玉子がゆは、
―――キスはレモンの味、と、誰かが言っていた気がする
いいや、それは違うね
実際には―――
「うぅ……けほけほ」
風邪らしい風邪なんて久しぶりに引いたな……
普段なら少しの熱なら普通に過ごしてる内に治ってたのに。今回のは妙にキツイ。食欲も出ないくらいだ。
そんな時、
「おっまたせ〜!」
扉が力いっぱい開かれて部屋の中に入ってきたのは、俺の幼なじみ。小学校からの腐れ縁で、別の高校になった今でもこうしてよく部屋にずかずか入ってくる。
「けほ……何か用か?」
風邪気味の中にコイツの元気な性格は若干キツイ。
「叔母さんから聞いたよ! だからね、おかゆ作って来たんだ!」
よく見れば手にはお盆、その上には土鍋が鎮座している。
「……両手塞がってんのにどうやって扉開けた」
「細かいことは気にすんな!」
……正直追求も面倒だから二度は訊かない。
「さぁさぁ、熱い内に食べて食べて!」
お盆は机の上に置かれて土鍋の蓋が開かれた。途端に湯気が上がり出来立て熱々と分かる。
レンゲが差し込まれ、一掬いされたものが俺の口元に、
「はい、あ〜ん」
そんなこっ恥ずかしい事が出来るか。というかそもそも……
「……ムリ、食欲無い」
何も食べる気になれない。
「おかゆだよ?」
「それでもムリ」
「玉子がゆだよ?」
「ムリだって」
というかあまり変わらない。
「何か食べなきゃ、よくならないよ」
「分かってるけど……けほ、今はムリ」
「でもさぁー……」
やれやれ……とんだ世話焼きだな……
……本当に、何で俺は、こんな世話焼きを……
「ふむぅ……仕方ないなぁ……」
何を思ったのか、レンゲの中身を自分の口の中に入れた。
そしてレンゲを置き――-
「んっ……」
「!?」
身体が上手く動かないのをいいことに、予期せず口の中に入ったそれを俺は飲み込むしかなかった。
「! おま、今何して……!」
「だって、何か食べないと薬も飲めないでしょ?」
そりゃそうだが、今のってつまり……
「はやくよくなるといいね!」
そういって病気と無縁な笑顔を浮かべた。
「……おう」
―――キスは、玉子がゆの味がする
電車の中、ある看板に書かれていた一言を見て思いついた作品です。
楽しんでいただれば幸いです。感想及び評価、お待ちしています。
それでは、