第5話「アルディア様は自覚がない」
アルディア様と一緒に歩いていると、よく分かることがある。
この人は、自分がどれだけ注目されているか、全然気づいていない。
廊下を歩けば視線が集まる。令嬢たちが「あの方、綺麗ね」とひそひそする。男子生徒が道を空ける。アルヴィン王子が廊下の端から目で追う。クロードが三十秒に一回こちらを確認する。
アルディア様は全部気づかずに「今日の図書室の新着、何かしら」と考えている。
(無自覚すぎる)
「アルディア様」
「何ですか」
「みんな、アルディア様のことを見ていますよ」
「……気のせいでは」
「気のせいじゃないです。今も王子様が見てました」
アルディア様が少し顔をしかめた。
「それは職場の上司として確認しているのでは」
(職場の上司)
「王子様のことを上司と呼ぶんですか」
「呼んでいます。主任と」
「主任……」
「業務上の関係ですから」
(業務上の関係、と言い張っている人の頬が少し赤い)
(自覚がないのか、認めたくないのか)
別の日、クロードと三人で中庭にいた。
クロードがアルディア様に話しかける。アルディア様が返す。クロードが笑う。
私はその横で、観察日記をつけていた。
「リリア、何してる」クロードが気づいた。
「観察です」
「何の」
「二人の」
「え」
「お似合いだなと思って」
クロードが固まった。アルディア様も固まった。
二人同時に固まった。
(両方自覚ないのか)
「そんなことはない」アルディア様が言った。
「そうだな、俺たちは幼なじみだから」クロードが言った。
(幼なじみという言葉で誤魔化している)
「そうですか」
「そうだ」
「分かりました」
分かっていないが、引き下がった。
二人の恋愛に関しては、本人たちが一番進んでいないので、外野がどうこうできる問題ではない。
セバスチャンと話したとき、同じ話をした。
「アルディア・クレシェントのことか」
「二人とも自覚がないんです。周りから見たら明らかなのに」
セバスチャンが少し考えた。
「当事者は見えにくいものだ」
「セバスチャン様は見えますか、自分のこと」
「……何の話だ」
「自覚があるかどうか」
セバスチャンが静かにこちらを見た。
「何の自覚だ」
「なんでもないです」
「……君は、時々意味深なことを言う」
「そうですか?」
「ああ。気になる」
(また気になると言った)
セバスチャン様は「気になる」という言葉をよく使う。ゲームでも、心を開いた相手への最初の言葉が「気になる」だった。
(これは、好感度が上がっている)
「私もセバスチャン様のことが気になります」
「そうか」
セバスチャンが、ほんの少し表情を緩めた。
(進展した気がする)
アルディア様とクロードの恋愛が停滞している分、こちらで頑張ろうと思った。
◇
──リリア・ベルの日記より。
『アルディア様、完全に無自覚。クロード様も無自覚。二人とも自覚したら秒でくっつくのに。なぜ気づかない。一方セバスチャン様との関係は順調。私の恋愛だけが正常に進んでいる。ヒロインらしくなってきた気がする』
次話:「セバスチャンが話しかけてきた」




