THE FOUR SEASONS LOVE
好きだなんて、一言だって言わなかった。僕はそれでも君とちゃんと互いの気持ちを理解し合ってると思ってた。だから、君の口が
「別れよう」
と言葉を描いたとき、僕には何を言ってるか分からなかったんだ・・・。引き止めることさえできぬまま、君は僕から去っていった。
それが君に対して僕が犯した、最後で最大の過ち。
「付き合ってください」
頬を若干赤らめて、そんな顔を見られないように俯いていた君に初めて僕は”愛しさ”ってものを感じた。
いつだって、そう、君が見せる色とりどりの表情は僕の胸の奥の方をくすぐって、普段とは違う、”何だってできる”、そんな気分にさせるんだ。君が悲しんでるときには、君がその涙から抜け出せるように。君の朗らかな笑みとともにだったら、世界中に平和をもたらすことができる。本気でそう考えてたのが、今考えるととてもばかげていて・・・素敵なことだったんだと心から思う。
その気持ちを初めて感じた季節は「春」。
君と僕の物語が始まったのも、この季節だった。
桜の木の下とか、学校の体育館裏とか、そんな、告白にありきたりな場所じゃあなかったな。ありきたりと言えば、ありきたりなんだが。それは普段の”ありきたり”に突然現れた。
君と僕と友達二人。あの頃はいつもこの仲良し4人組で、どこへ行くのも一緒なくらいだった。あの日はいつもの4人で食事の約束をしてた。それで、たまたま、後の二人が遅れてきたんだったな。
そして、君と
「あいつら遅いな」
みたいないつもの話をしていたときだ。たまたまそばを通ったウェイターが水をこぼしてしまったんだ。それは僕の真正面にかかって、僕からは、まるでずぶぬれお化けみたく水滴が零れ落ちていた。君は急いでいすを立って、僕の濡れた袖を一生懸命に拭いてくれた。
「これで、一応は大丈夫・・・」
そう言って顔をあげた君と僕の顔はいつもの倍以上の近さがあった。目があった瞬間、僕は、らしくもなく、思わず顔をそらしてしまったんだ。
そしたら、君が、聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「あたし、あなたが好き。・・・ずっと前から」
「え?」
思わず聞き返した僕に君ははっきりと言ったんだ。
「付き合ってください」
って・・・・・。
それから僕らはいくつもの季節、一緒だった。
・・・いや、そう思っていたのは僕だけかな。
いつからか、君は、僕に距離を感じていた。・・・もしかしたら、最初から。
そうだ、でも、あの時だけは、君と僕の気持ちはぴったり重なっていたって確信できるよ。あの、晴れた、暑い夏の中でも特に暑い日だったね。
「ねぇ、お祭りいこっ」
君はいつも僕にものを頼むとき、上目使いに僕を見上げる。そんな仕草されたら誰だってたまらないに違いないのに。このときだってそう。僕を見上げながら甘えた声で首をかしげた君への、僕に残された答えは一つ。
「しょうがないな」
と言いつつ、待ち合わせの場所に来た君に見とれずにはいられなかった。長い髪をいつもと違ってアップにして、少し暗めの紺を地にした金魚模様の浴衣姿。
「お待たせ」
君の言葉が聞こえないほど、僕は君に見入ってた。それを見た君は、少し意地悪い笑みを浮かべ、
「見とれてんの??」
と僕の顔を覗き込んだ。
「ああ」
その時だけは、素直にそう答えてしまった。だって、本当にこの世のものとも、ましてや、いつも僕の横にいる彼女だなんて思えないほど綺麗だったんだ。
そしたら、照れたような、驚いたような顔の君がその後、にこって笑ったのを覚えてる。。その笑顔は君の笑顔の中でも最高級品だったと思う。
