第8話「セバスチャンの秘密」
セバスチャンが礼拝堂でいつも一人でいる理由を知ったのは、偶然だった。
本を返しに行ったら、礼拝堂の裏でセバスチャンが小さな子供たちに囲まれていた。
孤児院の子供たちだと後で分かった。定期的に礼拝堂に来る子供たちに、セバスチャンは本を読み聞かせていたらしい。
「……見ていたのか」
気づかれた。
「すみません、通りかかっただけで」
子供たちがセバスチャンの袖を引いた。「おにいちゃん、つづきは?」
「少し待て」
セバスチャンが私を見た。
「誰にも言うな」
「言いません。でも、なぜ隠すんですか」
「神官見習いが子供の相手をしていると知れると、軽く見られる」
「軽く見られるより、知られた方がよくないですか。素敵なのに」
セバスチャンが少し固まった。
「……素敵?」
「子供たちがこんなに慕っているんですから」
セバスチャンは何も言わなかった。代わりに、子供たちに向き直って本の続きを読み始めた。
私はその横に座って、一緒に聞いた。
セバスチャンの読み聞かせは、声が穏やかで、子供たちが引き込まれていくのが分かった。ゲームで「ミステリアス」と説明されていたキャラが、こんなに温かい場所にいた。
設定と違う。でも、これが本当のセバスチャンなんだと思った。
子供たちが帰った後、二人で礼拝堂のベンチに座った。
「なんで、こういうことをしているんですか」
「昔、俺も孤児だった」
静かな告白だった。
「神官に拾われて、育ててもらった。だから、似たような子供たちに何かしたいと思った」
「……ゲームでは、そういう設定じゃなかった」
「え?」
しまった。
「いえ、なんでも」
セバスチャンが少し首を傾けた。
「君は時々、変なことを言う」
「すみません」
「謝らなくていい。気になるから言っているんだ」
(また気になると言った)
「セバスチャン様」
「何だ」
「私も、秘密があります」
「聞いてもいいか」
「この世界が……私にとって、特別な場所で。生まれた場所とは、少し違うんです」
精一杯の告白だった。転生とは言えない。でも嘘もつきたくなかった。
セバスチャンはしばらく黙って、それから言った。
「俺にも、うまく説明できない部分がある。育った場所と、今いる場所が、違う気がすることが」
「それって」
「孤児院と神官学校、育った環境が違いすぎて、どこにいても少しだけ違和感がある。そういう意味だ」
「……私も、そういう感じです」
「なら、似ているかもしれない」
セバスチャンが、また小さく笑った。
「君といると、楽だ」
「なぜですか」
「合わせなくていい気がするから」
(合わせなくていい)
それは、とても大事な言葉だと思った。
◇
──リリア・ベルの日記より。
『セバスチャン様の秘密を知った。孤児院の子供たちに本を読み聞かせていた。ゲームの設定にはなかった。この世界のセバスチャン様は、ゲームより100倍いい人だった。どうしよう』
次話:「アルディア様に全部話した」




