第7話「ヒロインの私が、誰かを応援している」
アルディア様が悩んでいるのに気づいたのは、中庭でばったり会ったときだった。
ベンチに座って、空を見上げていた。いつもの完璧な表情ではなく、少しだけ遠い目をしていた。
「アルディア様、大丈夫ですか」
「……リリア。ええ、大丈夫よ」
「大丈夫じゃなさそうです」
アルディア様が少し笑った。
「あなたは正直ですね」
「昔から、顔に出やすいと言われます」
「私は逆。出にくいと言われる」
「出てますよ、今」
「え」
「目が、少し疲れています」
アルディア様が黙った。
私は隣に座った。
「話せないですか」
「……少し、複雑で」
「聞くだけなら、できます」
しばらく沈黙が続いた。
「クロードのことなの」
「クロード様の?」
「最近、なんか……近いのよ。いつも以上に。それが、なんというか」
「嬉しいですか」
「……分からない。嬉しい、のかな。でも怖くもある」
「怖い?」
「近くにいてもらうのに慣れたら、いなくなったとき辛いから」
(この人、ずっとそうやって一人で抱えてきたんだ)
「アルディア様」
「何?」
「クロード様は、どこにも行かないと思います」
「根拠は」
「あの人の目が、ずっとアルディア様を追いかけているから」
アルディア様が、少し頬を染めた。
「……それは、幼なじみとしての」
「違うと思います」
「リリア、あなた、はっきり言うのね」
「ごめんなさい、出すぎたことを」
「謝らなくていい」アルディア様が少し笑った。「……あなたに言われると、信じたくなる」
「信じてください」
「なぜそんなに」
「アルディア様に、幸せになってほしいから」
アルディア様が目を丸くした。
「……なぜ」
「友達だから」
短く答えたら、アルディア様がしばらく黙った。
それから、静かに言った。
「ありがとう、リリア」
アルディア様の声が、いつもより柔らかかった。
その夜、布団の中で考えた。
私はヒロインだ。攻略対象との恋愛がメインストーリーのはずだ。
でも今日一番、心が動いたのは、アルディア様が「ありがとう」と言ってくれた瞬間だった。
(私、アルディア様のことが好きなのかもしれない)
恋愛的な意味ではなく。でも、この人のそばにいたいと思う。この人が笑っていてほしいと思う。
(友達って、こういうことかな)
前世でも今世でも、こんなふうに思える友達はいなかった。
(これも、この世界に転生した意味かもしれない)
セバスチャン様との恋愛も大事だ。
でも今夜は、アルディア様とクロード様がうまくいきますようにと、星に願った。
ヒロインが攻略対象じゃなく悪役令嬢の恋を願うのは、ゲームの設定から外れているかもしれない。
でも、構わない。
◇
──リリア・ベルの日記より。
『アルディア様と話した。この人のことが好きだ。友達として。でも友達という言葉だけじゃ足りない気もする。なんて言えばいいか分からないけど、大事な人だ』
次話:「セバスチャンの秘密」




