第52話 vs『煉獄』①
今回はテツヤ視点はお休みです。
この戦闘の間はレウス視点になると思います。
というか、何だかレウスが主人公みたいで作者は複雑な気持ちです。
連載一周年記念として人気キャラ投票をおこなっているので、ぜひ活動報告の方をご覧になって投票をお願いいたします。
ほとんど投票がなくて作者は涙目です。
それでは52話、どうぞ。
時はテツヤと『首狩り兎』が戦闘を始めた頃にさかのぼる。
レウス率いる金貨騎士団は帝国軍の先頭部隊と交戦に入るところだった。
「金貨騎士団総員、魚鱗の陣を組め!」
レウスの指示によって騎士団の人間が三角形の形に陣を組み、頂点を帝国軍へ向けて突撃した。
『おおおおおおおおおおおおおおっ!!!』
「行くぞ皆んな!」
レウスの隣では同じ様に走竜に騎乗した勇者コウキが剣を抜き、駆けていた。
それに続くようにレウスも帝国軍に突っ込む。地竜剣アードを抜き放ち、帝国兵を叩き切って進んだ。
騎士団は帝国軍を食い破り、乱戦に持ち込む。戦況はこちらに有利に傾いたかと思われた。
「【炎壁】」
突如、帝国軍と騎士団の間を阻むようにして炎の壁が現れて進路を塞がれた。そして、俺たちの前に現れたのは杖を持ち、紅のローブに身を包んだ若い男。
放たれる圧倒的な魔力量、死を覚悟する威圧、強者の風格。
まさしく『煉獄』その人だった。
「俺の前で好きにさせるとでも思ったか?【火雨】」
『煉獄』が杖を一振りすると俺たちの頭上から超高温の火の雨が降り注ぐ。
「盾を掲げて総員散開!火雨を避けつつ壁を迂回して帝国軍に攻撃を再開しろ」
即座にレウスの指示が飛び、騎士団の猛者たちはそれに従って迅速に行動をする。だが、それを見逃す『煉獄』ではなかった。
「ふん、俺が見逃すと…っ⁉︎」
「テメェの相手はこの俺だっ!!」
魔法を展開しようとした『煉獄』にレウスが地竜剣アードを抜き放ち、攻撃をする。魔法を中断された『煉獄』は後ろへと即座に下がる。
「くっ…我が身を守る火炎の守護者よあれ、【炎人】!」
杖を振ると炎で出来た身長3mほどの人形が五体現れる。人形たちは拳を握りしめ、レウスへ向かって振り下ろした。
「無駄だぁっ!唸れ、地竜剣アード!」
一体目の人形の腕を斬り飛ばし、二体目の人形の胴を叩き切る。三体目の人形の拳を避け、四体目の人形の足を斬りつける。最後の五体目の人形の拳を地竜剣アードで受け止める。
ガンッ!!!!
拳を受け止めたレウスの足元の地面が衝撃で割れる。だが、レウスはにやりと笑うと地竜剣アードを振り払った。
瞬間、地竜剣アードが鈍く輝き地面が隆起し人形たちを飲み込む。竜の形をとった土はそのまま『煉獄』へと襲いかかった。
だが、『煉獄』は【炎人】が稼いだ時間で次の魔法の準備を完了させていた。
「魔を滅し焼き尽くす聖なる業火よ、我が手に集いて敵を穿つ槍となれ【聖炎貫穿】!」
『煉獄』の手に白い炎が集まり、槍を形作る。『煉獄』はそれを振りかぶり、切っ先をレウスに向けて投擲した。
その白い炎の槍は竜の形を作った土を貫き、吹き飛ばしてなお威力と速度は減速しない。そのままレウスへと向かい突き進んだ。
「守れ、地竜剣アード!」
地面が隆起し岩が集まって壁を作る。その壁に槍が突き刺さり、一瞬の抵抗のあと、貫通する。
貫通した槍はそのままレウスに向かって突き進む。咄嗟にレウスは地竜剣アードを振り下ろし、その剣で槍を叩き切ろうとする。
魔力を帯びた地竜剣アードが鈍い光を放つ。白い光を放つ槍と鈍い茶色の光を放つ剣が激突、そして爆発した。
カッ!!!ドォォォォォォオンッッ!!!!!
「ぬおおおおっ⁉︎」
爆発の衝撃でレウスは吹き飛ばされる。そして、追撃のように爆発した地点から白い炎が地面を焼きながら接近する。
「っ⁉︎はぁっ!」
地竜剣アードによって巨岩を生み出し、迫り来る炎にぶつける。幸いにもそこで炎の勢いは止まった。
レウスは未だに吹き飛ばされた衝撃で空中にいる身体を制御して体勢を整えようとする。だが、その背後に何者かが急にあわられた。
「…………っ!」
「くっ!」
背後に現れた全身鎧を着込み、身の丈を越す大鎌を持った襲撃者はレウスに向かって無言で鎌を振り下ろす。レウスはそれを地竜剣アードによって迎撃した。
「誰だ、お前?」
「…………」
問いかけに帰ってきたのは無言と無慈悲な攻撃。大鎌による一撃は体格の良いレウスと拮抗する程の威力があった。
だが、襲撃者と刃を合わせたレウスのところへ無数の炎の槍が降り注ぐ。
「この俺を無視するとはいい度胸だな」
追ってきた『煉獄』が杖の先をレウスに向けて言う。『煉獄』はレウス、襲撃者の区別なく炎の槍を撃ち込み続ける。
「ちっ!」
襲いくる炎の槍と襲撃者の刃を同時に相手しているレウスの身体はあちこちに傷が増えていく。善戦しているが、このままでは敗北は遅くないだろう。
「……………っ!、【……】!」
襲撃者が一旦下がったと思ったら鎌をレウスと『煉獄』へ向けて振る。すると、魔法で作られた無数の風の刃が2人を襲う。
「はぁっ!」
「ちっ、【火矢】」
その風の刃をレウスは斬りはらい、『煉獄』は煩わしそうに火の矢を大量に生み出して迎撃する。
「くたばれっ!」
「寄るな屑が」
風の刃を斬り払ったレウスは『煉獄』へと勢いのまま斬りかかり、『煉獄』は炎の槍を撃つことで迎撃する。
2人の戦闘がまた始まるかと思われたが、今度は2人に襲撃者が大鎌を振りかぶり攻撃する。
「危ねえっ⁉︎」
「鬱陶しいな!」
「…………っ!」
緊張感が高まり、三つ巴の戦いかと思われたが、そうはならなかった。
「聖なる者が使いし不滅の刃よ、我が手に顕れよ!聖剣召喚、デュランダル!」
高らかに声が響き、空が一瞬だけ光輝く。そして目の前にいた襲撃者は謎の光に吹き飛ばされた。
「お前の相手はこの僕だ!レウスさん、こいつは僕に任せてください!」
レウスの前には光輝く鎧を身につけ、デュランダルを手に持った勇者コウキが立っていた。
勇者は任せて、と言うと吹き飛ばされた襲撃者へと駆けていく。直ぐに剣戟の音が聞こえたが、その音も離れていった。
そして、その場にはレウスと『煉獄』が睨み合うかたちで残される。
「さて…」
「それじゃあ…」
2人は呟き、自然と声が揃う。
「「死ね」」
紅い光と茶色の光が激突した。




