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新具堂綺憚  作者: 雨木あめ
第一幕 ミオモイシ
7/16

新具堂 01


   2(16:25 June 6)



 「──身重石」


 古ぼけた店内。時代遅れの間接照明が薄ぼんやりと灯る中、とある女性が口を開く。

 美人であった。本来男物のはずの着流しを、文字通り着流した姿にぴたりとはまる、整った顔立ちに、肩まである髪を頭の後ろで束ねている。それはどこか知的さと、薄氷のような凛とした雰囲気を身に纏っていた。カウンターの内側で肘をつき、煙管を咥え、ぷかぷかと煙を流しながらもその妖艶さは失われず、それどころかさらにその空気を濃くしているように思える。

 「どうしました、突然」

 答えたのは、高校生ほどの年齢の少年だった。カウンターのすぐ傍、棚に商品を並べていた手を止め、振り返る。

 穏やかな言葉づかいとは裏腹に、どこか険のある声である。出で立ちは至って普通で、おそらく学校の制服であろう深い紺のパンツに、青みがかったワイシャツ、その上に、裾あたりに『shingu-dou』とロゴの入った黒のエプロンを掛けている。

 利発さを感じさせる面立ちの上に、長めに整えられた髪は、年頃の高校生らしく少し無作法に纏められていた。少々釣り目がちの双眸は、女性に視線を向けている。

 この二人、雇い主と雇われ人の関係である。どちらが雇い主かは、言うまでもないだろう。

 「そいつがどうやらこの近くにあるらしくてね」

 「質問の答えになってませんよ。澪さん」

 「答えを知りたくない質問をするのはどうかと思うがね、集」

 少年の名は、集といった。対して、女性、この店の主の名は澪。雇われ人の方は、今この場にはいないが、もう一人存在する。鼻歌交じりに掃き掃除をしながら、道行く人たちに笑顔を振りまいていることだろう。

 店主は気だるげに煙を吐き、ついでというように言葉を続けた。

 「──防人の会、という団体を知っているかね」

 「知りません」

 「そう、最近この辺りで頭角を現してきた新興宗教の類だ。教主の名は御崎沢詠二。どうやらそこに、私の探し求める一品があるらしい。なにせ有名どころだ──身重石、いくら君でも名前を聞いたこと位はあるだろうさ」

 「知りません」

 「だから説明してあげているんだろう」

 「知りたくありません!」

 この店主が持ち込むオカルトの話題は、いつだってきな臭くて、加えて何時だって巻き込まれるのは自分なのだ、と集は耳を塞ぐ。

 こと、『奇跡』という単語が出てきた時は要注意だ。

 胡散臭いから、ではない。きな臭くはあるが、それが直接的な要因でもない。

 店主の口から出る『奇跡』という単語によって、少年の中の注意喚起レベルが一気にレッドゾーンまで跳ね上がる理由は、至極単純。


 ──『奇跡』と呼ばれる神秘が確かに実在しているから。



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