第9話「アルディア様に全部話した」
嘘をつき続けるのが、しんどくなってきた。
この世界が特別な場所だということ。前世の記憶があること。ゲームのことを知っていること。
セバスチャンには少しだけ話した。でも全部は言えなかった。
アルヴィン王子には話せない。クロードには話せない。
でも、アルディア様になら話せるかもしれないと思ったのは、なぜだろう。
「アルディア様、少し時間をもらえますか」
放課後、二人きりで中庭のベンチに座った。
「改まって、どうしましたか」
「変なことを話します。信じなくていいです。でも聞いてほしくて」
アルディア様が、静かに頷いた。
「聞きます」
「私……この世界に来る前の記憶があります。別の場所で生きていた記憶が」
アルディア様が目を細めた。
「続けて」
「その場所では、この世界は物語の中にありました。乙女ゲームという、恋愛のゲームで。私はそれを知っていて、この世界に来ました」
沈黙。
「ゲームの中では、私がヒロインで、アルヴィン王子とクロード様とセバスチャン様が攻略対象でした。私が三人と恋愛するお話でした」
「……なるほど」
「アルディア様は、そのゲームでは悪役令嬢でした。私をいじめて、最後に断罪されるキャラクターで」
「そうですか」
アルディア様の顔は変わらなかった。驚いていないのか、驚きを出さないのか。
「信じますか」
「信じます」
「え、即座に?」
「あなたが嘘をつくような人じゃないのは分かっています。それに」アルディア様が少し笑った。「私にも、似たような事情があるので」
「え」
「私も、前世の記憶があります。この世界とは違う場所の」
「……え?」
「ゲームの存在も知っています。私がやっていたゲームなので」
リリアは固まった。
「つまり」
「つまり、私たち、同じ側から来ているのかもしれません」
「……うろ覚えでしたよね」
「ええ、酷くうろ覚えで。あなたのことも、花っぽい名前のヒロインがいたとしか覚えていなかった」
「リリア・ベルです」
「花の名前でしたね、やっぱり」
二人で顔を見合わせて、それから同時に笑った。
こんなに笑ったのは、この世界に来て初めてかもしれなかった。
「じゃあ」リリアは言った。「アルディア様は、クロード様のことも、ゲームで知っていたんですね」
「知っていました。でも、実際に会ったら全然ゲームと違って」
「違いますよね!」
「全然違う。ゲームより、ずっと」
アルディア様が少し照れたように言葉を止めた。
「ずっと?」
「……ずっと、いい人で」
(自覚、あったんだ)
「アルディア様」
「何ですか」
「好きなんですよね、クロード様のこと」
アルディア様がしばらく黙った。
それから、静かに答えた。
「……多分、そうです」
初めて認めた。
リリアは、胸の中が温かくなった。
「伝えてください」
「怖い」
「私が応援します」
「なぜそこまで」
「友達だから」
アルディア様が、また笑った。
今度は、とても柔らかい笑顔だった。
◇
──リリア・ベルの日記より。
『アルディア様も転生者だった。しかもうろ覚えで転生していた。全部話したら全部分かり合えた。この人と友達になれてよかった。今日が、この世界で一番いい日かもしれない』
次話:「クロードが動いた」




