こたえ
解答を導いた月見里の回答法を聞くや否や、問題の稚拙さに出くわす一尺八寸だが…
俺は数秒、数分、の間時間が止まっていたような気がした。しかし時は着々と進んでいるようであり。部室では外で降っている雨が屋根に当たる音が鳴り響いている。
「どう?正解はこれよ。」
月見里さんはドヤ顔をこちらに向けてくる。
「どういうことだ?」
「だから答えはあっていたでしょ?」
「なんで、あんなのが答えになる。」
「あなたまだわからないの?もう少し、物分かりがいい人だと思っていたけど。」
「あんなのわかるはずもない。」
「じゃあ説明してあげるわ、そうしないと、あなたじゃいくらかかってもわかりそうにないもの。」
月見里さんは手紙と、さっきメモした内容を見せる。
「まず、何故パスワードがaになるということ、これはさっきの『以上』というダイイング・メッセージから読み取る。『以上の事より我が文藝部は活動をしてまいりました。』という文が手紙には書いてある。そして『我が伝統ある文藝部の活動は以上の事より成り立って決ました。よって以上の事を能力として実現可能でないのであれば、この部にいてはいけません。』とも表記してある。なら『以上の事』とは何なのか、これが今回重要だったの。『以上の事』とは何のことだと思う?」
「この文からすると、活動内容だろ?」
「じゃあ、活動内容1はなんだと思う?」
「それはわからないといっただろ。」
「はぁー。」
「何溜息ついてんだよ。」
「文藝部の『文藝』ってなんだと思う?」
「それは、書に触れたりすることだろ。」
「違う、行動とかじゃなくて、文字そのものの意味よ、さっきの『他人』の意味のように。」
「んー、じゃあ、言語によって表現される芸術とか?」
「そうよ。この手紙はまさにこのことを言いたいの。」
「どういうことだ?」
「まだわからないの?文藝部の活動内容よ。これが1だけ空白なのは、この空白を知らなければならないからなのよ。わかるここに『我が伝統ある文藝部の活動は以上の事より成り立って決ました。よって以上の事を能力として実現可能でないのであれば、この部にいてはいけません。』とはっきり書いてあるじゃない。だから、いまあなたが言った、言語によって芸術を表現するのが活動内容の1、文藝そのものを理解していなければいけないの。」
俺は何か急にハッとする物に襲われた。
「だから、『他人』の意味を理解していないとき、この人は文藝部員ではなかったといっていたのか。」
「そうよ。そして、次に、『以上の事』が何なのかはわかった。ということはこれをこなせれば、文藝部員として認められるということになる。」
「ということは、パスワードを解くことによってこの条件が満たされると?」
「100点ね。あなたにしては珍しい。」
「月見里さんは俺を低く買い過ぎだ。」
「そして、これで、ヒント1とヒント3は解決したわ。」
「おい、ヒント3についてまだ触れてないぞ。それにヒント2は『以上』の事だったろ、それは今解決した。」
「いいえまだ解決していないわ、ヒント3については、文藝部の重要性についてよね、それは今活動内容捕捉により解決したじゃない。」
「そういうことだったのか。」
「じゃあ、ヒント4はパスワード入力時の問題だから、ヒント2を読み解く。ヒント2はまだ、『以上』という言葉自体に、意味があるの。」
「以上、数量が多い事、今までに述べてきた事、これで終わりを表す、基準の数量の上。という意味があるな」
「違うそういう意味じゃない。このメッセージはくだらないといったでしょう。」
「くだらない?」
「以上をひらがなにしてみてよ。」
「いじょう?」
「そうよ、そして音節を区切ると、『い、上』。」
「まさか、」
「そのまさかよ。これは『い、上』つまり『い』より上ということになるのよ。」
「根拠は?」
「ないわ。」
「はっきりというな。」
「でもあっていたのよ、それにまだ証明は終わってないわ。」
「続けてくれ。」
「『い』より上ということはローマ字でいうことの『I』の上ということにして考えてみる。そうすると『A』のが妥当じゃない?」
「月見里さんにしては根拠が薄くないか?それに荒唐無稽だ。」
「しかし、論理的に否定できる?」
「しようと思えばいくらだってできる。例えば、『い』の上っていたって、何も文字の並び順だけじゃない。キーボードで説明すると、ただ単純に『い』だって、キーボードでは二つある、ひらがなの『い』とアルファベットの『I』だ。キーボードの並び順の上だって可能性がある。」
