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若干の日程のずれがあります。筆者の残念な勘違い(6月には31日が存在する)とスピード不足(30日のうちに投稿することを失敗)により本当ならば、実際の7月1日から本戦だったのですが。。。


「坊ちゃま。今日は偽者でしたが──明日は偽者ではありません」


 言われた言葉を噛み締める。

 そうだ。ルミは明日から魔王候補として戦う。

 いまだにばかばかしい夢を見てるんじゃないか、という思いもぬぐえないが、この二日間の奇妙奇天烈な現象が、俺の認識を後押しする。

 

「心得違いがあれば、あの「寄木細工」はサルミスラ様の明日の姿です」


 ベルの言う「心得」とはなんだろう。

 俺はルミを守るつもりだ。その思いが嘘だなんて誰にも言わせない。

 俺は吐き出すように言った。


「父さんと、母さんは、降参してもいいって言ったぞ」


「ある程度の力を示さねばそもそも会話が成り立ちません」


 ベルがばっさりと俺の甘さを切り捨てる。

 俺は唇を噛んだ。


 それでは、とお辞儀をしたベルはいつのまにか左右にセネとエルを抱えている。


「そのたち、大丈夫なのか」


 何言ってるんだ。傷つけたのは俺なのに。殺そうとしたのに。

 

「丈夫でございますし、生きております。しばらくお屋敷に置かせていただきますので、お時間がありましたら見舞ってやってください」

 

 ここを出るには、行きたい所を念じて歩けばよろしいのです。


 そう言いながらベルはすたすた歩いていき、姿を消した。





 なんつーアバウトな。


 暗闇にひとり取り残された俺は少し考え込む。なにか考えながら歩くのは得意じゃない。

 今、俺はどこへ行きたいんだろう。


 決まってる。

 ルミの側へ。

 ぼろぼろに崩れていくんじゃない、生きている生身のルミのそばへ。


 俺は意思をこめて足を踏み出し、何歩か歩く。

 

 徐々に、暗闇が薄くなっていくのがわかる。

 そうして俺は唐突に光のある場所にと辿り着いた。





「いやぁぁぁぁぁぁっっっ」


 たいして広くもない風呂場に絶叫が響く。

 痛くも痒くもない適温な温水がバシャバシャ俺に浴びせかけられる。

 片手でシャワーヘッドを振り回しながら片手で胸部を庇っているのはルミだった。


 どうやら俺は自宅の風呂に躍り出てしまったようだ。

 何故かといえば多分そこにルミがいたから、なのか。


 俺は状況を吟味することも忘れて、ただただ無事なルミを見つめてしまった。

 全裸の妹を見つめる俺には、ヨコシマな気持ちなんてかけらもない。ないったらない。

 ただ、相変わらず白いな、とか、成長してないな、なんて感慨が湧いただけだ。


「バカバカバカっ!シンぃのバカぁーっ!」


 ルミは出しっぱなしになった湯を止めもせずに風呂場から飛び出していった。

 力一杯風呂の戸が閉められる。


 昨日の夜俺に足をなめさせたのはどこのどいつだ。

 えらく夜と昼で性格が違う。


 ん?夜と昼で性格が違う?──ん?


 まあでもなんだ。ルミは無事だ。そのまんまだ。

 俺はさっきのぼろぼろと崩れていくルミのイメージを頭から振り払った。


 びしょびしょになったついでに俺も昨日の朝から浴びたかったシャワーを浴びよう。

 濡れた衣服を自分から剥ごうとして、驚いた。


 腕から先がえらく筋肉質になっていてしかも爪が出ている。


 これ戻らないのか?


 エルやセネのように毛皮こそまとっていないが、これは相当違和感がある。


 よくよくみれば足先もだ。筋や腱が盛り上がって、あり得ない感じの外見だ。


「おいおいおい……」


 これ箸が持てないんじゃ?

 などと思い始めた途端ぞくぞくと悪寒が走って、ゆっくりとではあるが手足が通常の形を取り戻し始めた。


 ふむ。とりあえず自分を引っ掻かないように服を脱ぎ捨て、脱衣所に放り込む。

 体をあちこち調べるが、わんこ少女たちからのダメージは残っていないようだ。


 ざっと体を洗って風呂場を出て、俺はタオルを巻いたまま自分の部屋にもどった。




 長い時間あの暗闇にいたようでそうでもなかったようだ。

 まだ四時。日差しは時計が示す時刻を裏切ってぎらぎらと輝いていた。

 ここでぐだぐだしても仕方ない。

 今日の夜からのことも考えて、一番履きなれたジーンズと動きやすいTシャツに着替える。

 

 俺は部屋を出て廊下をはさんだすぐ向かいの扉をノックした。

 