二人は屋台の光が導く人ごみの中をどちらからともなく手をつなぎながら、境内の方に向かって歩いた。途中の河の水面には、まるで蛍の光のように、遠くの星たちが移って揺らめいていた。それを見た君は、「きれい」としばらく眺めてた。そんな君に僕は「君の方が綺麗だ」なんてキザでロマンチックな台詞、言えたらどんなによかっただろう。だけど、そんなことを口に出す勇気はない。その時の僕にも、今の僕にも。
「行こうか」
そう言った僕に名残惜しそうにだが、君はついて来た。そしてまた人ごみに。
「何か食べる?」
しばらくして僕は隣に問いかけた。・・・だが、返事がない。
横を見た僕は一瞬にして青ざめた。
君がいない。
あの河のほとりでつないだ手を離してしまっていたんだ。気づいたときにはもう遅い。あせった僕、急いで人ごみを掻き分け、君の姿探した。
君を失った時の気持ち、このとき経験していたのに、なぜ君が本当に僕の元を去ってしまわないようにできなかったんだろう。きっと、君を見つけてほっとしたとき、それまでの胸が詰まるような気持ちをまた奥に押しやってしまったんじゃないかな。
君はさっきの河のほとりで、まるで迷子の子供のように泣いていた。
あまりに儚げで壊れそうだった君の姿。思わず、そっと抱きしめた。まるで割物を扱うように、そっと。
「気がついたら、あなたがいなくて。そしたら、なんでだろう?胸がぎゅーってなったの」
僕の腕のなかで君は呟く。僕はそれを黙って聞いた。しばらくの沈黙。そして、また君が口を開いた。
「離れたくない。あなたとずっと一緒にいたい。この手を離さないで」
その時の君は触れると崩れて風になってしまいそうな夢みたいだった。君はこんな可憐でしおらしくはなかったはずだった。・・・このときまでは。
こんな君の新たな一面を見せ付けられた暑い夏の日。そっと彼女に口づけをする。綿飴のザラメとりんご飴の味がした。そして、このキスと共にもう二度と離しはしない、そう誓ったはずだった。
最後の秋。
もう君は僕に”愛してる?”って訊ねなくなってた。そのことさえ気づきはしなかった僕は馬鹿以外の何者でもない。
ある日、君は焼き芋を買ってきたね。僕の分まで。だけど、僕はそんな君にかまわずに、君が帰ってきたと同時に友達との約束ですれ違いに出かけてしまった。君が買ってきた焼き芋も食べず。
「すぐ帰るから」
そう残して。
僕が帰宅したのはもう外が薄暗くなってから。ふと横目に入ったのはテーブルの上のひとかけも欠けてない冷め切った焼き芋。それはまるで僕に何かを訴えかけているようにも見えた。”もう遅い”と・・・。
僕はそれから目をそむけ、君の姿を探した。すぐ、見つかった。ソファの上、肘掛に寄りかかるようにして眠る彼女。その頬が乾ききってない水分で少しだけ光っていたのを、本当は見つけていたんだ。だけど、卑怯な臆病者はそれを記憶から消し去った。そして、まるで何もなかったかのように、玄関のドアを開け、眠らないネオンだらけの街へとくりだした。
それは、君、いや、彼女の最後のシグナル。
見逃した訳じゃない。寧ろその方がマシだったに違いない。そう、僕は明らかにその存在を否定して、切り捨てたんだ。
そして、今、立ち尽くす僕の頭上から、日が出ているにも関わらず、真っ白な粉雪が。
ねぇ、今君はどこにいるのかな?
離さないでと言っていた君の手、今、他の誰かが握ってあげてるのかな?
その寂しさ埋めること、僕じゃ無理だったけど、きっと誰か現れる。君にふさわしい誰かが。
その願いを込め、僕は、常に君とのたくさんの思い出を共に重ねてきた薬指の指輪を、君の手の温もりと一緒に凍える冬の海へと投げ込んだ。
君に・・・そして願わくば僕にも新たな幸せが待っていますようにと・・・。
駄文で申し訳ございませんでした。最後までお付き合い頂いて本当にありがとうございました。まだまだ初心者なもので、よりよい作品がかけるようによろしかったら評価などお教えください。それでは、また他の物語で逢いましょう。如月綺華




