白い部屋にて 02
この小山という男、風体からして少なく見積もっても階級は幹部クラスだ。ここで『妊娠』がキーワードとして機能しないということは、なるほど、この組織の根は案外深いところまで潜らないと見えてこないのかもしれない。
「失礼なことをお聞きするようですが。それでは、皆様は何故、この守人の会に所属しているのでしょう?」
「なぜ、とは?」
「いえですね。先程の小山さんのお話を聞く限り、御崎沢先生は、ここにいる方々に何もお与えにならない、というふうに聞こえたもので」
否定されるのが前提の質問だった。新興とはいえ、いや、新興だからこそ宗教の長が何も与えない訳がない、何の利益も無い状態で、人々は付き従ったりしない。そんな考えの下繰り出された誘導だった。しかし、
「その通りです」
小山の口から滑り出たのは、肯定の言葉だった。少年の表情がほんの少しだけ曇る。
「先生は何も与えてくださることもなく、しかし何も奪わない。あれだけ圧倒的なお力を持たれているにも関わらず、それを悪事に使用しようなどとは思わないのです。それが人類にとってどれほどの救いか」
「……しかし、それでは、皆さんが先生に従う実質的な利益がないのでは」
渋々、といった風だった。少年は質問の真意を、明確にして再度問う。
「いいえ、ありますよ。利益は確かにあるのです」
「……それは?」
「──平穏と平和、です。人類の上位種であるとも言える先生は、既存の概念に捕らわれない。悪意や欲望にまみれた物質文明を終わらせられる唯一のお方なのです。そしていずれ、争いのない新たな文明の長となる」
「……なるほど」
そういうことか、と集は再び腹の中で頷く。
いわば未来への保険事業とも言える何かで、人間を集めている訳だ。
「ここに集まっている皆は、先生のお力を実際に目にし、先生の導きの元で平和に暮らせる世界を求めている者ばかりです。当然、私も含めて」
「そうですか……。なるほど」
「ご納得いただけたでしょうか?」
「ええ」少年は、大きく首肯し「ああ、そうだ、最後に一つだけいいですか?」