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ヒロインだったので、攻略対象を全員アルディア様に取られました  作者: 夜凪 蒼


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8/9

第8話「セバスチャンの秘密」

セバスチャンが礼拝堂でいつも一人でいる理由を知ったのは、偶然だった。


 本を返しに行ったら、礼拝堂の裏でセバスチャンが小さな子供たちに囲まれていた。


 孤児院の子供たちだと後で分かった。定期的に礼拝堂に来る子供たちに、セバスチャンは本を読み聞かせていたらしい。


 「……見ていたのか」


 気づかれた。


 「すみません、通りかかっただけで」


 子供たちがセバスチャンの袖を引いた。「おにいちゃん、つづきは?」


 「少し待て」


 セバスチャンが私を見た。


 「誰にも言うな」


 「言いません。でも、なぜ隠すんですか」


 「神官見習いが子供の相手をしていると知れると、軽く見られる」


 「軽く見られるより、知られた方がよくないですか。素敵なのに」


 セバスチャンが少し固まった。


 「……素敵?」


 「子供たちがこんなに慕っているんですから」


 セバスチャンは何も言わなかった。代わりに、子供たちに向き直って本の続きを読み始めた。


 私はその横に座って、一緒に聞いた。


 セバスチャンの読み聞かせは、声が穏やかで、子供たちが引き込まれていくのが分かった。ゲームで「ミステリアス」と説明されていたキャラが、こんなに温かい場所にいた。


 設定と違う。でも、これが本当のセバスチャンなんだと思った。




 子供たちが帰った後、二人で礼拝堂のベンチに座った。


 「なんで、こういうことをしているんですか」


 「昔、俺も孤児だった」


 静かな告白だった。


 「神官に拾われて、育ててもらった。だから、似たような子供たちに何かしたいと思った」


 「……ゲームでは、そういう設定じゃなかった」


 「え?」


 しまった。


 「いえ、なんでも」


 セバスチャンが少し首を傾けた。


 「君は時々、変なことを言う」


 「すみません」


 「謝らなくていい。気になるから言っているんだ」


 (また気になると言った)


 「セバスチャン様」


 「何だ」


 「私も、秘密があります」


 「聞いてもいいか」


 「この世界が……私にとって、特別な場所で。生まれた場所とは、少し違うんです」


 精一杯の告白だった。転生とは言えない。でも嘘もつきたくなかった。


 セバスチャンはしばらく黙って、それから言った。


 「俺にも、うまく説明できない部分がある。育った場所と、今いる場所が、違う気がすることが」


 「それって」


 「孤児院と神官学校、育った環境が違いすぎて、どこにいても少しだけ違和感がある。そういう意味だ」


 「……私も、そういう感じです」


 「なら、似ているかもしれない」


 セバスチャンが、また小さく笑った。


 「君といると、楽だ」


 「なぜですか」


 「合わせなくていい気がするから」


 (合わせなくていい)


 それは、とても大事な言葉だと思った。




    ◇


 ──リリア・ベルの日記より。


 『セバスチャン様の秘密を知った。孤児院の子供たちに本を読み聞かせていた。ゲームの設定にはなかった。この世界のセバスチャン様は、ゲームより100倍いい人だった。どうしよう』




次話:「アルディア様に全部話した」

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