか?疑問に思いつつも、彼の口調で、真由はやっと自分の姿が十歳位の子供であり、先の言葉遣いはあまり子供らしくなかったかもしれないと思い至った。


「私はマユ。ハンターは、うん何となく分かる」


 無礼な態度は真由の本意では無いがあまり丁寧でもおかしいだろう、と少し砕けた口調で話すことに決めたが、不自然になってしまった。まあ無事通じるならいいだろう。


 やはりハンターといえば全国的に有名な、あの狩りゲームにあるようなアレだろうか。


「依頼でウィリスの森近くまで行ったんだが、オロ山で緑竜に遭遇して吹き飛ばされたんだ。その時竜の爪で抉られた。さすがに死ぬかと思っていたが気が付いたらあの場所で、身体には傷一つ無かった」


 ウィリスの森とはカラム大森林の中央付近の『一部分』の名称である。真由がこの世界にいた時の始まりの場所よりやや南西部に行った所だ。なぜ同じ森の中でその一部だけ名前が違うのかといえば、そこは『緑の女神ウィリスの聖域』と言われ、常には霧が立ち込め『女神の加護』を持つ者しか入ることが出来ない、と言われている場所だからである。


 オロ山とはカラム大森林の中にある唯一小高い場所で、ウィリスの森のすぐ西側にある。が、もちろん真由はこの時そこまで詳細には理解していなかった。ただ地図でウィリスの森のという表記は確認していたので、何となく場所は理解できた。


───え?そんなに遠くから吹き飛ばされたの?確かに死にそうだったけど。てか、今緑竜って言ったの?竜?ドラゴン?


 ファンタジーの代名詞、ドラゴンである。テンション上がると思いつつ、爪で抉られた上に吹き飛ばされるってドラゴン怖いじゃん、人間と仲良く無いのか、とガックリきた。


「気が付いたら、あんた・・君が」

「マユです」


 クボヅカは名乗りにくいので、この世界ではマユでいこうと最初から決めていた。彼も名前しか言わなかったし、こういうファンタジー世界では貴族しか姓が無いのが定番だ。


「ああ、気が付いたら横に・・マユが倒れていた。眠っていたから連れて来たんだが」


 ゲイツはどうも子供と接したことがあまり無いのかもしれないな、と真由は思った。どうにも話しにくそうだし、マユと呼ぶのをためらう感じだ。まあ日本だったら真由だって、初対面の異性相手にいきなり名前呼びを強要したりしないが。


 それより彼の言った「連れて来た」という言葉で初めて、此処がゲイツの倒れていた場所から離れた場所だと気が付いた。確かに森の中ではあるが樹木がかなりまばらで、直ぐにでも街道に出られそうだ。


「ここは街道の近く?」

「そうだ。魔獣も大型の獣も少ない森とは言っても、流石にあれだけ血が流れた場所は危険だから森の外れまで移動した。あんた・・マユも起きなかったから勝手に運ばせてもらったが」


 カラム大森林は危険が少ない森だという情報は正しかった様だ、でも凶暴な竜がいるらしいけどね。


「あの、わざわざ運んでくれて、ありがとう」


───運ばれても起きないなんてどんだけ熟睡だったんだ私は、恥かしいー。ん?でも運ばれたってことはアレか、お姫様抱っこだったり?うひょーっ人生初の姫抱っこ!あう、何で寝てたかなー私。


 ニヤニヤするのを堪えて、真由はお礼を言った。まあそもそも起きてれば運ばれて無いし、実際は俵担ぎという実に残念なスタイルだったのだが、知らぬが花である。


「それで、状況を説明できるか?」


 今度は真由が話すターンである。こちらに来てから森を歩きつつ考えた設定を思い出しながら、怪しまれない様に慎重に説明することにした。


「私は、すっごく辺境の森の中で薬術師の師匠と二人で住んでたの。でも師匠は高齢で死んじゃったから、一人になっちゃって、それで街に出て薬術師になろうと旅をしてたの。この辺りでついでに薬草を取っていこうと思って森に入ったら、その子の声がして」


 とルードの方を見て続ける。


「足を怪我して動けないみたいだったんで、回復薬を掛けて治したんです。そしたら、元気になったこの子がグイグイ引っ張るんでついて行ったら、ゲイツさんが血だらけで倒れてたの」


 我ながら完璧な設定だ。と真由は満足げに思った。


 まさか異世界から来ましたなんて言えないから、不自然じゃない設定を考えたのだ。まあ、色々考えた結果『身寄りのない子供が偏屈で引きこもりな老人に引き取られて育てられた』という実に在り来たりな設定に落ち着いたのだが。要するに、多少常識知らずの世間知らずでも、全部『森の中で育ったから』で片付けようとしている訳である。


「それは何時(いつ)ぐらいだ?」

「詳しくわからないけど、陽が落ちるちょっと前?まだ少し明るかった・・・あ、その前に凄い大きな生き物の叫び声、て言うか鳴き声がして、すっごく強い風が吹いたんだ、たしか」

「それが緑竜の咆哮だな。オレが吹き飛ばされた時にブレスを浴びそうになった」


───ドラゴンブレスって超怖いんですが。


「ブレスの直撃は免れたんだが、その時爪に引っ掛けられて、騎獣ごと吹き飛ばされた。俺の記憶が確かなら、左手が砕けて胸から腰にかけてかなり深く(えぐ)られていたはずだ」


───うぇぇ、あの傷でそんな詳細に覚えてるってどーよ。


 思い出しただけでもしばらく食欲が湧かなくなるほどの有様だったと、真由は顔をしかめた。


「うん、酷い傷だった、あと顔もざっくり切れてて。初めは死んでるかと思ったけど、この子が急かしてくるからまだ間に合うのかもって、回復薬かけたんです」

「回復薬・・・だがそれで足りるほどの傷じゃ無かっただろう?」


 眼帯が無い方の頬を撫でながら、ゲイツは自分の体を見下ろした。

 気が付いた時には血と溝水(どぶみず)でもかぶった様な、酷い有様だったが、騎獣に括り付けた荷物が無事だったため、水を浴びて浄化したら傷一つ無い事に気が付いたのだ。


「もちろん一本じゃ全然足りなくて、結局特級回復薬六本と上級回復薬を三本使ったかな、確か」

「特級を六本・・・・?」


 そう言ってゲイツは絶句した。それもそのはず『特級回復薬』はあまり、いや殆ど出回っていないのだ。王都にでも行かなければ手に入らない。何故ならバカみたいに高額だから、王宮や貴族の一部が万が一の時の為に置いておくレベルのものなのだ。


 しかも長らく戦争も無い平和な時代が続いている為需要はないし、街中ならば怪我をしても治療院で事足りる。危険な魔獣を相手にするハンターが出入りするギルドでさえ、上級回復薬を少し備蓄している程度である。


 一方そんな事は知らない真由は、あれ?これやっちゃったかな?と嫌な予感に内心焦っていた。結構なアイテムチートであることは自覚しているが、薬術師が特別な職業ではないという情報から、回復薬は一般的な薬だと思っていたのだ。


 『光の神薬』という更に上の回復薬も鞄にあったので特級くらいまでなら大丈夫だと思ったし、死ぬかもと慌てていたのもあるし、なにより回復薬の(たぐい)は鞄に山ほど──というか『数量∞』あったのだ。


 ちなみに『数量∞(これ)』を見た時、あれ?私薬作らなくても鞄から出すだけで商売出来るんじゃね?と思ったのは内緒である。

素敵な筋肉は好きですか?

真・作『大好きです』

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