「あなたそれ本気で言っているの?キーボードでも『い』と『I』の上は数字になっているのよ。それじゃあパスワードじゃなく相性番号になるじゃない。」
「それを気にするのか。」
「きにするわ。これは文章問題なのよ。文章から読み取らないと駄目じゃない。」
「じゃあ、ほかに『い』と言っても体の『胃』かもしれないじゃないか、胃の上だから、食道とか?」
「あなたがどうしてもわからないようなら、ヒント4に入りましょ、何故パスコード入力が2回までなのか、例えばさっきのように『食道』が答えだとしたら、あなたはどのように答えるかしら?」
「ローマ字で答えれば良いんじゃないか?」
「英語って可能性もあるでしょ。」
「だから入力が2回までじゃないのか?」
「そんな理由じゃないわ、あくまで、この問題は、一回目で成功するようにできている問題なの。」
「なに?」
「あなたは学年1位なら知っているのかもしれないけれど。『食道』という単語には二つあるのよ。『gullet』と『esophagus』の二つね。それでローマ字か英語かなんて選択問題あるかしら?」
「確かに。」
「もう、時間が浪費されていくだけだから、もう私が説明してあげましょう。なぜ入力が2回までだったのか、それは、アルファベット1文字が答えだと裏付けるものだったの。例えば、さっきの『食道』のように選択しかいくつもあり、文字が長い問題に、失敗が許されないように2回しか回答を許されないなんて理不尽だわ。だからまず、解答は短いものだとわかる。しかし短いものだと逆に入力回数が2回なんてのは甘すぎると思うの。よって私は入力回数の2回は意味があってつけられたものだと分かった。」
「ちょっと待ってよ、それじゃあ選択肢が1つしかなくて文字が長い解答だってあり得るはずじゃないか?」
「私が言っている入力回数2回が理不尽というのは、そういうことを言っているんじゃない。少しパスワードそのものについて考えてくれない?」
月見里さんは呆れた物言いでそういう。
「パスワード入力の時に、文字サイズの規定があるはずよ。文字サイズというのは、小文字か大文字だということ。文字の最初には大文字を使うべきか、すべてを小文字にするか、あるいは全部を大文字にするか、これだけでも3択答えが出てしまう。そういうことを考えたときに、答えは、ただ一文字の文字を大文字にするか、小文字にするかの2択になるのよ。」
「でもさっき月見里さんあくまで、この問題は、一回目で成功するようにできている問題だとか何とか言ってたじゃないか。もし答えが『a』だとしても大文字と小文字の答えが二択になってしまう。」
「そうね、それは単なる思い付きだけどちょっとここを見てくれるかしら。」
月見里さんが手紙の一部分に指をさす。
そうしたら、idとパスワードを入力する画面に映りますよね。
「これがどうした。」
「どう見てもおかしいじゃない。あなた気が付かなかったの?普通IDって大文字で書かない?もとは省略文字なんだし。」
「だから小文字だと思ったのか?」
「ええ、でも結局『大文字でも』正解になっていたしね。」
「でも、この問題の根本に戻るけど、この問題は、少し幼稚じゃないか?」
「幼稚って、どこが?」
「幼稚とまではいかないけれど、根拠が薄いというか答え事態が支離滅裂なところとか。」
「頭ごなしに否定するのね、あなたは。行ってごらんなさい、このどこが問題としての幼稚だったのか。」
月見里さんは真剣な顔をしていた。
「さっき導いた活動内容を思い出すのよ。文藝は、言語によって表現される芸術。じゃあ芸術ってものについて考えてみてよ。芸術の感性は人それぞれよ。そして芸術というものは決して優れているものだけが芸術というものではないの。芸術という意味は、能力を駆使して生み出した感傷的価値を創出する人間の活動及びその所産。この問題が、この文藝部の芸術とか考えれば素敵なものじゃない。それに、このあなたが言う稚拙な問題を超えるような芸術を生み出すように作られたものかもしれない。」
「けど月見里さんは、この問題が、幼稚だと思わなかったのか?」
「思ったわ、けれど、あなたに言う資格はない。何故なら、あなたこの問題解けなかったものね。」
そう月見里さんがいってほほ笑み、俺は苦笑した。
これが推理として成り立ってしまって良いのだろうか、不安でいっぱいです。賛否両論、感想で作者に訴えていただいてけっこうです。