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ヒロインだったので、攻略対象を全員アルディア様に取られました  作者: 夜凪 蒼


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6/8

第6話「セバスチャンが話しかけてきた」

セバスチャンが自分から話しかけてきたのは、入学から三週間後だった。


 礼拝堂の前のベンチで本を読んでいたら、隣に座ってきた。


 「ここ、いいか」


 「どうぞ」


 セバスチャンは本を開いた。私も本を読んだ。


 しばらく二人で静かに読んでいた。


 (これ、ゲームの「静かな時間を共有するイベント」だ)


 ゲームでは、この後セバスチャンが本の話を始めて、距離が縮まる。


 待った。


 五分待った。


 十分待った。


 「……その本、面白いか」


 来た。


 「面白いです。主人公が最初は孤独なんですけど、少しずつ周りと打ち解けていく話で」


 「そうか」


 「セバスチャン様は、どんな本が好きですか」


 「歴史書が多い」


 「難しそうですね」


 「事実だけ書いてあるから、楽だ」


 「物語は好きじゃないですか」


 セバスチャンが少し間を置いた。


 「……好きか嫌いかで言えば、好きだ。ただ」


 「ただ?」


 「感情移入しすぎて疲れる」


 (感情移入しすぎる人だったんだ)


 ゲームでは「クールで感情が読めない」と説明されていたが、実際は逆らしい。感じすぎるから、出さないようにしている。


 「それ、分かります」


 「君も?」


 「周りのことを考えすぎて、疲れることがあります」


 セバスチャンが静かにこちらを見た。


 「例えば」


 「例えば……アルディア様とクロード様のこととか」


 「あの二人の?」


 「明らかにお互いのことが好きなのに、二人とも気づいていなくて。もどかしくて」


 セバスチャンが少し笑った。初めて見る笑顔だった。小さくて、でも確かな笑みだった。


 「君は、面白い人だな」


 「よく言われます」


 「褒めている」


 「ありがとうございます」


 「俺もあの二人のことは気になっていた」セバスチャンが言った。「傍から見ると明らかだが、当事者には見えない。よくあることだ」


 「セバスチャン様は、ご自身のことは見えますか」


 「……また、その質問か」


 「気になるんです」


 セバスチャンはしばらく黙った。


 「見えている、と思う。ただ」


 「ただ?」


 「見えていても、言葉にするのが遅い。それが俺の悪いところだ」


 (自覚している)


 「ゆっくりでいいと思います」


 「なぜ」


 「待てる人もいますから」


 セバスチャンが、また小さく笑った。


 「……君は、不思議な人だ」


 「それも、よく言われます」


 二人でまた本を読んだ。


 今度の沈黙は、最初より温かかった。




    ◇


 ──リリア・ベルの日記より。


 『セバスチャン様が自分から話しかけてきた。好感度、確実に上がっている。「言葉にするのが遅い」と自覚していた。待ちます。私は待てるヒロインです』




次話:「ヒロインの私が、誰かを応援している」

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