「ルミ」


 返事はない。


 気配はする。


 ひょっとして怒ってるのか。風呂場に飛び込まれれば怒るか。年頃だし。


「開けるぞ」


「や」


 反射的な返事が返ってくる。


 困った。


「悪かった」


 謝りながら扉に額をつける。

 お前が心配だったから、とか、無事な姿がみたかった、だとか。

 そんなのあの場であったことを知らないルミに言っても仕方ない。


 扉の向こうから緊張が伝わってくる。

 俺は言葉を重ねた。


「話が、したい」


 顔がみたい。できれば抱きしめてそのぬくもりを味わって、生きてるお前を実感したい。

 そして血を流して崩れ去ったあれを早く頭の中から消してしまいたい。

 

 でもそんなことは言えない。


 変態くさい。


 昨晩という前科もある。


「なんで」


 声が近づいた。


 すぐ扉の向こうにルミがいるのがわかる。

 扉という板一枚挟んで俺とルミは向き合っている。


「なんでって、今日ってか十二時からだろ。作戦とか」


 俺は何言ってるんだろう。

 扉ごしではなにも伝わらない。匂いも、温度もわからない。

 思ってもないことを言って、ルミの興味をひきたいだけだ。


「うそつき。さっさと負ければいいと思ってるくせに」


 何故だろう。扉の向こうで、ルミが泣いているのがわかる。

 頑張り屋で、負けず嫌いで、小さな体でいつだって一生懸命な俺の妹。


 俺のことをわかりすぎるほどわかっている。


 いつだって無理をさせないように庇ってきた俺の行動方針をルミが見抜けないはずがないのだ。

 俺は、何を言えばいいのかわからずに、固まった。


 まずい。


 何か言って誤魔化さねば、ルミの言ったことが正しいと認めたようなもんだ。

 しかし、悲しいことに口げんかで勝ったことは一度もない。

 というか手をあげたこともないので、ルミ対俺の喧嘩は常にルミの勝利という結果しかもたらさないのだ。


「いいもん。夜になったらシンぃの力なんか全部吸い取って、一人であっち行くんだもん」


 待て。


 内容につっこむべきなのか、泣いてる事をどうにかするべきなのか、さっきの失言をフォローするべきなのか。

 

 勘弁してくれ。俺は同時にいくつものことを考えると頭がパンクしてしまう人なのだ。

 

 うん。というかパンクした。


 考えが追いつかなくなった俺がしたのは、無理やり扉を引き開けることだった。


 扉にもたれていたのだろう。「あっ」と言いながら手前によろめくルミを受け止める。


 俺は昨夕、ルミに触れたらどうなったかってことをすっかり忘れていた。


 

 はからずも抱き止めたルミは、まだバスタオル一枚のままだった。

 触れたそばから背筋がぞくぞくして、ぼんやりと昨夕の多幸感がよみがえる。

 ほわほわと暖かい気持ちが湧き上がってきて、切ない。


「ルミ……」


 抱きとめる寸前に見てしまった。目を真っ赤にしている妹。俺か。俺が泣かせたのか。

 ごめんな。ほんと自分を殴りたい。

  

 表情はみえなくなったが、白い肩はまだ震えている。


 すんすんとすすりないているルミが、可哀そうで可愛くて愛しくて。

 


 俺はそっと、まだしめっている髪に口づけた。



 本当はおでこにしたかったが、身長差でどうにもならない。


 ルミはまだ泣いているのに、何故か幸せな気持ちがふくれあがってくる。これはいったいなんなんだろう。

 暗闇の中と同じく、急速な自分の感情の変化にとまどう俺が二つに分離していく。


 両腕に力をこめて、この白く細い体を自分の内に閉じ込めて、流す涙もすすりたい、というド変態な俺と、

 このままでは昨晩の二の舞になり、今日ルミを守ることが不可能なことになってはまずい、という俺。


 どちらも俺だ。


 これはなんだ。


 俺の過剰な愛情表現=頭にチュー、に照れたのか、それとも怒ったのか、ルミの体温が上昇していく。


 なんだかまずい。愛しいという気持ちが、あとからあとから、いくらでも──


 温かい血が通った体から、俺は、機械人形のようにぎくしゃくとまず右腕を引き剥がし、意思をこめて左腕を引き剥がす。


 はたからみればロボットダンスだ。


「服を着たら呼んでくれ」


 磁石のように引き寄せられながらも、俺はゆっくりゆっくりと後ずさり、なんだか驚いた顔をしているルミに声をかけ、自分で開けた扉を静かに閉じた。




 頑張った。俺は頑張った。


 


 何を?






 


 

 





 



きゃーのびたさんのえっちーがやりたくって。

こんな瑣末なシーン書いてるばあいじゃないんですが。


主人公が若干こどもっぽい気がします。高3でなく中2なような。

誰か読んでくれてますでしょうか。助言を。助言をぷりーず。

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