第43話 襲撃④
「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
右手の怠惰を上段に、左手の強欲を逆手に構えて俺は魔法を迎え撃った。
先頭の溶岩濁流という魔法に堕落を発動したまま怠惰で斬りつける。大量の溶岩は怠惰に触れたところから侵食するように魔力を散らしていき、消滅していく。
「ふっ!」
怠惰を振り切り体勢が崩れるが逆にその勢いを利用して半回転して、次に迫る風刃旋風に強奪を発動させた強欲を横に滑らせて受ける。
先頭の風の刃は強欲に触れた瞬間に推進力を奪われてただの風になる。次々に迫る風の刃を強欲と怠惰でいなし、さばき、ときには受けていく。
「ぐっ…」
溶岩濁流は完全に消失させたが、風の刃は数が多すぎて所々被弾してしまった。脇腹、太腿、二の腕などに浅い切り傷ができて血が流れる。風の刃の攻撃を全て防ぎきったときだった。
パキッ……
地面が広範囲にわたって凍りつき、急激に気温が下がる。パキパキと氷が薄く剥がれて風に煽られて飛交い始める。
猛吹雪、そして地面から伸びる氷の槍に吹雪に紛れて飛んでくる氷の刃。あまりにも数が多く、これは受けきれない。
「おいおい、ご主人?オレを忘れてもらったら困るぜえ?」
未だ抜かれずに唯一腰に残った暴食が喋る。どちらにしろ、こいつの力がどれくらい通用するか分からないが今はそれに賭けるしかない。
「いくぜぇ、ご主人!」
「ちっ、役に立てよ!」
右手に持った怠惰を上に投げ捨て、それをグレイプニルでキャッチしつつ腰から暴食を抜く。漆黒の刀身は氷の世界で鈍く輝いた。
「いくぞ、吸収!」
抜き放って前を斬り裂いた暴食は前方の吹雪の3割を瞬時に消滅させた。そしてその消滅させた分の魔力が俺の中に流れ込む。
返す刀でもう一度斬りこむ、もう一度、もう一度、もう一度!
「ああああああああああああっ!!!」
サクッ
吹雪と飛び交う氷の刃を全て消し、最後に地面に突き立てた暴食は物凄い勢いで地上の氷と魔力を喰い尽くす。そしてその分だけ俺の魔力も回復する。
だが、その代償は軽くなく、デュオルの加護によって普段なら無視出来るほどに軽減されている精神侵食が一気に進んだ。自分という存在を内側から喰らわれている様な感覚で俺は倒れそうになる。
「ぐっ…はあ、はあ」
「おや?まだ生きていましたか」
俺の前に黒い龍とケルベロスを連れたグラナダが空中から降りてきた。グラナダは俺を憎しみを持った目で睨んでいる。
「1つ聞きたい」
怠惰を腰に戻し、強欲と暴食をそれぞれ右手と左手に構えてグラナダと対峙しながら問いを放つ。
「なんでしょう?」
「なぜ、お前はそんなに俺を憎む?ローズに関係あるのか?」
「ローズに関係あるのか、だと?あるに決まっているだろうが!」
グラナダは激情しているが、まだ俺を直ぐに殺す気はないのか俺の問いに答えてくれた。
「ローズは、彼女は私の婚約者だった。共に日々を過ごし、共に研究をし、共にお互いを高めあった。大切な大切な女性だった!それを!」
「俺が殺した……と」
「そうだ。だが、それだけじゃない!彼女は研究の材料だったとある妖刀に乗っ取られた。お前が使っているその刀だ!」
「強欲か。つまり、お前は俺と妖刀が許せないということか」
「ああ、そうだ。そうだとも。だから僕は許さない、彼女だって乗っ取られていたければ君なんかに負けなかった。僕がしっかりしていれば死なせなかった。魔王様に相談すればよかった。人間を滅ぼしておけばよかった。でも、やっぱり殺した君とその刀が一番悪い」
「…そうか」
「そうだ。だから!死ね!森羅万象!!」
俺に向けて今までで一番魔力が込められていて最も威力が高いであろう魔法が至近距離から迫る。だが、それは今の俺にはユックリとした動きに見えていた。
「吸収」
「なっ…⁉︎」
暴食に吸い込まれるようにして消えた魔法にグラナダが驚愕を浮かべる。まさかこのレベルまで無効化されるとは思わなかったのだろう。だが、俺にも妖刀を使った代償として精神侵食が激化していた。
_____________『………僕は、何も、したく、ないなぁ』
_____________『満たされない、私は全てが欲しい』
_____________『喰い足りない、もっともっと俺は喰らわないと』
妖刀たち、あいつらがまだ悪魔だった時の記憶が俺の中に流れ込む。そしてそれが自分のものになり、俺の中からナニカが消えていく。
「……これで終わりだ。第四之太刀 魂喰」
「ギャオオオッ!」
「「「グルアアッ!」」」
黒い龍とケルベロスが間に入って来るが勢いは止まらない。どこまでの暗い漆黒に染まった暴食は斬り裂きながら斬ったものを喰らっていく。
「僕は、まだっ!」
「悪いな」
避けられたせいで胴体を捉えられずにグラナダの左腕を斬り落とした。だが、既に次の攻撃の準備は終わっている。
「第九之太刀 その壱 奪喰」
強欲と暴食、漆黒と蒼、2色を纏った二刀を捻りを加えながらグラナダの心臓を貫き、その魂までも奪わんと切っ先が疾る。
「………私は私の仲間にトドメを刺すことを許可して『いない』」
ピタッ……と
俺の動きが停止した。身体が硬直して動かせるのは首から上だけになってしまった。
俺は動かせられる首をまわして横を見ると、そこには先ほどまで誰一人として居なかった場所に藍色の髪をした少女が立っていた。
「………グラナダ、魔王様がお呼び。帰るよ」
「邪魔をするのか『宣告』!僕はまだこいつを殺していない!」
「………グラナダは左腕ない。早く帰るよ、帰ったら治療する。治ったらまた来ればいい」
「だが!僕は…⁉︎」
「………グラナダ。私はあなたに魔王様の命に逆らうことを許可して『いない』」
少女がそう言うと今にも俺を殺しそうだったグラナダがピタッと止まり、大人しく少女に従った。
「………先に行って」
少女はグラナダを先にどこかに飛ばした後、俺の方を向いた。少女の手が伸びてくるが、俺は未だに硬直したままで指一本動かすことができない。
少女は病的なほど白い手で俺の頬を撫でながらクスリと笑うと言った。
「………あなたは面白そうだからまだ殺さないであげる。頑張って私を殺せるくらい強くなってね」
俺の頬から手を離して少女はまたクスリと笑うと指先から魔力を出して文字を書きながらまた言った。
「………私の今の名前はフラウ。魔王軍魔将の1人、『宣告』のフラウ。また、会いましょう」
そう言い切って少女はその場から消え去った。少女が消えた瞬間に俺の身体は動くようになった。
脅威がいなくなった事に安堵しながら俺は影の家から全てを引き出した。
そうしながら俺は少女が最後に魔力で書いた文のことを考えていた。
ただ、魔力、肉体、精神の全てを酷使して意識を失う寸前の俺にはその文を反芻することしかできなかったのだが。
『I am a |incarnated person《転生者だ》』
そう書かれた文は、俺には何をもたらすのだろうか?




