不器量な王女の恋 番外編 -ロンバートの友人-
「不器量な王女の恋」を読んでからどうぞ。
ロンバートの友人は、今日も舞踏会やら音楽会への招待状の山を前にため息をついていた。
友人は、比較的王都の近くに領地をもつ貴族の跡取り息子で、貴族では中の下といったところだ。
父親の領地経営があまり上手ではないようで、年々目減りしていく財産に危機感を抱いていた。
同年代の自分と同じような貴族の跡取り息子たちは、仕事もせずに親からもらった小遣いで遊んで暮らす者が多い。
貴族の二男や三男が、騎士となったり王宮に勤めたりして働いているのを、格好悪いと思っている節があった。
そういう風潮にはついていけず、貴族仲間とは、ある程度の距離を保ちながら付き合いを続けていた。
友人は、自分の小遣いを投資して財産を増やそうと考えた。
それを投資とよぶか、ギャンブルとよぶかは、人それぞれではある。
そして、投資を募る説明会の会場でロンバートと知り合った。
ロンバートは友人よりも6歳も年上で、投資の経験も多かった。
知り合った頃、彼はすでに投資の世界では知る人ぞ知る的な存在だった。
どうしてかというと、彼が投資する物件は高い確率で成功するからである。
彼は王都から大分離れたところにある領地の貴族の三男であり、自身の財産もそう多くない。
少額ずつ堅実に投資することで、着実に財産を増やしていた。
見習うべき人物だと思って接触してみると、好感触だった。
来るものはあまり拒まない、去る者は追わないというタイプなのだ。
投資でわからないことを質問すると、丁寧に説明してくれた。
なんとか自分の財産と呼べるまでに増やせたのは、彼のおかげだと思っている。
友人は、20歳を過ぎた頃から、将来の伴侶を探すべく舞踏会などに出席していた。
男性より女性の人数が少ないのだから、より多く女性と知り合う機会を逃すわけにはいかないからだ。
そんな場でもない限り、親族以外の貴族女性と知り合う機会はない。
自分の家の存続のためにも、伴侶を見つけることは人生で必須事項である。
だが、ロンバートは、その義務を負わないせいか、結婚には積極的ではない。
彼の元に招待状が届かないということもある。
彼は田舎の実家とは折り合いが悪いようで、社交界と付き合いがないのである。
社交界とは違うところで知り合う女性と、何人か付き合っていたこともあったが、去る者は…ということで長続きしない。
誠実でいいやつなのだが、女性に対してはもう少しサービス精神を発揮してもらわないと。
彼が30歳になった時、こいつは放っておいたら、一生一人に違いないと思い、舞踏会へ引っ張り出すことにした。
友人自身も、すでに伴侶探しに疲れていたというのは、ある。
何人かの女性とそれなりの仲にはなるのだが、結婚の決め手になるものがない。
それを繰り返すのは、結構、疲れるのだ。
ロンバートを連れて舞踏会へ出席したが、成果は芳しくなかった。
気安く話しかけられる雰囲気ではないため、女性に声をかけても話が弾まない。
ロンバート、会話を弾ませる努力をしろよ!と思うのだが、なかなか。
翌年には、ロンバートは最初から全く意欲がない状態だったが、なんとか引っ張り出し続けた。
そんなある日、ロンバートの状態が急浮上した。
いきなり出席に意欲を示し、女性達にも明るく声をかけるようになったのだ。
何事かとロンバートに尋ねたが、
「心を入れ替えたんだ。数をこなせばなんとかなるかもしれないからな」
との答えだった。
とりあえず、前向きになったのはいいことだ。
と思えたのは、ほんとうに短い間だった。
よりによってロンバートは王女に恋をしてしまったらしい。
王女の周りは、最上ランクの貴族達が取り囲んでいて、近寄ることもできないというのに。
王女が結婚するという噂が出てから、ロンバートは全く舞踏会に出なくなった。
そして、今まで以上に、仕事に精を出しているようだった。
しばらく、そっとしておくことにした。
夏も過ぎた頃、ロンバートから話したいことがある、と連絡がきた。
あれから何か月もたったことだし、心境もかわったことだろうと、のんびり構えていた。
そうして久々に訪ねてきた彼は、連れを伴っていた。
彼の連れは、赤毛で目がぱっちりとした美少女の、元王女、だった。
『こういうことは、先に言っておいてくれ』という心の叫びを口に出すことは出来なかった。
「実は、彼女と結婚することになったんだ」
少し照れたような顔で、ロンバートはそう言った。
お前、溺愛している娘を自慢げに連れている父親にしか見えないぞ、という心の言葉を友人は何とか飲み込んだ。
彼が横に目をやると元王女が彼を見つめて頬を染める。
元王女は彼の腕を離さない。
意外にも、彼女の方が積極的らしい。
”結婚”。そうだろう。わざわざ二人で来るくらいだから。
「お、おめでとう、ロンバート。おめでとうございます、ナファバルアー嬢」
友人は若干頬を引きつらせながら、笑顔でお祝いを述べた。
前情報があれば、もっと素直に喜べたものを。
「いろいろと心配してもらっていたから、真っ先に知らせたかったんだ」
ロンバートはそう言った。心配していたのはわかっていたらしい。
まあ喜ばしいことだし、と、友人は気を取り直す。
「これから、どうするんだ?」
「結婚して、ナファバルアー家に入ることになるんだ。領地の方もこれから忙しくなるし」
娘しかいない貴族の家では、娘の伴侶を家に取り込んで家を存続させる。
舞踏会へ出席する貴族の二男・三男は、大半がそれを狙っている。
だが、そもそも娘しかいない貴族の家自体が少ないのだから、ものすごい競争率なのだ。
それを獲得してしまうとは、投資ができる男は、こんなところも要領がいいらしい。
「二人とも、お幸せに」
友人は妙なところに感心しながら、二人の幸せを祈った。
目の前でいちゃいちゃされれば、余所事を考えたくもなる。
聞きたいことはいろいろあったが、さりげなく互いの手をなでていたり、見つめ合ったりしていた二人を、友人は丁重に追い出した。
心配していたというのに、一転、羨ましいの一色である。
自分も早くあんな可愛らしい伴侶を見つけなければ。
いやいや、二人を見て、伴侶に望むレベルがまた上がってしまった。
なかなか見つからないでいるというのに。
友人は、今日もまた、舞踏会やら音楽会への招待状を開き、伴侶を探すべく夜の予定を埋めていくのだった。