第2話「攻略対象その一、完全にアルディア様を見ている」
観察を続けた。
ヒロインとして、攻略対象の好感度を上げなければならない。そのためにはまず、現状把握が必要だ。前世のゲームプレイ経験が活きるときが来た。
アルヴィン王子の行動パターンを三日間記録した。
結果。
午前:執務。ただし廊下でアルディア様とすれ違うと足を止める。
昼:図書室。アルディア様がいると同じテーブルに座る。
午後:また執務。アルディア様が書類を整理しているのをちらちら見る。
夕方:帰り際にアルディア様に一言かけて帰る。
(一日に何回アルディア様のことを見てるんですか)
私との接触は、廊下で会ったとき「ベル嬢」と名前を呼んでくれた一回だけだ。
正確に言うと、アルヴィン王子は私のことを「可もなく不可もない存在」として認識している気がする。悪意はない。ただ、興味がない。
(ゲームではこの時点で好感度イベントが三回起きているはずなのに)
作戦を立てた。
ゲームの攻略知識を使う。アルヴィン王子は本が好きだ。図書室で本の話をすれば好感度が上がる。確かそういうイベントがあった。
図書室に行った。
アルヴィン王子がいた。そしてアルディア様もいた。
二人は同じテーブルに向かい合って、それぞれの本を読んでいた。
話しかけるタイミングが、ない。
(なんでそんなに自然に一緒にいるんですか)
仕方なく別のテーブルで本を読んだ。
一時間後、アルヴィン王子がアルディア様に何か話しかけた。アルディア様が答えた。王子がわずかに笑った。
(笑った。あの無表情の王子が笑った)
私はそっと席を立った。
今日は撤退だ。
廊下でクロードに会った。
「リリア、どうした、暗い顔して」
「ちょっと考え事を」
「何か困ってるか?」
(困ってる。でも「攻略対象に興味を持ってもらえない」とは言えない)
「図書室に行ったら、思ったより混んでて」
「ああ、あそこ最近アルディアもよく来るからな」
「アルディア様と、よく話すんですか」
「ずっと幼なじみだから」
「仲いいですね」
「まあな」クロードが少し表情を和らげた。「昔から、あいつは一人で抱えすぎるから。隣にいてやりたくて」
(隣にいてやりたくて)
(これは、もう完全に)
「クロード様、アルディア様のこと、好きなんですか」
クロードが少し固まった。
「……そういう話か」
「違いますか」
「難しい質問だな」クロードが頭をかいた。「お前、鋭いな」
「否定しないんですね」
「……するのも違う気がして」
(やっぱりそうか)
「応援します」
「え」
「アルディア様のこと。うまくいくといいですね」
クロードが目を丸くした。
「お前、いいやつだな」
「ヒロインですから」
「え?」
「なんでもないです」
とぼけて歩き出した。
(ヒロインが攻略対象の恋を応援してどうするんだ)
でも、嘘をついた気がしなかった。本当に、うまくいってほしいと思った。
(私、何しに転生してきたんだろう)
◇
──リリア・ベルの日記より。
『アルヴィン王子観察記録、三日目。王子の視線がアルディア様に向いている回数:本日14回。私に向いた回数:1回(名前を呼ばれた)。このゲーム、攻略難易度が高すぎる』
次話:「攻略対象その二も、アルディア様一筋だった」




